月を掴む

 登山キャンプの朝に。空を仰げば青白い月がぽっかり浮かぶ。

 ふと手を伸ばすと、思いがけず月を掴めてしまった。

 月はしっとりとして、やや冷めたきな粉餅のような手触りだ。

 目を凝らし、きな粉のクレーターを見つめる。不意に視界は拡大されて月に吸い込まれた。

 ふと気付くと、僕は月に立っていた。

 地球にいる僕が掴み取った月にいる僕。

 掴み取った月から月を掴んだ僕のいる地球はどう見えるのだろう。

 月の空を仰げば、青白い地球がぽっかり浮かぶ。

 ふと手を伸ばすと、危うい手付きで地球も掴めてしまった。

 地球の手触りは温かな半熟茹で卵のよう。ぐったりと柔らかくて強く握れば指の形に歪んでしまう。

 僕がいたのは地球のこの辺りか。目を凝らす。

 地球に立つ僕が持った月に立った僕の手にする地球に立つ僕と目が合った。

 ふと気付くと、僕は地球に立っていた。

 空を仰げば、青白い月がぽっかり浮かぶ。

 月の模様が変わっていた。誰かが握りしめた指の形に見える。

 地球はどうだ。振り返れば、とんでもなく高い山脈が連なっている。誰かが掴んだ指の跡にも見える。

「試しに登らなきゃな」

 まずは朝飯だ。

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