第4話 接近

「怜ちゃん、A店に来てだって!」

「えっ?なんで笑?誰が来てるの(笑)?」

「某集まり数人で来てるから、怜ちゃんよこしてって言われたけど」

「えっ・・なんでワタシ?やだよ〜若い女の子好きな集まりなのに」


寒さ厳しい冬のある日の事。出勤してすぐそんな会話で始まった日。嫌だなぁ・・こんな歳いった女がお席についても迷惑じゃないの?冷や汗をかきながらそんな思いしか浮かばないままA店に向かう怜。A店には度々顔を出す。自分に関係があるお客様がいる時はご挨拶に行く。だけど、今回は違う。何故に……。A店のドアをゆっくり開けて、恐る恐る中に入って行った。


「おはようございまーす・・」

「あっ、おはよう、奥の席に着いて欲しいんだけど」

「はい、わかりましたー」


向かおうとした時に再度ママに呼び止められた。


「あのお客様、熟女しかダメだから、怜ちゃんお相手してあげて欲しいんだけど。」


という会話をしながら、視線の先にいたのは敦司。あっ、ここ?ちょっと嬉しい。そんな心の声を聞かれないよう、真顔で向かう。でも、熟女しかダメってワタシなのねー!と心の中で自虐して、心の中で笑ってしまった。

敦司が若い女の子より、歳を取った女性が好きなのは知っていた。でも、担当していた女の子は何年も若めの女の子だった。不思議を感じながら、


「失礼します。いらっしゃいませ。お久しぶりですね!」

「あっ、どうも〜怜さん」

「あれ、覚えててくれたんですね(笑)」

「覚えてますよ〜ちゃんと(笑)」


敦司の隣に座った。敦司の担当の女の子は少し前に退職して、敦司の担当がいなくなっていた。そこで怜に白羽の矢がたった。今日はずっとこの人の相手ができるのか。初めてちゃんと話せるかもの日だ・・嬉しいなぁ。怜は素直にそう思った。毎日同じ狭い箱の中で、新鮮さが少なかった怜にとって、久しぶりの刺激。


敦司はどこか他の人とは違う雰囲気を持つ男性。痩せ型で、身長は決して高くはない。スーツを着ていても、色合いや素材にこだわりがあり、身に付けるものに気を配るお洒落な所もある。少しだけ、中性的な雰囲気を感じさせる。伶はこんなタイプの男性が嫌いではない。かなりの新鮮さに怜も楽しさを覚えた。伶は新しく担当になれるかなれないか、そんな思いをして新しいお客様に着くことが好きだ。


怜は新鮮さと緊張の中で敦司の隣にいたが、敦司は少し素っ気ない口調と、照れるような、苦笑うような顔で伶と話をしていた。

そんな敦司は、笑顔でそこにいるのに、人を簡単に寄せ付けないような空気感があって、距離感はかなりある。


数人の集まりで、女の子達も交えて皆と話をしているうちにお腹が空いた、肉まん食べたいなど会話が飛び交う。誰かがコンビニに向かい、肉まんやピザまんを買ってきた。分け合って食べる。


「敦司さん、これも食べました?どうぞ〜」


一口大に分けた肉まんを、だいぶ緊張しながら敦司に渡す。


「あっ、ありがとう、でも結構お腹いっぱいなんだよな〜まぁ美味しいけど。」


と言いながら肉まんをほおばる。


伶は1つ1つの会話や1つ1つの動作が終わる度、ホッとしながら接客していた。失礼になってないかな、話、大丈夫かな。常にそんな気持ちで、心配性の伶は楽しい嬉しいと思いながらも、不安と緊張の中にいる。そのせいで、お酒のペースも普段より早くなっていく。


伶がただこの時を嬉しい、楽しいと思っていた訳ではなかった。そこにはもう一つの理由があった。その理由は、敦司とは無関係の所にあった。

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