新年度から二週間が経った。友達ができ、新たな科目を学ぶ。進展もあり発展もあり。そして、発見もある。

 「おい、あれが佐森か?」

 「だろうな。でも何か、寝てるぞ?」

 「zzzzzz……」

 六時間目の後に、終了のホームルーム。それも終わり、生徒はそれぞれに教室を出て行く。だが今回は、そうではなさそうだ。佐森君の噂を聞いた生徒が、わずかに辺りに集まっていた。

 「おい佐森、起きろって。佐森!」

 帰る準備が万端のとある友人が、佐森君の背中にポン触れた。

 「……? 君は、三十六木さじろぎあき?」

 「二十六木とどろきあきらだっつの、妙なボケ挟むんじゃねぇ。それよりいつまで寝てんだ、帰んぞ」

 「え、もうそんなんか? 月曜日?」

 「そうだ月曜日だ。早くしろ。今日も今日とて行くんだろ、駄菓子屋」

 二人は小学校時代からの同級生だ。仲は良い。安定の間柄だ。五日ある平日の月曜日と金曜日、それは彼らが制定した・通称″駄菓子屋の日″。学校へ行く週の始めと終わりに制定されたそれは、たまった疲れを癒すのを目的として作られた。本日月曜日は、その日ということである。

 「お前、また寝てたのか?」

 「寝てない、俺は机と椅子を用いて充電してたんだ」

 それは、いとおかしな話だ。

 「佐森君。それは、睡眠というんだよ。覚えときな」

 佐森君という人の中では、学校での行いは全て体のケアの為だという。そういう、言い訳だった。

 「体をいたわるのは、人間として当然の義務だ」

 「はぁ、朝からカレーなんか作るから眠くなんだよ」

 佐森君は論破された。が、まだまだ食い下がる。

 「カレーは正義だ。旨いは正義だ」

 「ほぉほぉほぉ、じゃあこれを前にしても言えるのか?」

 学校から徒歩三分にある、地元感溢れる駄菓子屋。二人の行きつけだ。ビー玉の音が懐かしいラムネ等、安くて美味な品物を揃える。ちなみに定番で買っているのは、うんめぇ棒コーン明太子味だ。

 「さあさあ到着到着ー! 佐森、いつものやつ何本にする? いつも通りに三本にしとくか?」

 「三……いや六本」

 そしてこれにはくじがついている。最初に買う本数を決めて、多く当たりの出た方がおごる。そんなルールを科している。

 「おばちゃん! いつもの十二本ね!」

 これを買い、全て食べてから奢ってもらうお菓子を決める。

 「なぁ佐森、どっちが早く食べれるか競争しねーか? 買ったら相手のくじ二つ貰えるってことで」

 「じゃあ、俺の勝ちだな」

 店頭で買い、お互いが同じくして店を出たはずだった。晃はまだ開封していない。それに反して、佐森君はもう開封している。その上全て食べ終えていた。

 「お前、食速どうなってんだよ」

 「二つ、早くよこせよ腐男子」

 忘れていたが、晃は重度のBL大好き高校生である。

 「え、俺氏まだ食べてないんだけど」

 「オタク語はいらんから、とっととしろ」

 問答無用な無慈悲さがあった。そしてそれは口に運び咀嚼そしゃくするスピードも。すぐに食べ、さっさとくじの結果発表がしたいという意思で、包装の中に隠された結果を確認していく。

 「(はえーなーおい)結果分かったか?」

 「おう、全部出た。晃は?」

 「俺も。今回はやるぞ~!」

 勝つか負けるかは引き分けるか。運命のゴングが鳴り響く。

 「当たり・当たり・ハズレ・当たり。まぁこんなもんだろ」

 晃はなかなかの好成績だった。

 「……ふぅ」

 その頃佐森君。真下を向く顔は、渋く険しいものがあった。

 「お? おーおーおー? 負けか、佐森負けたか~あぁん?」

 晃渾身のネタも通じないくらいに。

 「晃」

 「な~んだい?」

 「ホント、ごめんな」

 謝る佐森の手に持つそれは、うんめぇ棒の空の包装。それを内側が見れるように開いた形だ。

 「え、嘘……え、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁ!」


 【スーパーウルトラグレートミラクル伝説級の大当たり】


 大きく金色の明朝体で書かれていた。佐森君と晃、この二人は密約があった。味に関係なくあり、確率で表すに、100万分の1。通常の当たりはおおよそ40%とされている。大袈裟な名前だが、それに見合うとても貴重なくじなのだ。

 「他は当たりが一つだけだった。でも、これが当たったら、どうなるんだっけ?」

 あえて負けそうな雰囲気を出したのか、はたまたスーパーウルトラグレートミラクル伝説級の大当たりのくじが出たのが後か。定かではないが、これで立場はものの見事に逆転した。

 「勝ちだよ! お前が勝者だ! 買えよ、好きな駄菓子好きなだけ買えよこの野郎!」

 「ZZZZZZ……」

 「こんな時に寝るな!!」

 晃の判断が遅いから。次寝たら買わない。こんなやり取りを水掛け論になるまで行い、なんだかんだでちゃっかり晃は奢らされていた。佐森君はいつもは出さないウキウキした調子で、カゴに収まりきらない量のお菓子を買いまくる。鼻歌とスキップを並行する姿は、ウキウキしたそれだ。

 「またか、結局勝てねぇし。今まで一度も」

 戦績は小学生から通算で、484戦全敗。晃に勝ちはなく、佐森君の独壇場だ。だが、くじを見せる前に晃から貰ったうんめぇ棒に例のくじがあったことは、佐森君だけの秘密である。

 「おーい佐森、金いくらだ?」

 「1万とんで895円だ」

 多額のお金だった。会計をする台の上には山盛りのお菓子がある。店番をしているおばちゃんは、ゆっくりとそれを袋に詰める。

 「おい、抑えろよ! 費用抑えろよ!!いつもよか十倍も値段増やすなよ!」

 もう一度示そう、二人は仲が良い。とても安定して。昔ながらの親しんだ友人。全ての過ごす時間軸が面白くおかしく、楽しく愉快なのだ。ツッコむ晃も、四六時中ボケ? ている佐森君も、個性が重なりそれがまた噛み合っている。素晴らしい関係図だ。

 「足らないなら、貸そうか?」

 「あるよ! 明日同人買う為に残してたからあるよ! もう出してやるよ、出すよ! 出せば良いんだろ!?」

 異次元な佐森君と親友の晃。波瀾はらん万丈ばんじょうな二人の学校生活は、始まったばかりだ。

 「今月、もう小遣いなくなったな~。折角新作同人誌買う予定だったのに、とほほほ……」

 晃の財布は、ほぼ終わりとなっていたが。

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