第18話 プロポーズ……そして

 今日は彩夏の十九歳の誕生日。


 朝、おめでとうのキスをねだられた。


 儀式が終わると素早く、身支度と簡素な朝食を取ってドライブデートだ。 行先は秘密と言う事にしていた。 只、着替えは用意した方が良いかもとは伝えていた。


 まず最短距離で日本海に出た。彩夏は久しぶりの海で興奮していた。 そこでねだられて、海岸線だけと言う約束で初心者マークを付けた車になった。 運転中の彩夏は絶景の海を見るゆとりが無かった。


――助手席の方が疲れるのは何故だ―― 


 小樽で初心者マークを外した。 水族館のイルカショーで、水しぶきを掛けられて、二人で大笑いした。 運河では、ガラス細工の小物を見入っていたので、「これは誕生日とは別だから」と言って、彩夏の気に入った物をプレゼントした。 

白い〇〇パークでは、お菓子作りを楽しそうに体験していた。 俺は彩夏の笑顔を見る側に回った。


 札幌のデパートで、可愛いワンピースを二人で選んで、試着してその服をそのまま着させて、デパートの駐車場に戻った。 手を繋ぎながら戻る途中「これは誕生日プレゼント第一弾」と告げた。


「ありがとう……すぐる」と言った彩夏の顔は紅潮していた。


 駐車場には、打ち合わせ通り史絵が居た。 もう一人のすぐるも一緒だ。 どうしても、タクシーでなく、あと一台車が必要だったので苦肉の策で、お邪魔虫のすぐるに史絵から頼んでもらった。


 久しぶりの再会で、弾んでいた姉妹がそこに居た。


 造り笑顔の青年に「先に行ってもらって良いかな、私は車を置いてからタクシーで直ぐ行くから」と言って青年の車に彩夏も乗せてもらうように青年に頼んだ。彩夏は、その意味が分からない様な顔をしつつも向こうの車へ乗った。


 予約していたレストランにタクシーで着いた。 三人はすでに座っていた。個室の戸が開いていて史絵の顔だけが戸の開放部から見えたので判った。 俺は薔薇の花束を持って席に着いた。


「彩夏、誕生日おめでとう」と言って花束を渡した。 二人も後に続いてお祝いを言ってプレゼントを渡していた。


 彩夏は直ぐに涙ぐんだ。 女子は花束に弱いのを再確認出来た。


 

 その後は、前回と同じぐらい和気藹々(あいあい)と誕生会が進んだ。 飲み物は前回と同じだった。三人はノンアルコールワイン、法律では、史絵が酒が飲める様に成るまであと二ヵ月だった。 と言う事は今日から約二ヵ月、二人は同い年になる。


 史絵には、今日の俺の企てを話しているので、当たり障りのない話題に徹している様子が垣間見える。 隣の協力者も同じだ。

 今日は協力者に送ってもらって、史絵のマンションに泊まって三人で雑魚寝する予定だと席で彩夏に言った。 彩夏は、特に疑いは持たなかったようだ



 誕生会はお開きになって、四人で店に出た。


 俺は

「少し酔ったから風に当たりながら、その辺を彩夏と歩いているから車を廻して」

 と言って、駐車場まで車を取りに行く青年と史絵を見送った。

 史絵は、ガッツポーズをして頑張れのサインをくれた。




 少し歩くと、見た事のあるビジネスホテルの前に着いた。


「あっ……此処」と彩夏は直ぐに気が付いた様だ。


 俺は何も言わず、手を繋いだままホテルのエレベーターに乗って15の数字を押した。 そしてカードキーを翳(かざ)して手を繋いだまま部屋に入った。荷物も置かれていた。部屋は前回と同じ1501号室だった。



