第27話 支配者

 俺の体力は限界に近かった。レイの剣を避け、タクトの異世界特性オリジナルを避け、時々反撃をする。しかしその反撃も攻撃を避けたあとの不安定な姿勢から繰り出されるため、満足な威力が出ない。


「意外とやるじゃないか。しかしこれでもう終いだな。」

「シン、どうして罪を重ねるんだ。お前だって、同じ転移者だろう?デューオを倒すんじゃなかったのかよ!」


そのデューオが目の前にいるんだと、余裕があれば言ってやっているところだった。しかし今はそんな余裕もない。マキナが出て行ってから10分ほど経過している。それだけ時間があれば彼女も身を隠すことができているだろう。限界が近い俺は膝を付き、最大の仇に俺自身の命も奪われる覚悟を決めた。きっと俺はここの地縛霊になるだろう。・・・悔しい。俺はベティの仇を取ることができなかった。


「覚悟を決めたか。君が殺めてきた全ての命のためにも、私は君をここで討つ。」


レイは剣を高く掲げ、タクトの死角になっているのを良いことに恍惚とした表情を浮かべる。タクトは俺に更生しろと説得を続けている。そしてレイは小声で呟く。


「さようなら。愚かな英雄。」


その時、ヒュウと風を切りながら俺の刀がこちらに向かって飛んできた。レイは身を守るために咄嗟に飛んできた刀を弾いた。すると、刀の鞘に着いていた小袋が破裂し、細かい塵が彼女を包んだ。俺は弾かれた刀を受け取り、構える。


「くっ、なんだコレは・・・!目が!」


レイはその塵が目に入ったようで、両手で何度も目を拭う。扉の向こうにはカールが立っており、彼の足元には縄で拘束されたマキナが気を失っているようであった。逃げたマキナが捕まったのか?だとすればこの刀はなぜ俺の手元に?なんにせよ今が絶好のチャンスであることは間違いがなかった。俺はレイの前まで距離を詰め、抜刀をしようとする。しかし、タクトがその間に入りレイを守ろうとする。彼を殺すつもりが無い俺は、鞘に入ったままの刀で彼の頭部を打つ。


「いつかもこうやってお前を殴ったな。これで最後にするつもりだから、許せよ。」

「シ・・・ン・・・。くそ・・・。」


タクトは床に崩れ落ちる。こう何度も殴られると、さすがに死んでしまうかもしれないな・・・。しかし、この状況で手段は選ぶことはできない。すぐに体勢を立て直しレイを切ろうとしたが、彼女の目も完全に元に戻っていた。


「あの男まで君の肩を持つとはな。存外、食えない男なのだな君も。」

「カールが手助けしてくれた理由は俺にもわからないさ。」


カールはハンドガンのような魔具を彼女に構えながら部屋に入ってくる。


「銃を向ける先は私で良いのかい?殺人容疑はその男に掛かっているのではなかったのか?」

「はは。実を言うと私も結局のところ誰が犯人なのかまだわからないんだ。でも、彼のマキナから聞いた話の方が、色々と辻褄が合うもんでね。ついつい君に銃を向けてしまっているんだ。」


レイが一瞬脱力したかのように肩を落としたと思いきや、カールの方へ一気に距離を詰めようとする。すかさずカールも魔具で応戦する。しかし、彼女に弾は効かない。このままだと彼は殺られてしまうと思い、俺も援護に入る。


「桜花流剣術か。面白い剣術だな、対峙するのは初めてだよ。」

「そりゃどうも。」


レイは、カールを無視して俺に攻撃を集中させる。しかし、彼女の異世界特性オリジナルによって動きが読まれてしまい思うように攻撃が入らない。俺の異世界特性オリジナルで先をとしてもその結果をしまう。すると、レイの背後から先ほどとは違う、重々しい銃声が聞こえた。その刹那、レイの肩から血が吹き出す。


「クッ・・・、実弾だと・・・!」


俺に完全に集中していたレイはカールの実弾を避けられなかった。カールは続けて二発目を打ち込むが、レイは魔具を使い実弾を弾く。俺はその隙を突き、彼女に蹴りを入れる。意外なことに俺の蹴りはしっかりと彼女の背中に命中した。心を読まれなかった?いや、読めなかったのか。魔具を使っている時の彼女はなのだ。魂はこの世界に定着し、異世界特性オリジナルを使えなくなる。カールの実弾と俺の剣撃を避けるには、人間の身体能力だけでは不可能だ。それ故に魔具を使う必要がある彼女は俺の攻撃を読めなかった。


「えぇぃ、鬱陶しい!」


レイは雷撃の魔具をカール目掛けて放つ。俺はその雷撃を代わりに受け、彼を守る。言うまでもなく俺に魔具は効かない。レイは悔しそうに顔を歪ませ、防御用の魔具を貼り直す。今なら心を読まれないと思った俺は小声でカールに援護を要請する。


「カール。実弾はあと何発残っている?」

「12発だ。」

「わかった。なら、魔具の弾と併用してとにかく打ち続けてくれ。奴に常に魔具を使わせ続けたい。」

「それは構わないが、君にも当たってしまうかもしれないぞ。」

「大丈夫だ。俺はアンタの弾が飛んでこない場所をよ」

「なんだそりゃ?まぁ、当たっても恨むなよ。異界から来た容疑者君。」


俺はカールが張る弾幕の隙間を抜けながらレイに向かって進む。レイはカールの弾を受けながら俺の刀をかわす。さっきとはあきらかに動きが違う。焦りと怒りに飲まれたような乱暴な足運びになっていた。こんな心理状況でも俺の剣術をさばいてくる。明らかに彼女は戦い慣れていた。


「君の剣術は完全に見切ったよ。初めて対峙する流派ではあったが、比較的単調な攻撃ばかりだな!・・・そして、その袈裟斬りの後に隙があるぞ、君は!」


刀を振り下ろした後の俺に向けて、レイは曲剣を振ろうとする。その瞬間、カールの放った実弾が彼女の剣に命中する。一瞬怯んだ彼女はまた雷撃をカールに放とうとするが、背後に新たな気配を感じた彼女は振り返るために体勢を崩す。

レイの背後からは、ベティのナイフを持ったマキナが直進して来ていた。意表を突かれたレイであったが、何とかマキナを蹴り伏せることができた。


しかし、その後すぐに振り下ろされた俺の刀を避けることはできなかった。


そして遂に、支配者デューオ、いや、異世界転生人レイ・アルメリアは背中から血を流し、その場に倒れ込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る