第21話

「今年はいつもより多かった。だって去年の正月はニューヨークだったから、お年玉をもらえるのはパパくらいだったから」

「で、どれくらいもらったの?」

 女の子はそういったことに敏感らしく、アイコは向き直って訊く。

「5万円くらいかな」

 デーモンは平然とした顔で答えた。

「うわあっ、すっげえ」金太は大判焼きを齧るのを止めていった。「オレなんか恥ずかしくて人にいえないくらいしかもらってない」

「わかったよ、きょうはボクがおごる。だから好きな物頼んでいいよ」

 太っ腹のデーモンに甘えて、金太、アイコ、ネズミの3人はお好み焼きの玉子入りを追加した。ところがノッポだけは黙って俯いたままだった。

「みんなお守り買った?」

 金太はダウンジャケットのポケットから紙袋を取り出し、なかから紫色の紐のついたお守り袋をみんなに見せた。

「ああ、買ったよ」デーモンもポケットから取り出した。

「わたしも」アイコは首から提げたポシェットから見せた。

「ボクはまだ受験まで1年あるからいらないと思ってたんだけど、みんなが買ってるからついつられて買っちゃった」ネズミはみんなと違った色のお守りを顔の前でぶらつかせた。

「なんだよ、そのお守り」金太が訊く。

「うん交通安全。だって家内安全とか商売繁盛なんて意味わかんないから、まあ自転車に乗るからこれにしとくかって……」

「ノッポさあ、さっきからずっと元気ないけど、体調がよくないのか?」

 金太は、大判焼きの残りを口に放り込んだあと、心配そうに訊いた。

「そういえば、元気ないわよね。風邪でもひいた? きょう結構寒いから」

 どうやらノッポの元気ないのはアイコも気づいていたようだ。

「別に風邪なんかひいてなか」

 ノッポはみんなのほうを見ることなく、土間に視線を落としたまま答える。

「やっぱり、いつものノッポさんじゃない。ほらジュースだってほとんど飲んでないし」

 ネズミはノッポの手にしているジュースの瓶を指差していった。

「なんか悩みでもあるのか? みんなで相談乗るからさ」と、金太。

「じつは……」

 ノッポはそういったまましばらく口をつぐんでしまった。

「ノッポらしくないわ」

 相変わらず心配そうな顔でアイコはいう。

「ボクさァ、まだはっきり決まったわけじゃなかけん、中学ば卒業したら福岡に戻ることになるかもしれん」

「ほんとかよ? 冗談だろ? 新年早々にきつい冗談だ」

 金太は希望的観測を交えていう。

「冗談やなか。さっきもいったように決まったわけやなかけんが、80パーセントくらいの確率はあるト」

 やはりノッポは俯いたままで話す。

「80パーセントか……」

 そこまで金太がいったとき、おばさんがお好み焼きを皿に載せて運んで来た。

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