-05 外界

 カイトは神の記憶から、神の力を取り戻すために必要な物を見た。それは三種の神器と呼ばれるもので、一つは人間の国にいるフェメラルが持つ『回帰かいきつるぎ』だ。剣で貫くことでステータスを吸収し、柄をかざすことでステータスを与える事の出来る人間が求めた力を体現したような神器だ。

 カイトはそれを見たことがあるし、どこにあるのかも知っている。つまり、今のカイトが目指すべきは残り二つの神器を探す事だ。



『それで、他の神器がどこにあるのか分からないんですか?』



 カイトは人間の国と反対方向に三日三晩歩いた場所で寝転んでいた。

 草の上に布を数枚敷いて、その上に寝転んでいる。木々の隙間から見える月明かりが、時折雲に遮られて辺りを暗くする。



『全く分からないです』


『神様の記憶を見る限り、して位置を特定していましたけど……』


『今までの歴史上は、神器の発見がきっかけで神復活の声が挙がっていましたからね。神器と言うのは、それら同士で共鳴するのです。神器を身に付けている者はやがてその力が体に馴染み、他の神器の場所が分かるようになるのです』


『フェメラル様は神器を身に付けて十年以上経過しているはずですが、もしかすると――』


『いえ、それはないです』


『……なぜですか?』


『あなたの両親以外の人間が、私のいる場所へと辿り着けなかったのと同じ理由です』



 神の元へと辿り着くための道は、自然の摂理から逸れる考えを持っている者に対して攻撃的だった。

 今のフェメラルの目的は何か。それはただ一つで、今まで人間を虐げてきた多種族の全滅である。それは自分たちが生き延びることではなく、満足することを目的とした殺戮だ。



『なるほど。それならフェメラル様には尚更無理で、僕が自力で探すしかないわけだ』


『別に神器に共鳴する者が現れるのを待っても良いのですよ?』


『その方が楽でしょうし、神様も話し相手が出来て楽しいでしょうね。でも、僕は何十年、何百年、何千年と待つようなことはしたくないんです』


『どうしてですか?』


『結末の分かりきった世界の変化を延々と見ているのがつまらないからです』





 カイトはさらに二週間ほど進み続け、生まれて始めて他種族の国を目の当たりにすることとなった。



「雑だな」


 カイトは一人でそう呟いた。

 人間はステータスを操作するための力を得てから、他種族の虐殺を続けてきた。小さな集落から――ではなく、力を得て自信をつけた人間は大きな都市から堕としていった。現在では他種族の全体数は、神の世界が崩壊する前の三分の一を下回っている。

 ――とは話に聞いていたが、カイトは自分の目で見て初めて実感することになった。今回発見した集落は人間以外の種族がそれぞれ同じぐらいの数がいて、全体数はおおよそ五百程。



「これがあれば一先ずはいいか……」



 カイトは人間の兵士が持ってきていた荷物の中から、フード付きで薄手のコートを引っ張り出した。フードを深めに被ったカイトは、目の前の集落へと繰り出す。

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