-04 目的

 カイトは水音のする方に馬を使って進んだ。

 後ろの荷台には兵士たちが持ってきた道中の食料が詰め込まれている。血で汚れた服は洗ってから水気を絞り、月明かりを目いっぱいに浴びた大きめの石にぺたりと張り付けた。その後全身に浴びた返り血を洗い流し、魔法で空中に炎の玉を出現させた。

 カイトはふと思った疑問を解決するために、誰もいないその場所で口を開く。



「神様、僕の声聞こえてますか?」


『ずっと聞こえてますよ。別に発声しなくても頭の中で念じてくれれば伝わります。普通ならこちらからの言葉の伝達など不可能なはずなのですが、これはあなたたちがオワリノミズウミと呼ぶ存在の影響でしょうね。話を戻しますが、今のカイトの状態についてですよね?』



 カイトは今までにやったことのないコミュニケーションに違和感を覚えつつ、頭の中で伝えたい言葉を念じる。



『最後の食事からかなりの時間が経過しましたが、空腹になりません。これもオワリノミズウミの影響ですか?』


『あなたたちがオワリノミズウミと呼ぶ存在は、この世界に存在するステータスの合計値に等しい。それが今、カイトの体の中に納まっています。一言で言えば、今のカイトは今不老不死です。ステータスが下がらないので食事も睡眠も必要ありません』



 不老不死。

 世の権力者たちが幾度となくそれを求めたことはカイトでも聞いたことがある。しかし、それはカイトにとって必要なものではない。

 カイトは夜空を見上げて少し考える。不老不死となった場合、この先どのようなことが起こるのか。答えは考えずとも分かる。同じ景色を、この変わることのない世界を、ただ延々と見続けるだけである。



『神様、僕はどうやったら死ねますか?』


『あなたが私の記憶で見た通りの事をすれば良いだけですよ』


『……オワリノミズウミと関係のあるものを見た記憶は無いですが』


『そもそも、あなたたちがオワリノミズウミと呼ぶ存在は神の不在時にのみ効果を発揮する理です』


『つまり、神様が再び神としての力を取り戻せば僕の体からオワリノミズウミも消え去るということでしょうか?』



 言葉による返答はなかったが、カイトには神が肯定したのが伝わってきた。



『それなら、神様が元の力を取り戻すために努めます。もっとも、どちらがなのかは分かりませんけど』


『ふふ、そうですね。私もどちらから始まったかなんて、もう覚えていません』



 神様も笑うことなんてあるんだな。

 そう思うのと同時に、カイトの頭に一つの疑問が浮かんだ。



『今、普通に神様とコミュニケーションをとってますけど、どういう原理ですか?』


『私の意識というのは、私の力が存在するところにあります。見たり聞いたりしたものを共有する事は出来ませんが、四か所に意識が分散しているのは分かります。まず間違いなく、三種の神器とここでしょうね』


『ということは、フェメラル様とも?』


『先ほど言いましたけど、普通は私からの意思の伝達はできないんですよ。こちらからコミュニケーションを図ろうとしても気づくことは無いでしょうし、仮に気づくことが出来たとしても解釈することは出来ません』


『それも理と言う訳ですね』


『呑み込みが早くて助かります』



 朝日が昇る頃、カイトは乾いた服を身に付けて人間の兵士が使っていた直剣を腰の左側に提げた。



『神様、一つ聞いてもいいですか?』


『どうぞ』


『僕と会話するの、楽しんでますか?』


『ふふ、良く分かりましたね。喋り相手がいないというのは、存外退屈なものですよ。こんな偶然はそうそう起こりません。今の内に楽しんでおかないと損です』



 ものの見方や考え方、立場は全く異なる。しかし、人格はまるで感情のある生き物の様だとカイトは思った。



『僕は不老不死ですよ。別に急がなくてもいいでしょうに』


『だって、あなたは永遠の時を生きたくないのでしょう?』


『そうですね。でも、もしかしたら失敗して不老不死のままこの世界に存在し続けることになるかもしれませんよ?』


『私の記憶を見た上で、あなたが私に神の力を戻すことが出来ないと思いますか?』


『いいえ、全く』



 こうして、不老不死となったカイトが死を手に入れるための物語が始まった。

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