第10話「独壇場」

 久里浜が突如提案した、誰が誰に投票したか分かるシステム──。それは、久里浜の一種の炙り出し作戦なのだろう。

 誰が自分につき、誰が敵対するのか──。

 後々、後腐れができそうな、久里浜の圧力が掛かった不公平とも思われるシステムである。

『それじゃあ、人事課から。ひとり一人、壇上に上がって来てくれ』

「は、はい……」

 そんな今後の社の命運を掛けた投票がこれより開始される──。


 人事課の男たちが、ゆっくりと壇上にあがっていった。

 札に手を掛けた男が、ちらりと久里浜に視線を送る。

 久里浜は頷いた。

 何事か、指示を送っているかのようだ。

「うぅ……」

 人事課の社員が札を手に取る。

 掲げたのは──青の札。

「よぉしっ!」

 途端に久里浜は礼を欠いてガッツポーズをした。


 その後も、続々と投じられたのは青札であった。

 結局、人事課は全員、青札を投じていた。

「いやぁ、さすがですね、久里浜君」

 結果を受けて素直に感心した藤堂が、久里浜に拍手を送る。

「まだまだ、これからですよ」

 久里浜は真っ直ぐに社員たちに目を向けながら、藤堂の言葉に軽く返した。


 青札──。

──青、青。

──青色。


 次々に投じられていく青札票──。

 未だに赤札は一票もなく、表面上穏やかな藤堂も焦りを感じているように見えた。ハンカチで額に浮かんだ汗を頻りに拭っている。

 経理課──秘書科──次々に投票が行われていく。

『次は、営業課じゃ』

 社長に呼び掛けられ、先輩たちが椅子から立ち上がった。

 いよいよ私たちの順番が来たようだ。

 順々に階段を上がって行き、投票を行っていく。


 そして、あんなにも久里浜を目の敵にしていた部長が投じたのは青札──久里浜への一票であった。

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