第26話 VS.転生者

 タクトの異世界特性オリジナルが俺の頬をかすめた。ギリギリのところで俺も異世界特性オリジナルを使い、軌道を視て避ける事ができた。床に落ちていたベティのナイフを拾い、マキナのいる場所まで後退する。


「シン、レイさんにまで手を出したのか・・。」


タクトは俺がレイに襲いかかる瞬間のみを目撃したようだ。レイは自然とタクトが自分のみを信用するような空間を作り出し、彼の転移者としての能力を開花させるために全てを利用した。そして何より、俺を殺人犯と思い込んでいる以上、タクトを説得するのは困難であろう。


「タクト、お前は最も大事な真実を見抜けていない。そのままだとお前は・・・」

「うるさい。」


タクトは再び俺に指を向ける。あの異世界特性オリジナルに当たれば、マキナと同様に俺の異世界特性オリジナルが失われる。つまり、俺はタクトを警戒しながらレイとも戦わなければならないのだ。レイは余裕そうに笑みを浮かべている。


「タクト、シンは暴走状態にある。ついにベティーナ嬢にまで手を・・・。彼の異世界特性オリジナルは未来を視る力だ。それさえ打ち消せば我々の勝利だ。援護してくれるか?」

「はい。レイさんも気をつけてください。」


レイは曲剣を抜き、上段に構える。あきらかにこちらが劣勢だ。俺の武器はベティのナイフで、マキナは斬撃を打ち消されている上にまだ縄を解けていない。それに、もどこかに潜んでいるかもしれない。二人を完全に片付けることはまず不可能であろう。


「アイツらのマキナがどこにいるかわかるか?」

「いいえ。姿を隠されていれば私にもわかりません。あくまで推測ですが、部屋の外でカモフラージュ用の結界を貼っているのでしょう。私たちの叫び声がエーベルハルト・エウルール達に届かないということと、隙だらけの私たちに奇襲を仕掛けてこないということからもその可能性は高いです。」

「そうか。じゃあお前が外に出てもあっちのマキナはお前を襲えないんだな。」

「そうかもしれませんが・・・、何を考えているんですか?」


レイとタクトはジリジリと距離を詰めてくる。彼女らは下手に隙を見せれば一気に襲いかかってくるであろう。俺は二人を視界に入れたまま、瞑想状態のに入りマキナにを出す。


「シン待って・・・」


マキナが反論をしてくる前に俺はレイに向かって駆け出す。そして二人の警戒が俺だけに向けられている隙に、後方に向けてナイフを投げる。マキナの縄は解かれ、姿を消したマキナは俺たちの脇を抜けるように走り抜け部屋を出た。


「あ、おい!待て!」


タクトは振り返り、マキナを追おうとするが姿を消した彼女を認識できるのはレイだけだ。タクトは見失ったとわかると、また俺の方へ意識を集中する。俺はレイの剣を避けながら、反撃の隙を探していた。


「往生際が悪いな、君は!」



 シン達が闘っている部屋を私は全速力で出た。先ほど彼の送ってきた指のサインが示していた意味は「俺を置いて逃げろ。」であった。それはシンと私の間で、何かあった時用に決めていたいくつかのサインのうちの一つであった。私は広間Bに続く廊下を抜けようとした時に、蜘蛛の巣が頭に掛かったような感覚に陥った。おそらく向こうのマキナが張っていた結界を抜けたのであろう。向こうのマキナも、姿を消している私を認識することはできない。つまり、結界を抜けられた感覚があっても私を追うことはできない。私はそのままカールの部屋まで急ぐ。


 カールの部屋についた私は、力いっぱいに扉をノックした。


「はいはい、そんなに強くノックしなくたってちゃんと開けますよー。ってあれ?」


彼は姿を消した私を認識できない。扉とカールとの隙間を縫うように進み、彼の部屋に侵入する。そしてシンの刀を見つけ、手に取ろうとする。

その時、扉が強く閉じられる音がする。


「ただのコンコンダッシュにしては、さすがにおかしいよな。そう考えると、姿を消せる何者かがこの部屋に侵入したのではと疑ってしまうよ。」


カールは扉を背にし、部屋中を見渡しながらそう言った。今刀を手に取れば、私は彼にすぐに捕まってしまうだろう。私自身の姿は消せても、刀までは消せないからだ。しかし、これ以上時間をかければシンの命が危ない。私は姿を現し、最終手段に出る。


「マ、マキナ!どうやって抜け出したんだ!」


カールはハンドガンタイプの魔具を私に向けてくる。私は今まで起きたこと、二つの殺人の真相、そして今起きていることを全て話した。


「なんだって?レイ君がデューオ?はは、さすがに全て信じることはできないな。」

「しかし真実です。すぐにでも助けに行かなければシンは殺されてしまいます。今私を通さなければ、それは間接的にあなたがデューオに手を貸したことになります。」

「面白い脅し文句だね。だが、もし君の言うことが嘘であったら、私は殺人鬼に手を貸すことになるね。さて、どちらを信じるべきか。」

「私は嘘なんて・・・。」


カールは深く息を吐き出し、微笑んだ。


「今の私は小説家だ。そしてこの館での出来事は小説にしたいと思っているんだ。」

「・・・それがどうかしましたか?」

「はは、大したことじゃないただの独り言だよ。ただ、レイ君がデューオだったって結末の方が、面白い小説が書けそうだと思ったのさ。」



カールはシンの刀を取り、シンの元への走り出した。

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