第38話 ねこがたり

「旅行中止??!」


スーツケースを持って、何故か浮き輪を持ったリリーが、驚きの声を上げる。

俺の故郷に海はないぞ、と思いつつ、ルシフが説明。


「ああ。今朝、他の面子……ディアナさん以外には伝えたんだが、お婆さんから魔導通信があってな……勇者の死に関して、話す事は無い、と」


「……まさか……」


リリーが戦慄きと共に呟き、


「ああ、恐らく、クラテス王だろうな」


ルシフが沈痛な声で呟く。

此処までするという事は、嘘なのは間違いない。

だが、真実に至る道は……無い。


「残念ですが……手詰まりの様ですね。悲劇の村サマイル……そこに行けば手がかりがあるかもしれませんが……滅びていますしね。生き残りを探すのも難しそうです」


ディアナも、残念そうに言う。


「部活対抗戦が駄目になったから、せめてこれだけでもと思ったけど……残念ね」


リリーは、項垂れる。


スピカが、レオに、


「ねえ、レオ、まとめてみて?」


「えっ?!いや……正直、二転三転してて……良く分からねえ」


レオが困惑した様に言う。

無茶振りである。

レオはもともと話についてこれてないと言ってたしな。

ルシフが止めようとすると──


「勇者、アネモニ、クレマティス、の3人は、魔王の討伐に成功。無事に魔王城を出た。途中、サマイルの村で、今後の事を話し合い……どちらが勇者と結婚するかでもめ、そのまま殺し合いに。それを知った国王は、事件の隠蔽の為、サマイルの村に居た人を皆殺しに。そして、サマイルの村は魔王残党により殺されたと発表。この悲劇を繰り返さない為に、ハーレム法を発表……」


「気持ち悪いくらいに混ぜてきたな?!」


欄外にいた筈の、勇者達が三角関係って話を盛り込んで来やがった?!

話だけ聞くと頷いてしまうから怖い。

ルシフが冷や汗を感じる。


「なるほど……流石レオ、案外これが事実なんじゃないでしょうか?」


「……確かに……怖いくらい説得力が……」


リリーが呻く。


「レオの能力の1つ、真実は小説より奇なりねこがたり。断片的な情報を、直感により組み合わせ、仮説を産み出す特殊能力ユニークスキルです」


「そうなのか?!」


スピカのドヤ顔解説に、レオが驚きの声を上げる。


特殊能力ユニークスキルが真実かどうかは分からないが……産み出された話は、それっぽい話になっていた。


さて……


「どうする、リリー。この内容を記事にまとめて発表する事もできる、が?」


リリーは、小首を振り、


「流石に……叔父様がかわいそう……それに……お祖父様が手を汚された事も……」


リリーは溜息をつくと、


「すみません、この事は、口外しないで欲しい。研究テーマは……別の事で御願いします」


「私も……それが良いと思う」


リブラが、重苦しい顔で頷く。

それは、此処にいる一同の総意だった。


「間に合わなくても良い、来年の発表でも良いんだが」


ルシフが切り出す。


「このロマニアが、賤混者ハーフに寛容……何か理由が有るのだろうか?」


「それは……確かに考えたことも無かったです。純粋に戦力の為だと思っていましたが。確かに、気になりますね」


リブラが頷く。


「良し、じゃあ、史学部の研究テーマは、王貴血者アーク純人間ピュア賤混者ハーフの垣根の撤廃!良いわね!」


それは史学部なのか?

ルシフはそう思ったが。


まあ、悪くは無い話であった。

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