 俺は、呆気に取られている彩夏の抱えている花束をテーブルに置いて、彩夏の肩に手を回して窓辺に移動して夜景を見ながら言った。



「去年彩夏が綺麗だと言っていた夜景が見たくて、又来ちゃった」

「去年は、全く夜景は見て無かったからね」


 彩夏は無言だったが、これから何があるのか予感した様だ。


 もう、瞳が潤んでいた。


 俺は、彩夏をテーブルの前の椅子に座らせた。そしてそのテーブルをずらした。


 それから、荷物の中から小さなケースを取り出した


 そして、ずらしたテーブルの有った場所に片膝をついた。





「彩夏、いや小野寺彩夏さん……ずいぶん待たせてごめんなさい」


「俺の心の中は、もう彩夏の入る場所は出来ています」


「俺と、いや北島優留と結婚してください」


「一生大事にします」


「必ず幸せにします」


 


 空白の時間が経った



「………………」



 彩夏が答えた。


「はい…………喜んで」




 それだけ言うのがやっとだった。


 泣き崩れる彩夏を椅子から降ろし、二人は床に座ったまま抱き合った。


 そのシーンは、彩夏の涙が枯れるまで続いてた。


 やがて泣き止んだぐちゃぐちゃの笑顔の唇に、長い口づけをした。




 やっと話が出来る様になった。

 指輪ケースから取り出したムーンストーンの指輪を、彩夏の左手の薬指に挿してあげた。


「この指輪、俺が紗枝にあげた婚約指輪なんだ」

「彩夏用にサイズ直したんだけど、お古でもいいかな?」

「俺は、紗枝の指輪を彩夏に使ってもらいたい」

「偶然にも誕生石も同じだから、それが出来たのだけど」

「彩夏が嫌なら新しいのを買うけど」


 そう言うと


「そうなんだ!同じ誕生月なんだ、私と紗枝おばさん」

「逆に、彩夏は嬉しいわ」

「それって、パパの中では紗枝おばさんと私は同じって事だよね」


 俺は、

「ああ、その通りだよ彩夏。何も気兼ねしないで俺の妻になって欲しい」

「それと、紗枝と彩夏が違うのは、紗枝との思い出は大切だけどもう増やせない」

「彩夏との思い出は、これから一杯増やし続けることが出来るのだよ」



 そして二人は、再び熱い抱擁と口づけを交わした。




 指輪ケースの中には、もう一つ指輪が入っていた。同じムーンストーンの指輪だが、今彩夏が付けているのとは違って、小さな石が幾つか鏤(ちりば)められている。よく見ないと只のリングにしか見えないタイプだ。看護師をしていた紗枝に仕事中でも邪魔にならない様に選んだ物だ。彩夏も大学に付けて行くにはいいと思う。







 それから俺は、あの大きすぎるお風呂に湯を貯めた。


 そしてその場で、涙で湿った真新しいワンピースと下着を脱がした。


 彩夏は恥ずかしながらも、されるままにしていた。


 そして、俺も同じ姿になった。


 彩夏の何も纏(まと)わない姿を初めて見た。それはまるで、どこかのモデルなんて比では無い。


 今まで背中でしか感じられなかった豊かで張りのある双丘、くびれたウエスト、適度に締まったお尻、そして太腿から足首に至る美しいライン、それと、未だに生まれたままの秘部、そのすべてが愛しい衝動に駆られた。


 まさに、羽は無いけど、純真無垢の天使だった。


 彩夏は、凄く恥ずかしがっていたが、妻になる覚悟が出来たから、躊躇(ためら)いは無かった。

 

 それから彩夏の手を取って浴室へと導いた。


 そして、風呂の中でも抱擁と口づけは続いた。


 そのあと、二人は、各自で体を洗って、手を繋いでベッドに入った。


 ベッドの彩夏は凄く緊張しているのが伝わってくる。


 俺は、彩夏の緊張を解くために、真綿を包むように、優しく彩夏を抱いた。


 彩夏は、されるままにされて、俺に頼り切って体を預けてきた。


 俺は、その行為の途中で不思議と涙が出た。


 初めての体験の彩夏は、表情とは逆に、口では決して否定しない。


 我慢をするようにも見えたが、俺を信頼しきって、俺を受け入れてくれた。


 そして終わった。


 二人は抱き合ったまま。眠りに就いた。


 彩夏の寝顔は、シアワセ色に満ち溢れていた

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