ハーレム王に俺はなる!

わだち

第1話ハーレム王に俺はなる

 2030年、日本政府は止まることのない少子化に対してある一つの決断をした。


それは……一夫多妻制の導入。


つまり、ハーレムを作ることを推奨したのだ。この政策に対して世の男たちは歓喜した。


だが、いきなり一夫多妻制を導入しても世間は戸惑ってしまう上にどのような問題点が生まれるか分からない。そこで政府は試験として、全国の男性たちの中から抽選で選ばれた1人の男がハーレムを形成することを許可することにした。


その男の名は…「鳳凰院 帝ほうおういん みかど」。


この俺のことだ。



***


自らが優れた存在であるということに気付いたのは5歳の頃だった。


5歳にして九九をマスターした俺は天才だと周りから褒められまくった。


初めて女の子に告白されたのも5歳の頃だった。当時は幼稚園で女の子が毎日のように俺を取り合っていた。もしかしたら、何人かの女の子とは結婚の約束をしたかもしれない。


俺は運動もよくできた。小学、中学では運動会でいつもスターだった。女子たちの黄色い歓声が心地よかったもんだ。


頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群。


老若男女問わず全ての人間が一度は憧れる。それが俺だ。


だからこそ、政府からハーレムを作ることが出来る男に選ばれたときは気分が最高だった。


これで俺に恋する女性を全員幸せにしてやれる。日本という国の法律のせいで俺と結婚できずに泣いてしまう女性が減るのだ。こんなに喜ばしいことはないだろう。


さて、明日からはいよいよ高校生活が始まるな…。

高校でも中学校の頃に上手くいくとは限らない。


今日もあれでシュミレーションを積んでおくか…。


そうして俺が取り出したのはとある乙女ゲーム。


俺の姉がこれに出てくる男がこの世で一番尊いと言っていた。確か…名前は…「天上院 王てんじょういんきんぐ」。さあ、しっかりと勉強しなくてはな…。





***


夜が明けた。


今日からこの俺、鳳凰院帝の楽しい楽しい高校生活が始まる。

だが、浮かれてはいけない。俺の目指す「天上院王」は決してウキウキした気持ちで登校することなどないのだから。


俺はウキウキする気持ちを必死に抑えて、今日から通う学校ー「神山高校」へと向かった。


高校の昇降口で自分のクラスを確認する。



ふむ…。俺はA組か。


「ねえ…。あの人かっこよくない?」

「確かに!あの人と同じクラスだったらいいね!」


おっと、ここにいたらまた俺に惚れる人が増えてしまうかもしれない。

一先ずはここから立ち去るとしよう。



クラスに入るとクラスの中には既にかなりの人が来ていた。

俺は自分の席を確認して、席に座った。


この時、できる限り不愛想な顔をして偉そうに振舞うことを忘れてはいけない。


「こんにちは!私の名前は花澤明里はなざわ あかり。今日からよろしくね!」


すると、早速隣の席の女の子から声を掛けられた。


ふむ…。どうやら早速、天上院王さんの教えの効果が生まれたらしい。

いきなり隣の席の女の子から声を掛けられることになるとは思わなかった。


話しかけてきた花澤さんは、ぽっちゃりとした体型に綺麗な長い髪の元気いっぱいといった感じの女の子だった。


折角話しかけてもらったわけだしな。お世辞にも可愛い女の子とは言い難いが、好感度を上げておいた方がいいだろう。


「ふん…。愚民がこの俺に話しかけてくるとはいい度胸だな。」


「…え?」


「まあ、その度胸に敬意を表して名前くらいは教えてやろう。俺の名は鳳凰院帝。俺は貴様らのような愚民とは違う。今回は特別に見逃してやるが、次からは話しかけるときは言葉遣いに気を付けるんだな。」


「…う、うん。」


花澤さんの返事を聞くと、僕はそっぽを向いた。


若干、酷いことを言ってしまったことへの罪悪感があるが気にしてはいけない。

こうしてあえて突き放すことで逆に追いかけようという気持ちが湧いてくるとうちの姉も言っていたしな。


花澤さんはそれ以上話しかけてこようとはせずに、また別の人に話しかけに言っていた。



その後、花澤さんとのやり取りを見ていたせいか俺に話しかけてくる人はいなかった。



その後、担任の先生がやってきて簡単な挨拶を済ませた後、俺たちは入学式へと向かった。


当然ながら俺は一年代表として全校生徒の前で挨拶をした。

多少、緊張はしたが特に問題はなかっただろう。


入学式が終わり俺たちはクラスに戻った。


「はい。改めて皆さん入学おめでとうございます!私はこのクラスの担任を務める東山裕香とうやま ゆかです。私も今年から教師になったので皆さんと一緒に成長したいなって思っています。楽しい一年間にしましょうね!」


担任の東山先生は笑顔が可愛らしい素敵な女性だった。


「それじゃあ、まずはお互いを知るためにも自己紹介をしましょうか。1番の人から順番にお願いします。」


東山先生の言葉で自己紹介が始まっていく。


それにしても、俺の後ろの席のやつは休みなのだろうか?

