第36話 王都への帰還
計画とは違っていたが、目的であるベベ草を手に入れることはできた。帰り道は、アギー山脈を通らずに旧魔王領を通っての帰還も出来た。予定していた日数よりも、大幅に早く王都にたどり着くことが出来そうである。
病気で苦しんでいる姫様を早く助けたい。その一心で旧魔王領から王都へ向かう。道中、アギー山脈に比べるとモンスターが襲撃してくる数は少ないが、それでも何度か戦闘が起こった。
その度に、魔王が一足早く魔物に攻撃して、彼女がモンスターを1匹残らず倒していった。
「フフン! どうだ?」
その実力を、オレたちに見せつけてきた。その辺りに発生するモンスターならば楽々と倒せることが分かると、自慢げな顔をしてオレに向かってこう言うのだった。
「ほうら、我の実力は徐々にだが元に戻りつつある。いつか貴様を、このモンスターと同じ姿にしてくれるわ。ハッハッハッ!」
「倒してもいいのか? そいつら、お前の仲間じゃないのか」
昔の文献に残っていた記録によれば、魔王は魔物の群れを指揮して人間と戦ったと言い伝えられている。それなのに、魔王は容赦なく魔物たちを倒した。そいつらは、仲間なんじゃないのかと疑問に思ったので聞いてみると、意外な答えが返って来た。
「こんなモンスターが、我の手下だと? それは違うぞ勇者の子孫よ。モンスターと魔族は全く違う者たちだ。それに、我の手下は全て勇者によって滅ぼされてしまったからな」
そう言って、魔王は懐かしそうな顔をして遠くを見つめていた。おそらく、手下であった魔族の事を思い出しているのだろうか。その顔には、仲間を想う悲しさが見て取れた。
過去の勇者が、どのような考えで魔族を滅ぼしたのだろうか。魔王を倒さず、封印していたのかについて、オレは少し疑問に思った。今となっては、勇者に聞くことは出来ないし、想像するしかない。
仲間の魔族を滅ぼされて、このような悲しい顔をしている。オレは、魔王に対して同情するような心を持ったようだ。
そんな事がありつつ、王都へ向かう道を歩き続けた。荷物は全てバーゼルの草原に落としてきたので、今は逆に身軽になっている。
そのため、一日中歩き続けても大丈夫だった。むしろ姫様の体調を考えて、マリアとクリスティーナは少しでも早く王都に到着するようにと、一日中歩いて王都帰還を目指したほうが良いと提案してくる。
オレとパトリシアも、その考えに同意して王都を目指して歩き続けた。意外にも、魔王は文句の一つもなく、一緒について来て問題は起きなかった。
王都が見えるところまで辿り着いた。オレは、魔王に最終確認をする。
「本当に、人間は襲わないんだな?」
「襲わん、と言っておろうが。今の我の目的は勇者の子孫である、貴様だけだ」
魔王と目を合わせて、彼女の目を見て判断する。大丈夫そうだなと、オレの直感が告げていた。
旧魔王領から歩いてきた王都への道中、パトリシア、マリアにクリスティーナへの危害も全く加えなかったので、道中の結果も加味して、判断したから大丈夫だろう。
「一応、この布を頭に被って、角は隠しておこう」
「ん? まぁ、わかった」
オレは上に着ていた外套を脱ぎ、頭を隠せと魔王に渡す。彼女は、道中でも文句を言わなかった。そして今も、手渡した外套を頭に被ることにも文句を言わず、オレの指示通りに動いてくれた。
これなら、一目見ても魔族である魔王の正体はバレないだろう。
そもそも、魔族は400年前に滅んだと知られている。だから、王都の人間が角を目撃したとしても、魔族とはすぐに結びつかず。バレることはないだろうな。だが、外套は念のため被らせておくことにした。
王都の正門をくぐって、城下町にさしかかる。ようやく帰ってこれた。オレたちと違って、初めて来るだろう魔王は物珍しそうに、辺りをキョロキョロと見ている。
「どうした? 何かあったか」
「人間の街に来るのは、初めてなのじゃ」
オレは、魔王があまりにも物珍しそうに周囲を見ているので聞いてみた。
彼女は語った。実は、魔王は魔王城から一度も外へ出てきたことがないらしくて、人間たちが暮らす村や街を見たのも初めてだという。もしかしたら、外へ出る口実にして、オレたちについてきたのかもしれない。それで、この城下町も珍しそうに見ているというわけか。
「って、あれ? 一度も人間の住む場所に来たことがない? 城から外にも出たこと無いだって……?」
魔王はずっと城の中から魔王軍を指揮していた、という事なのかな。
そんな事を考えながら、オレたちは城下町を抜けて、城に向かう。
城の門前には変わらず、女兵士たちが隙もなく見張っている。オレを見つけると、びっくりした顔をして近づいてきた。
「よくぞ、無事に戻られました」
「こちらで、女王がお待ちです」
オレたちの旅を労ってくれる言葉を投げかけてくれた兵士たち。直ぐに、城の中へ招き入れられて、女王が待っているという部屋に案内された
旅へ行ってから帰ってくる間に、1人メンバーが増えているが、兵士はそのことに触れることもなく、何度もオレたちが無事でよかったと言っていた。
オレたちは案内された女王の待つという部屋の中に入る。女王が部屋の中央に設置された王座に座っているのが見えた。オレたちに気づいて、まず確認してきた。
「ベベ草は見つかりましたか?」
「えぇ、こちらにありますよ」
オレは、懐に持っていたベベ草を取り出して女王に見せる。これで薬を作ることが出来る。
「その薬草で、娘は助かるのですね?」
「えぇ。今から、この薬草を調合して、治すための薬を作りたいと思います」
女王は、フッと小さな息をはくと、安心しきった顔をしていた。
「本当にありがとう、ユウ殿。遥か遠くの荒廃した土地から、よくぞ無事に帰還し、薬草を手に入れて帰って来てくれました。本当に、感謝しています」
女王は涙ぐみながらお礼を言ってくる、だが涙を流すのにはまだ早い。この薬草を調合して、姫様を治さないと。
早速オレは、べべ草を素材にした薬の調合に取り掛かった。
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