佐森君の遊雅な日常

浜こーすけ

本編

 鳥のさえずり。涼しく、心地よい風。季節は春、四月の中旬を過ぎた頃だ。ウキウキするも、学生諸君は新しい環境になれなくてはならず、ストレスのかかりやすい時期でもある。

 「……やるか」

 高校一年生の佐森さもり君。平日の朝、学校に行く前に、いつものルーティーンをこなす。だから必然的に、彼の朝は早い。

 「玉ねぎ・人参・牛肉・じゃがいも。あ、牛乳とチョコレートもだ。んでスパイス用意しないと」

 朝御飯の準備だ。両親が海外出張で、わけありの一人暮らしで、家族が早くに他界した。なんて理由付けはない。あくまで趣味、楽しいからしている。

 「もう五時か。早く作って食って、支度しねーとな」

 それも早朝から。もはや、何が目的なのか。どこかの誰かのアスリートを模倣しているのか。あるいは受け売りか。

 (新境地の開拓だな。元々嫌いだったけど、これもイチローさんが食べてたおかげだ)

 受け売りだった。あの人のおかげ! と言わんばかりに。

 普通の高校生らしくない行動ではある。だが前述の通り、これが彼の日課だ。絶やしたことはない。つまり裏を返せば、病におかされたことがないということだ。ただそこだけを抜粋したら、もはやそれは、さながら子持ちの新妻だ。

 「さ、できたできた」

 あっという間にカレーの完成である。彼のこだわりは、あえてライスと混ぜて食べずにそのまま食べるということだ。そしてそれも相まって、スプーンで勢い良くかきこんでいる。

 (うーん……旨いけど、物足りねーなー。今度作る時は何か足すか。ハチミツとか、生クリームとか。コーラも試してみよう)

 これが、食べ終えた時の感想だ。よりにもよって甘いものばかりだ。

 「よーし、食った食った。さー学校行くぞー」

 学校へ行くまでの流れは、大体こんなものだ。日によって料理だったり工作であったりするが、時間的にはさほど変わらない。

 そして学校に着くのは、朝の七時。佐森君は野球部員。ではない。というか、部活にすら入ってない。それは、これから起きることに基因してくる。

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