朝から俺の後ろの席には誰もいなかったし、入学式の時にも俺の隣の席は空いたままだった。


「はい。ありがとうございました。それでは、次の人お願いします。」


おお、どうやら俺の番が回ってきたようだ。

自己紹介イベントはとても重要だからな。ここは天上院王のセリフをそのまま使えばいいだろう。


「鳳凰院帝だ。知っている人は知っていると思うが俺はあの鳳凰院だ。お前らのような愚民とは生まれた時から違う選ばれし人間だ。貴様らのような愚民と仲良くするつもりはない。それと、くれぐれも口の利き方には気を付けるんだな。」


クラスが一気に静まり返る。

先生でさえ何を言えばよいか迷っているようだった。


「えっと、その…。」


「じゃあ、鳳凰院の次の人は休みみたいなんで俺の番っすね!!」


誰もがどうすべきか困っていたその時、俺の次の次の番号の奴が立ちあがって自己紹介を始めた。


そいつのおかげでクラスの雰囲気は元に戻ったようだった。

とりあえずよかった。少なからず悪い雰囲気にしてしまったことには罪悪感があったからな。

だが、これでこのクラスの女子に対してはかなりインパクトを残せたはずだ。


「ありがとうございました。えっと、今日は来ていない人を除いたらこれで全員ですね…。」


先生がそう言った時、クラスの扉が勢いよく開いた。


「すいません!遅れました!!」


「あ、来てくれたんですね。話は聞いているので大丈夫ですよ。折角だからそのまま自己紹介してもらってもいいですか?」


「あ、はい!僕の名前は松岡陽翔まつおか はるとです。一年間よろしくお願いします!」


そう言った男は顔立ちは整っているがどこにでもいるような普通の高校生といった雰囲気の男だった。


「はい。それじゃ、松岡君はあそこの空いている席に座ってください。」


「分かりました。」


松岡という男がこちらに歩いてきて俺の横まで来たとき、突然、松岡と俺の斜め後ろの女の子がお互いを指さした。


「「お前(あんた)は昨日の!!」」


どうやら二人は知り合いだったようだ。その後、二人は周りの目も気にせずに言い合いを始めた。


「お前のせいであの後大変だったんだからな!」

「何よ!あれはあんたが悪いんじゃない!」


正直うるさい。天上院王ならもう怒っているところだぞ。ん?そうか。俺も自分の本音を言ってしまえばいいじゃないか。


バン!!


机を強く叩くと、言い合いをしていた二人は驚いた顔でこちらを見てくる。


「言い合いをするなら他所でやってくれ。貴様らのせいで俺の貴重な時間がどんどん無駄になっていく。貴様らはただ周りも見ずにわめく知性のないサルか?違うと言うなら大人しくしてくれ。」


