第23話 生身の愛へ エピローグ マニア氏の弁

 この取材をした翌日曜日の昼頃、先日50歳になったばかりのマニア氏こと米河清治君が、うちにやってきた。

 朝から張り切ってプリキュアを観た後だそうで、すこぶるご機嫌だ。

 このところ2年以上、日曜朝8時30分から9時までの間のリアルタイム視聴、「皆勤」なのだそうな。


 「どうでした、昨日の取材?」

 「2組の夫婦の恋愛物語だったよ、実質」

 「そりゃあ、すごかったですな」

 「せいちゃん、あなたには一生ご縁がなさそうね」

 たまきちゃんに、マニア氏が食いつく。

 「んなもん、別にいいですよ、たまきさん。ワタシャ、酒飲んでぼちぼち駄文を書いてそれ売って、酒代稼いでまた飲んで、適当な頃合いで、あの世に行ければいい。先日亡くなられた金ぴか先生みたいにね。でも、もう少しこの世で、えー思いがしたいですな」

 「養護施設ってところは、結構、出会いの多い場所みたいね」

 「それは認めます」

 「でも、あなたやZさんには、出会いは出会いでも、ちょっと・・・」

 「すべての人がそうだったとは言いませんが、きれいごとばかりで、所詮は、自分の給料が大事なだけの人たちのことなど、どうでもいいですよ、いまさら・・・」

 「もう少し、前向きでやさしいものの見方ができないものかしらね。奥さんや子どもに見守られて過ごすより、金ぴか先生みたいに朝からお酒を飲んで、気が付いたらあの世だったって人生を送りそうで、おねえさんは、とっても! 心配しております。今月で50歳を迎えたことだし、少しは潤いのある人生を送れるように意識を向けたらどうなの?」

 「その点につきましては、日々、酒で潤いをキープしておりますので、大丈夫です」


 姉弟げんかともつかぬやり取りを制して、ぼくが一言。

 「はい、緩慢な自殺、もとい、緩慢な姉弟げんかはそれまで。そうそう、昨日坂崎さんが君のことを言っていたぞ。君は、くすのき学園のこと、坂崎さんからも、結構聞かされたそうだね」


 マニア氏が、何やら達観でもしたかのような言葉を返してきた。

 

 ええ、坂崎さんから、演習準備室や大学の学食、それから、飲み会の席で、いろいろ、お聞きしました。私も、よつ葉園のこと、かれこれお話ししましたけどね。

 正直、あの頃のくすのき学園みたいな施設に放り込まれなくてよかったですわ。だからって、よつ葉園がよかったとか、手放しで褒めるつもりもありませんが。

 でもまあ、もう済んだことですから、いいでしょう。

 あとは、かれこれ見聞きしたことをもとに小説でも書いて、酒代を稼ぎますわ。小説で稼いだ金で朝から酒飲んで、最後は金ぴか先生みたいに気が付いたら死んでいた、そういう余生も、悪くないかもしれませんな。でもその前に、小説でひと稼ぎさせてもらって、酒飲みながら列車でふらついても、バチは当たらんでしょう。

 それでも死ねなきゃどうするかって? しょうがない。列車でふらついたのをネタに、また、エッセイでも書きますよ。それでまた稼いで、酒を飲みます。そのうち、あの世に行けますわ。

 大丈夫。線路に転落して死ぬようなご迷惑は、おかけしませんって。いずれ死ぬその日まで、この世を、もう少しばかり楽しませてもらいまっさぁ・・・。


 やれやれ。

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