ホッセ魔道具店

「やあ、アイル。久しぶりだね」


 王都の裏路地の一角にあるホッセ魔道具店。


 扉を開けると白ひげを豊かに蓄えた店主が笑顔で出迎えてくれた。


 アイルは王都に寄った際には魔物除けをいつもここで買い付ける常連だった。


「景気はどうだい?」


「ほどほどですよ。それよりも治安がどんどん悪くなっている。自分の身を守るので汲々きゅうきゅうとしています」


「そうゆう時こそ商売人は儲け時じゃないかい?なんてな」


 ホッセは茶目っ気のある笑いを示した。


「一つホッセさんに相談したいのですが…」


 アイルは以前のアイリーンの身の回りに起こった出来事のあらましを他家の噂という建前で話した。


 ホッセはアイルの話を聞くごとに額の皺を深めた。


「…娘はまだ幼い…魔法でないとしたら答えは一つだ…」


 魔法とは、本人の意志がなければ発現しようがない。


 本人の意志とは関係なく、いついいかなる時にもその力を発現し害意を向ける一切を葬る不条理そのもの。


 口伝の伝説に近い一つの発想がアイルの脳裏を掠めた。


「天使の加護…?」


「違う」


 ホッセは首を左右に振った。


「天使の加護は物質という低次の事物を介さず不可視のまま発現する、故に天使などではない…そんなものではない……あるとすれば……」


 ホッセは自らの怖れすら隠さずに言った。


「堕天使の加護……悪魔の呪いだ」

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