「あ、ああ。ご、ごめん…。」

「何よあんた。さっきの自己紹介の時も思ったけど何様のつもりよ。喧嘩打ってんの?」


男の方はどうやら大人しく引き下がってくれたが、女の方は理解してくれなかったらしい。


「ひ、緋山さん!とりあえず落ち着こう?鳳凰院君もさっきのは言い過ぎだよ?とりあえず、今はHR中だし抑えて抑えて…。」


「…分かったわよ。」


あわや一触即発かと思ったが、どうやら俺の隣の席にいた花澤さんが緋山という女を止めてくれたらしい。

やはり、好感度を上げておいて正解だったな。


その後は特に何事もなくHRが進んでいった。


「それじゃあ、今日はこれでお終いです!皆さん、さようなら!」


そう言って東山先生が挨拶するとクラスの人たちはがやがやと喋りだした。


さて、帰るか。

俺がそう思って鞄を手に取った時、花澤さんが俺に話しかけてきた。


「鳳凰院君。この後、クラスの皆でカラオケにでも行って懇親会をすることになったんだけど鳳凰院君も来ない?」


ほう…。カラオケか。俺の美声をアピールするチャンスの場ではあるが、天上院王は群れることはあまり好まないタイプだったからな。ここは断るのが正解だな。


「自己紹介の時も言っただろう?俺は貴様らと仲良くするつもりはないとな。俺は忙しいんだ。帰らせてもらうぞ。」


「ちょっとあんた。花澤さんはあんたみたいな協調性のかけらもないようなやつでも気を使ってあげてるのよ?断るにしてももっと言い方があるんじゃないの?」


俺が帰ろうとすると先ほどの緋山という女が再び突っかかってきた。


「ふん。俺は別にそんなことは頼んでいない。むしろ、俺からしたらそこの女の誘いは迷惑だ。」


「あんたねえ!」


「緋山さん、やめて!私は気にしてないから…。」


「その女もそう言っていることだし、俺はもう行かせてもらう。」


そう言って俺はすぐにその場を後にした。


***


今日は中々いい振る舞いが出来たんじゃないだろうか。

我ながらかなり天上院王に近い振る舞いが出来ていたように見える。


この調子でやっていけば天上院王のように次からはどんどん女子から話しかけられるに違いない。

その時に幻滅されないように今日もしっかりと勉強しなくてはな!


こうして、俺は今日も乙女ゲームに取り組んだ。


***


おかしい…。

入学式から三か月がたった。

クラスは夏休みを前にして大盛り上がりだ。

だが、その中で俺の周りは静かなものだった。

最初の頃はいた話しかけてくる女の子も今じゃ数えるほどしかいない。


いや、まだだ。焦るのはまだ早い。もう少し様子を見てからでも遅くはないだろう。


***


夏休みが過ぎ、10月になった。夏休みは結局たまたま松岡たちに会う以外は女の子と話す機会はほとんどなかった。

一度だけ、花澤さんが遊びに誘ってくれたが予定が入っており断ることになってしまった。


俺に話しかけてくる女の子は以前に比べ更に減り、今じゃ花澤さん程度しかいなくなった。


ここは一度姉にアドバイスをもらった方がよさそうだ。


「天上院王は何で好かれるのか?そりゃあ、イケメンだからよ。それに気にいったらグイグイ来る俺様系のとこもいいわね。あとは同情できる過去を持ってるところかしら。やっぱりああいう強そうに振舞っている男が実は少し弱いところがあるっていうのがもうね。最高なのよ!」


なるほど…。

俺に同情できる過去があるかは分からないが…とりあえず意外と孤独に弱いみたいな設定を付ければいいのか?後は、気に入った人に対してはグイグイ行くことだな。とりあえずは身近な女性をガンガン口説いてみるか。


***


12月になった。

何故かよく分からないがクラスのギャルたちが俺の周りに集まるようになった。

話せる女の子が増えたのは素直に喜ぶべきなのだろうが、そのギャル3人組以外からは依然として話しかけられる気配がない。

むしろ、遠ざけられている気がした。


冬休み、初詣に行くと絵馬を書いているところを花澤さんに見られてしまった。

しかも、絵馬の内容まで見られてしまった可能性がある。正直、恥ずかしいから人には見られたくなかったのだが…見られていないことを祈ろう。


***


冬休みが終わり、3学期が始まった。

最近はやけに花澤さんが話しかけてくるようになった。昼休みに屋上でボッチ飯をしていたら花澤さんが来ることも少なくなかった。

新たな女子との交友に少しの喜びを感じたが、花澤さんが話しかけてくるたび俺の周りにいるギャルたちが不機嫌そうにしていたのが気になった。


***


2月、花澤さんの身の回りで不審なことが起きるようになった。


どうやら、俺の周りにいるギャル3人組にいじめられているらしい。

原因は俺にあるようだ。俺は花澤さんにもう話しかけるなと言った。

だが、花澤さんは俺に話しかけることをやめなかった。なぜだ?と聞いても花澤さんは決して答えようとはしなかった。



***


3月、花澤さんが泣いていた。


その日、俺は放課後に屋上でコーヒーを飲んでいた。沈む夕日が綺麗だなあ、なんて思っていると屋上に目を赤くした花澤さんと松岡と緋山が現れた。

俺はすぐに姿を隠して3人の様子を伺った。


「明里、もうやめなよ。全部あの鳳凰院ってやつのせいじゃない。あんなやつ放っておけばいいじゃない!そうすれば、明里だってもうこんな目にあうことないんだよ!」

「正直、僕も鳳凰院に関わるのはもうやめた方がいいよ思う。あんな奴のために明里が傷つく必要なんてないよ。」


「…二人とも、ありがとう。でも、私鳳凰院君に話しかけるのはやめないよ…。」


「なんで!?」


緋山の言う通りだ。何でそこまでして俺に関わるのだろうか?


