孤独な伝説の盗賊は異世界でも何でも盗めるそうです

神山スバル

第1話 プロローグ

 「とうとう、この日が来てしまったか」


 俺、山崎翔はコントローラーを両手で操作しながらオンラインゲーム「ブレイブハートオンライン」の裏ボスの、ガルマギアと死闘を繰り広げていた。


 「よくギルドにも入らず、パーティーも組まず、この職業で、ペット一匹とここまでやってきたな」と華麗にゲーム内のキャラを操り、ガルマギアが吐く豪炎の吐息メガフレア回避しながら呟いた。


 仲間なんて必要ない、そう勘えるようになったのには切っ掛けがある。


 俺も最初は仲間を作って一緒に楽しみながらゲームを進めたかった。ただ、このゲームを始めた時に職業ジョブとお供のペットを決めれるのだが、俺が選んだ職業ジョブ盗賊シーフでペットはもちみたいにふっくらしているからもちくんと名付けたジャイアントハムスターを選んだ。その結果、仲良くゲームしたい俺の願いは叶わなくなってしまった。


 何故なら、周りから毛嫌いされる弱くて有名な職業である盗賊シーフで、ペットはガチ勢が使うドラゴンやウロボロスではなく、エンジョイ丸出しのハムスター、ときたらもう答えは決まっている。


 ギルドに入りたい、と申し込んでもギルドリーダーから「足手まといは、いらない」と言葉を吐き捨てられ、パーティーを集ってみても「初心者かよ、餓鬼は、このゲーム辞めろ」と初めて会ったのにも関わらず、酷く中傷の言葉を俺の心を的に見立てて、的当てゲームのように幾度も投げつけてくる。


 その様な仕打ちを何度も受けていく内に、俺の考えも次第に変化していった。


 俺はペットのジャイアントハムスター、もち君と一緒に、一心不乱に様々なクエストを引き受け、やり遂げていく。


 LVレベルも順調に上がっていき、盗賊のスキル、完全コンプリート奪取キャプチャーによって、次々と敵の武器やスキルを奪い取っていった。


 周りからの評価は一変。ギルドマスターからギルドに誘われては、「足手まといは、いらない」と言ってやり、強いパーティーに声をかけられては、「初心者かよ、餓鬼はこのゲーム辞めろ」と相手の心をへし折ってやった。


 周りは激昂し、時には「お前のが餓鬼だ!!」と言い返してくる雑魚がいれば中にはパーティーで戦闘を仕掛けてくる愚かな輩もいた。俺はそんな愚かな奴等を返り討ちにしてやり、序でに身ぐるみ全て剥がして俺はその場を去った。


 後ろの方で声がする。身ぐるみを剥がした奴等の声だ。格闘家の男は勇者に向かい、「お前のせいで俺の課金アイテムを奪われた」と怒っており、勇者も格闘家に対して、「お前も俺と同じで攻撃一発も当ててない癖にえらそうにするな」と言い返し、その二人の近くで、女の僧侶が、ただただ「うわぁぁーん」と大声で鼻水を垂らして泣いているのが想像できる泣き声を出していた。


 先ほどの短い戦闘を見ていた周りの者達は皆口を揃えて、



 「孤独なロンリー伝説のレジェンダリー盗賊シーフ……」と呟くようにいっていた。



 ――そう、「だから本当の伝説になるために戦っているんだ」と画面越しのガルマギアに対して独り言だが聞いてくれていると信じて呟く。


 その言葉に返事をしてくれたかのようにガルマギアは力を溜めるモーションを取った。


 そのモーションをみて戦慄が走る。ガルマギアが煉獄のパーメトリー死の豪火デスフレイムを放ってくると、瞬時に判断した俺は、「やばいな……」と心の底から声を出した。


 その技は攻略サイトに書いてあった情報に依ると、ガルマギアがHPヒットポイント5%以下になると放ってくる大技で、防御力や魔法耐性を魔法や装備で上げていても無効にし、命中率は100%、与えるダメージは9999の上限MAX、そして絶対に、先に攻撃を放ってくるのだ。


 なので、今までの挑戦者達はここまで追い込んでもこの技にやられ力尽きた。そして、厄介にも、このガルマギアは負けても、エンディングが流れるため、再戦することは叶わず、真のエンディングを見たものは誰一人として、いない。そう、誰一人とだ。


 真のエンディングを見たかった俺は、レベルをMAXまで上げ、能力振り分けで攻撃力、防御力を無視して、盗賊らしく、HP、素早さ、そして、運、に全振りした。



 HPは体力、攻撃力は敵に与えるダメージが増え、防御力は敵から食らうダメージが減り、素早さは回避率が上がり、運は、奇跡が起きる。


 ただ、それだけしか説明が書いてなかったが言葉に惹かれ、選んだ。ただ、それだけだ。


 どうすればいい、俺は必死に必殺技やスキルの欄を熟視する。暗殺者の一撃アサシン・ブレイク、命中率は100%で、相手のHPの5%を必ず削り取り、この技で倒したら100%で、アイテムを奪える。いや、これじゃない。当たれば勝てる、が、ガルマギアから先制してくる。


