第7話 初授業

授業は、ルシフにとって退屈なものだった。

アカネアから、数多の叡智を学んでいる。

薬術、工学は言うに及ばず、言語学、数学、文学、歴史……隙は無い。

と言うか、地元じゃ教壇に立っていたのがルシフである。


「そうだな──ルシフ、此処の作者の心情を答えてみろ」


「はい、問題の意図としては、マーガレットが成長していた事に安堵し、かつ、寂しさを覚えています──が、実際には作者は、今日の晩御飯は蟹のシチューと考えていたそうです」


「そうなのか?!と言うか、後半の情報はいらん!!」


どっ


クラスが沸く。


ルシフは窓の外に視線をやる。

魔導の実践をしているようだ。

各々、違う属性を行使しているのは、複数属性が扱えないというのが事実なのだろう。

まあ、地元でも、基本的にはそうだった。

と言うか、相性の良い単一属性に特化した方が強いのだ。


さて、次はうちのクラスも実習か。


--


「さて、今日は、木刀を用いて組手を行う。適当にペアを作れ」


ルシフの剣の腕は超一流。

母親代わりにして、姉弟子に仕込んで貰ったのだ。

村で一番とは言わないまでも、屈指の実力がある。

学生の遊戯程度では、相手にならない。


とはいえ、その余裕は重要だ。

近しい実力であれば手加減などできないが、実力差が有れば、余裕を持って指導できる。


まあ、初日、速攻で皆ペアが出来れば、自分はあぶれそうだが。


いや、皆、ルシフを見ている。

なるほど、俺と組みたいが、妙に牽制し合っているのだな。

ルシフは納得する。


「おい、転校生。あたいと組もうぜ!」


進み出たのは、猫耳少女。

ハーレム候補だ。

既に恋人がいなければ良いのだが。


「ああ、よろしく。お手柔らかに頼むよ」


「ヘヘ、大丈夫だ。怪我はさせねえよ」


猫耳少女がにかっと笑う。


「あたいはレオ、よろしくなっ」


--


ひゅひゅひゅ


ルシフが放った剣撃を、流水の様に受け流す。

そして──


ボウッ


暴風の様に吹き荒れる剣筋。

いなす事すら危険に思い、で躱す。


つえええええええ。

ルシフは心の中で罵倒する。

何が、剣だけでトップが取れる、だ。

完全に人間基準じゃないか。


「おい、レオ。お前、ちゃんと手加減しているんだろうな?」


教官が青くなって言う。

本当は、各自相手と組手をするのだけど、皆、ルシフとレオの戦いに見入っている。


「大丈夫、大丈夫!こいつ強いよ!」


ひゅひゅひゅ!


流れる様に剣撃が暴風となって襲う。

くそ……俺の圧倒的強さを見せつける計画が……

最初で躓きたく無い……


かくなる上は……!


重力属性、第弐階位セカンド重力軽減ライトを無詠唱で発現。

風属性と異なり、周囲からバレにくい。

まして、重力属性に馴染みがなければ、尚更だ。

本気を出した結果早くなった、そうとしか思われない。


レオの目が、光る。

口元がにまり、と笑い。

まるで面白いおもちゃを見つけた様な……いや、獲物を狩る様な──


ごろごろ……


レオが猫らしく喉を鳴らし……待て?!

汚え、こっそり詠唱してやがる。

重力属性、第肆階位フォース上位重力軽減フォライト

こっちは無詠唱で威力が激減している上、下位魔法。


「にゃああああああ!」


大砲の直撃かと思う様な、凄まじい速度の一撃。

避け切れず、ルシフの右手が飛ぶ。

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