第33話

 きょうも父親は残業なので、夕飯は3人だけとなった。2階から降りて来た増美は、やはり弟の試験のことが気になるらしく、金太の顔を見て真っ先にいった言葉が、

「どう? できたの試験」

 いつもよりちょっと優しい口調だった。

「まあ、なんとか。ちょっと数学で手こずったけど、ほかは大丈夫だと思う」

 金太は少し自信のある顔になって茶碗を手にした。

「それだったらいいけど、まだ油断しちゃだめよ、大事な公立が控えてるんだから」

 増美はホウレン草のお浸しに箸を伸ばしながらいう。

「わかってるよ」

 そういって牛肉コロッケにかじりついた。

「まあ、とりあえずひとつ試験がすんでやれやれね。あとひとつあるけど、みんなで応援するから、頑張りなさい」

「うん」

 金太は母親の優しい言葉が嬉しくて、いつもより1杯多くお代わりをしたのだった。

 

 夕食をすませた金太は、しばらくテレビのバラエティ番組を観ていたのだが、なにかを思い出したのか急に2階の部屋に向かった。

 部屋に入って照明を点けると同時にエアコンのスイッチを押す。すぐにひんやりとした空気と生暖かい空気が入り混じり、部屋のなかを駆け巡った。

 椅子を引いて机に向かい、勉強をはじめるのかと思いきや、スマホを手にしてどこかにLINEをはじめる。LINEするなら別に1階のリビングでもできるのに、わざわざ暖房をかけてなかい部屋に来るにはなにか理由があった。

 デーモンもノッポも試験はすんでいるのは知っている。ノッポは家出の日から1週間ほどして連絡が入り、金太のチクリが功を奏したのか、ちゃんと親子で話し合いをし、納得したノッポは福岡に戻ることにした。そうなると福岡の高校に通うことになるので、当然試験も向こうになる。3日前に母親と一緒に福岡に行き、いまはもうこっちに帰っているはずだ。

《デーモン、試験はどうでしたか? キミなら全然問題ないよな。

 オレはきょう終わった。だから少しのんびり。

 ところで、デーモンに相談があるんだけど……》

 しばらくしてデーモンから返信が届いた。

《よかったね。でもまだ難関が残ってるから、カラダに気をつけてお互い頑張ろう。

 ところで、相談ってなに?》

《ノッポのこと。なんとかして、あいつの気持ちをアイコに知らせてやりたい。》

《わかった。なにかいい方法がないか考えておくよ》

 LINEトークはそこで終わった。

 金太としては、もう福岡に戻ることの決まったノッポが悔いのないように、彼の気持ちをアイコに伝えたいと考えている。以前デーモンがいっていたように、結果は結果として受け止めなければいけないけれど、それを恐れてなにもしないのは意気地なしに思えてならなかった。

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