「見ちゃったんだ…。きっと私だけが彼の本心を知ってる。だから、私は彼の力になってあげたいの。これは私の我儘。やっぱり、皆仲良しが一番だから!それに、きっとあの3人組も話せばわかってくれると思うから、二人は心配しないで!!」


「…はあ。分かったわよ、でも困ったことがあればすぐ私たちに言いなさいよね。」


「うん。ありがとう。」


そう言った後、3人は屋上を後にしていった。


そうか…。さっきの花澤さんの一言で分かった。花澤さんはやっぱりあの絵馬の内容を見ていたんだ。

だから、俺に話し続けてきたのか…。


なら、俺がやるべきことは…。



***


<side 花澤明里>


 今日、私は思い切って私をいじめてくる3人を呼び出した。

放課後の校舎裏、私の呼び出しに対して3人が指定したのはそれだった。


放課後の校舎裏に行くと、3人は既に私を待ち構えていた。

昨夜、雨が降ったせいか地面はまだ少しぬかるんでいた。


「今日はわざわざ集まってくれてありがとう。」


「そんなんいいから早くうちらに言いたいこと言いなよ。」


「分かった。…あのね、協力できないかなって。」


「あん?協力?」


「うん。鳳凰院君と仲良くなりたいのは4人一緒でしょ?だから、皆で仲良くなれないかなって思うんだ!どうかな?」


私がそう言い終わると、3人はお互いの顔を見合わせた後、大声で笑い出した。


「「「あははははははは!!!」」」


え?何で笑うの?


「あんた、馬鹿じゃないの?私らが鳳凰院に媚び打ってんのはあいつの権力に守ってもらうためだから。まあ、確かに顔はいいし経済力もありそうだからセフレくらいにはしてやってもいいけど、あんなクソみたいな性格した男、今どき誰が好きになるんだっつーの。」


「あ、あと、私らがあんたをいじめてんのは単純にあんたが気に入らないからだから。」


「…え?」


どうゆうこと?


「まあ、まだ緋山なら分かるけどさ、ブスでデブで笑顔で明るいくらいしか取り柄のない女がクラスでもそれなりにイケメンの青山や松岡と仲良さそうにして、その上、鳳凰院に話しかける姿を見ちゃうとさ、どうしてもむかついちゃうんだよね~。お前ごときが調子に乗んなってね。」


「そ、そんな!私はただ皆と仲良くしたいだけで…調子に乗ってなんか!!」


「それが、ウザイの。むかつくの!!」


3人組の一人はそう言うと同時に私を思いっきり突き倒した。


「きゃあ!!」


ぬかるんだ地面に倒れた私の服にたくさんの泥がついた。


「ははは!!きったなーい!まあ、豚みたいなあんたにはお似合いよね。あと、そのやけに綺麗な長髪も前から気に入らなかったのよね。」


そう言うと、3人組ははさみを取り出して私にじりじりと詰め寄ってきた。


「いや…やめて!この髪は、この髪だけはやめて!!」


「知らないっつーの。」


昔から食べるのが好きで太っていた私が唯一人から外見で褒められるのがこの髪だった。

そんな、私の数少ない大切なものを3人は容赦なく切った。


「「「はははははは!!!」」」


乱暴に切られた私の髪はぼさぼさになってしまって、以前のような綺麗さは微塵も感じられなくなっていた。


ああ……何か私の中で大切なものが崩れ落ちた気がした。


「あ、あれ…。」


気付けば私の目から次から次へと涙がこぼれ落ちていく。今まで、ずっと我慢してきたものが一気にあふれ出した。


「…うぅ…。」


「あれ、どうしたの?泣いてんの?高校生になって泣くとかダサすぎっしょ。」


もう私にはこの3人に立ち向かう気力なんてなかった。いじめになんて負けない。そう思ってた。でも、私はもう……。



「醜いな。」


私が限界を感じた時、鳳凰院君の声が聞こえた。


そ、そうだよね…。鳳凰院君からしたら、今の私は凄く醜いよね…。


「あ、帝!そうだよね!この女めっちゃ醜いよね!!帝が迷惑してることにも気づかずにしつこく帝に話しかけるし、まじ身の程を知れって感じ?帝からももっと言ってあげて!」


そうなのかな?やっぱり、鳳凰院君には私の行動は迷惑だったのかな…。


怖い…鳳凰院君の顔を見るのが…。鳳凰院君の言葉を聞くのが……。




「本当に醜いな。お前たち3人の心は。」




でも、鳳凰院君の口から出たのは私が予想していたものとは全く違ったものだった。


「え?帝、何言ってんの?」


「聞こえなかったか?何度でも言ってやろう。醜いのはお前ら3人の方だ。」


鳳凰院君の言葉に3人は呆気に取られていた。


「寄ってたかって一人の女をネチネチといじめるのは楽しかったか?自分よりも優れた人間を蹴落とすのは気持ちよかったか?哀れだな、そうすることでしか自分を強く見せれないんだろう?」