 「もう無理か……」半ば諦めながらスキルの欄を下にスクロールしていく。そして一番下で手が止まった。


 「なんだこれ……」、そこには、ワン・タイム・ミラクルと書かれていた。――知らないスキルだ。


 日本語に直訳すると、一度限りの奇跡、だ。



 「……仕方ない、打開策が見つからないから頼ってみるか」と俺はワン・タイム・ミラクルを選択し、もちくんのコマンドを「食べる」と入力を終えた。


 そう、この戦闘中、もちくんは攻撃していない。ひたすら向日葵の種を食べている。ガルマギアも気を遣ってくれているのか、それともたまたまなのか、只管ひたすら俺ばかりに攻撃してくる。



 お陰でこの戦闘中に、もちくんは2キロぐらい太った。


そんなどうでもいいことを頭で考えている内に、コマンド入力の処理が終わった。


「負けたな」と俺は天を煽ったが、画面の中の盗賊シーフはワン・タイム・ミラクルを唱えていた。


バグか?、と思ったがそんなことはどうでもいい、俺は勝ちを確信した。だが、画面には聖なる光が二人を包んだ、としか出なかった。


 ……なんだこれは、俺はがっくりと肩を落とした。ガルマギアが煉獄のパーメトリー死の豪火デスフレイムを放ってくる。


 爆風がテレビ画面全体を包む。伝説になれなかったな、と俺はショックでテレビ画面から視線を落とした。


「まぁ、エンディングでもみるか」落ち込んでた心を、なんとか自分自身で励まし、落ち着いたところでテレビ画面に戻した。


 ……あれ?



 ――まだ戦闘は続いていた。どうなったのかは分からないが、確かに俺の盗賊は全身を豪火で燃やされていた、そこで俺は画面の外に視野を移したのだが、HPが1だけ、残っている。



 これが奇跡か……ワン・タイム・ミラクルのスキルに感謝していた。その間にも、もちくんは向日葵の種を只官食べていた。「……ていうより、ラスボスの最強の技ですら喰らわないもちくん、強すぎだろ」画面越しに俺は突っ込んだ。


 兎も角、これで真のエンディングが見れる。俺は暗殺者の一撃アサシン・ブレイクと必殺技をコマンド選択し、向日葵の種で頬をパンパンにしているもちくんに対して、「食べる」を選択した、というより選択させられた。


 他にももちくんは切り裂きスラッシュ太ったからヘル・歯車漕ぎますローリングとかいう技が使えるが食欲旺盛な為選択しても、ぶぶー、とエラー音が鳴る。


 もちくんは他のペットとは違い自分の意志がある。数々の戦闘を繰り返してきたからこそ、はじめは不快に感じたエラー音も、今となっては心地よい子守唄のような、安らぎを与える音色のように聴こえるようになった。


 もちくんとの思い出に耽っていたら、コマンド処理をし終えたのか、「暗殺者の一撃アサシン・ブレイク!!」と俺の扱う盗賊が声を出しながら、ガルマギアに技を繰り出していた。


 技の言葉通り、ガルマギアの魂を刈り取り、その中から、「勇者の証」を、掠め盗った。


「勇者の証?なんだこれ、俺は盗賊だぞ」凄い装備やスキルを貰えると思っていた俺だったが、そのどちらにも当て嵌まらなかったアイテムをみて苦笑いを浮かべた。


 アイテムの説明欄には「勇者になる可能性を秘めた者だけが手に入れられる証」とだけ書いてある。


 「外れアイテムか……」と俺は肩をがっくりと落とした。そこに丁度餌を全部食べ終わって4キロは太ったであろうもちくんが、俺のもとに駆け寄って抱き付いてくる。


 画面越しの俺はそんなもちくんをみて癒されつつ、真のエンディングを心待にしていた。


 ドクッ、ドクッ、と心臓が脈を打っているのが分かる。それはそうだろう、このエンディングを見るのはこの俺が初めてなのだから。


 まだか、まだか、とまるで芸能人の出待ちをしている人宛らさながらにその瞬間をじっくりと待つ。



――ついに、その瞬間が来た、俺の操る盗賊の目の前に突如、大きな銀一色の扉が、落ちてきた。上を一応見上げたが、他には、何もない。



「なんだ??」真のエンディングに、俺の頭の中がクエスチョンマークで、埋めつくされたが、混乱している俺を待ってはくれない。手に入れた「勇者の証」が、突如眩い光の球体になり、盗賊の身体に、入り込み、画面越しの俺にも入ってきたように感じた。


――テキストが流れる、「この先に進みますか?後戻りは出来ません、選んでください」



 「はい・Yes」



 おいおい…… 選択肢に断るのはないのか。苦笑いを浮かべながら、強引なテキストに対して俺は、「はい」と返した。


 画面全体が燦爛たる純白の光で包み込む。それが伝染したかのように、自分の部屋全てを包むように見えた、否、実際に包んでいたのだ。


 「え……」声にもならない声を搾り取ったが、そこから続きを言わせてくれる時間も与えられず。


 

 俺は光の中に消えていった。


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