第34話

 2日ほどゆっくりした金太は、大きな壁である公立の入試に向けて始動しょうとしていた。ところが、なかなか試験勉強に集中することができない。その理由のひとつに、4日後にある私立校の合格発表だった。自分としては充分に自信があるのだが、万が一のことを考えると気持ちが鳥の羽根のようにふわふわとしてどうにも落ち着かない。家族も姉の増美の経験があってか、金太をそっと見守っている。

 いよいよ発表の日がやって来た。合格通知は学校に送られて来るので、わざわざ受験校まで行くことはなかったが、いつもの通学とはずいぶん違った。

 教室に行くと、この頃では試験前と違ってみんなが明るくなっている、次々と合格通知が舞い込んで来るからだ。

「金太ァ、オハヨ」

 クラスメイトの中西くんがハイテンションで声をかけて来た。中西くんはもう私立M高等学校の合格が決まっている。

「おはよ」

 金太の気分はそこまで行かない。

「どうしたんだよ……あッそうか金太はきょう発表があるんだったよな。そいで元気がないんだ。大丈夫だよ、余程のことがなかったら私立はいける」

 中西くんは本当に心配してるのかどうかわからない言い方をする。

「うん」

 金太はデリカシーのない中西くんにうんざりしながら適当な返事をした。

 そうこうしているうちに担任の吉田先生が入って来て朝の会がはじまる。金太はどきどきしながら背筋を伸ばして教壇を見る。先生の口から自分の名前が呼ばれるのを待った。

 ところが、通常の連絡事項と、まだ受試験をしてない生徒へのアドバイスで朝の会は簡単に終わり、ついに金太の名前を呼ばれることはなかった。

 気落ちした金太は、そのあとの英語、国語、理科の授業がまったく上の空になってしまった。

(やっぱりダメだったんだ……)

 なかば諦めてランチをすませ、嫌々友だちの合格話を聞いていたとき、「山井くん、吉田先生が呼んでるわよ」と女子生徒が伝えに来た。金太はすぐに職員室に急いだ。渡り廊下を歩く足取りも、足首に鉛の重りを縛り付けられているようだった。

 職員室の扉を開けてなかに入ると、丁度吉田先生がお茶を取りに来たところだった。

「金太、おめでとう、A高校合格の通知が来た」

「ほんとですか?」 金太はまったく信じられなかった。その瞬間膝のちからがすっと抜けるのがわかった。「ありがとうございます」ぺこりと頭を下げる。

「いやあ、よく頑張ったな。でもこれからまだ大事な試験があるから、油断しちゃあだめだぞ」

 吉田先生は金太の肩を掴みながらいった。

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