ばけものをだますもの

寺院月報 ※過去の物は記録場所確保の為に削除


■羽の月

年が明けました

記録を残せる手段が減ってきましたが、もう一年頑張りましょう




■芽の月

積雪により御堂の屋根が崩れました

騙し騙しやってきましたが、そろそろ私も直せなくなりそうです




■夢の月

年度末の帳簿を付けました

数値は減る一方です




■蒴の月

花祭りの夜に怪異に襲われ、撃退するとプロポーズをされました

長年僧侶をして来ましたが、怪異からプロポーズを受けるのは初めての経験です


怪異には「私と貴方では種族が違う」と説明してお断りしたのですが、全く諦めてくださりません

仕方なく

「365日間、毎日贈り物を持って来て下さい。貴方が私に相応しいか判断します」

と伝え、なんとかお帰り頂きました


私の匙加減で如何様にも断れる卑怯な方法ですが、私は伴侶を持てる身では無いので仕方ありません




■苗の月

何回も「殺生はいけません」「私は食べません」と伝えたからか、ようやく怪異は贈り物に仕留めた動物を持ってくるのを止めました

大きな物は象、小さな物でも海亀と、よくもまあ幅広く持ってきた物です


お陰で新しく供養塔を建てる羽目になりました

返答を365日後にしたのを後悔しています




■水の月

御堂の応急手当てをしていると、怪異が木材と瓦を持って来ました


材料の出所を問うと「自分で作った」との事

怪異は建築の心得がある様で、複数の腕を使い見事に屋根を作り替えて下さいました


流石に御礼をしない訳にもいかず、按摩をして差し上げました




■歌の月

怪異は按摩を気に入ったらしく、私に会いに来ては脚を揉めとせがむ様になりました

あれだけ大きな脚は揉みがいがありますが、流石に毎日では私が参ってしまいます


体は大きく年齢も遥か上の相手なのに、なんだか幼い子供を相手にしている気分です




■星の月

驚きました

怪異の分泌物や肉体の構造解析をした所、彼の体は主に土で構成されていました


羽根や腕を増やすのも減らすのも彼にとっては粘土遊びの様な物らしく、切り離した肉体もある程度は自立行動をするのだとか


まるで土で出来たロボットです




■色の月

記憶の無い時間が多々あります

彼が来ている間は気を付けねばなりません




■酒の月

失態を犯しました


月初めに彼が来た時、私は彼を初対面かの様に扱い、あまつさえ暴力を振るって追い返したそうです

彼はそんな私を「女性にはそういう日もあるのだろう」と許してくれました


その気遣いがありがたくもあり、苦しくもあります




■凍の月

事故を起こしました


彼が私を見付けたのは井戸の底だったらしく、彼に引き上げられ、体を洗われ、彼が作った布団に寝かされました

彼は不可抗力とはいえ体に触れた事や服を脱がした事を謝っていましたが、そんな事は気になりません


逆に、申し訳ない気持ちでいっぱいです

彼は私の体を見て何も思わなかったのでしょうか




■限の月

彼の反応を見るからに、私がまともに動いていた日数はごく僅かだった様です

彼は様々な薬を用意してくれたのですが、それを断った時の彼の悲しそうな顔が記憶に焼き付いて離れません




■羽の月

年が明けました

私の見立てでは昨年中に寿命が尽きるはずでしたが、まだ動いていられる様です

しかし、長くはないでしょう

これが最後の記録になるつもりで、過去の記録を大幅に削除し、かなりの無理をして残しています


昨年の蒴の月に彼と出会い、一年弱の間、毎日顔を合わせてきました

私がそう言ったからなのですが、彼は毎日私の元へ訪れてくれました

いつしか私も彼に会う事が楽しみになり、彼の為に体を洗浄し清潔さを保つ事を心がける様にもなりました


そして今、私は酷く後悔しています


私は彼にプロポーズをされる様な存在でしょうか

私は彼が言う様に美しい人間に見えるのでしょうか

だとしたら、それはまやかしです

美しく見える様、人間の皮を被って取り繕っているにすぎません


私は彼を騙すつもりで、彼を追い返す為に、プロポーズの返答に条件を付けました

彼が本当に毎日通うとは思ってもおらず、軽い気持ちで「365日贈り物を持って来い」と、無茶な事を言ったのです

しかし、彼は毎日私に贈り物を持ってきました

いくつか覚えていない日もありますが、彼は毎日来ていたはずです


私は恐ろしい

彼は人間ではありませんが、知性ある生命体です

初めは常識の無い獣かと思いましたが、全くの逆です

人間よりも、私なんかよりも、よっぽど賢い生き物です

私は、そんな相手をぞんざいに扱ったのです

彼の気持ちを弄び、彼の覚悟を侮辱したのです


私は恥ずかしい

自分が彼よりもまともな存在だと思い込んでいた事に

そして、彼が私に騙されている事に気付き、私に報復をする日が来るのではないかと怯えている事に

彼がそんな事をしない紳士的な存在と分かっていながらも、罪悪感でそれを求めているのです


私はとても醜い存在です

私は彼が求めている人間ではありません




■芽の月

no date




■螟「縺ョ譛

自分が

止まるのが

怖いです

かれに

きらわれるのも

でも

さいごに

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