「な!?」


「確かに、そこの女は貴様らに比べれば太っている。だが、それがどうした。少なくとも、俺はそこの女に話しかけられて迷惑に思ったことなど一度もない。それに、俺はそこの女がブスだと思ったことは一切ない。」

「そもそも、俺のような完璧な人間に比べれば貴様ら程度の女の可愛い可愛くないなど全て微々たるものだ。外見だけならな。」

「そこの女はこの俺でさえも持っていない、清く美しい心を持っている。貴様らは知らんだろうな。そこの女の友達が貴様らの行為を教師や生徒会に報告しようとした時、誰よりも貴様らのことをかばっていたのがそこの女だということをな。」

「貴様らにできるか?自分に危害を加える人間をかばうことが?」


3人組は鳳凰院君の言葉聞き押し黙っていた。


「俺からしたら、貴様らよりもそこの女の方が何倍も良い。むしろ、そこの女じゃなきゃ嫌なくらいだ。」


え?

わ、私じゃなきゃ嫌だ?

え?え?き、急に何言ってるの!?


顔が急激に熱くなる。とてもではないが、今の私には鳳凰院君の顔を見ることはできなかった。



「分かったら、とっとと何処かへ行くんだな。それと、二度と俺にも、そこの女にも関わるな!」



鳳凰院君がそう言うと、3人は何処かへと走り去っていった。



「大丈夫か?俺のせいですまない…。」


鳳凰院君はそう言ってこちらにハンカチを差し出してきた。

まだ、恥ずかしくて鳳凰院君の顔が見れない私は俯きながらそれを受け取った。


「そうか…。俺の顔などもう見たくはないよな…。ありがとう、お前が話しかけてくれていた日々は中々に楽しかった。もう、俺には関わるな。」


何を勘違いしたのか、鳳凰院君はそう言ってその場を立ち去ろうとした。


え?ちょっと待って!まだ、お礼も言えてないのに…。



「あ、あの!」


私が呼び止めると、鳳凰院君が立ち止まった。



「ありがとう!お世辞でも私がいいって言ってくれて、嬉しかった!!」



「…お世辞というわけでもないんだがな。」


鳳凰院君はこちらを振り返り、少し子供っぽさの残る笑顔を見せてからその場を後にした。




あ、あんな顔するんだ…。


鳳凰院君が見せた笑顔は私が思っていたものとは少し違ってどこか子供っぽさを感じさせる自然な笑顔だった。


てか、お世辞じゃないって言った!?

ほ、本当なのかな…?



ダイエット、してみようかな……。


***



終わった…。

今日の花澤さんの様子から見て、俺はとうとう花澤さんからも嫌われてしまっただろう。

おまけに、俺の周りにいたあの3人組にも俺に関わるなと言ってしまったし、これで俺の高校生活がボッチであることは確定してしまった。


なぜだ、天上院王を見習えば確実に上手くいくはずだったのに…蓋を開けてみれば恋人は愚か、友達もいなくなってしまった。


俺が自分の家のリビングで乙女ゲームとにらめっこしていると、うちの姉が話しかけてきた。


「うわ!それ、懐かしい。その作品、天上院王って男を落とすのが難しすぎてクソゲーって呼ばれてたんだよね。」


は?今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだが。


「友達と協力しながらなんとかクリアしたんだっけ。いやー、大変だったわ!」


「…なあ、姉よ。天上院王って男が最高って言ってなかったっけ?」


「あー、そうね。天上院王は付き合うまでは本当クソみたいな男なんだけど、付き合ってからはあり得ないくらいいい男になるのよね。だから、そう言っちゃったのかなあ。」


な、なんだそれ…。

じゃあ、今まで俺がやっていたことは…。


「なあ、姉よ。もし、天上院王って男が現実にいたらどう思う?」


「何その質問。んー、そうね。少なくとも私は確実に嫌いになっているわね。てか、好きっていう人いないんじゃない?」




終わった…。

俺のしてきた一年は全て無駄だったんだ…。



こうして、俺は2年生からは天上院王を意識することをやめて細々と学園生活を送ることになるのだが、そんな俺に政府からのハーレム進行状況を確かめる使者がやってきたり、つい出てしまう天上院王の態度のせいで事件に巻き込まれたり、謎の可愛い女の子に好かれたりするというイベントが巻き起こることになるのだが、それはまた別の話。

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