第2話 京極燕の異世界転生

 僕の名前は京極燕。

 僕には恋人がいる。

 名は、美作武蔵。

 恋人で、大事な人で、宿敵だ。

「ふーん、要するに僕は武蔵の一撃で死んだ、と」

「そうだ、そしてお前は今から我が駒として魔王になる。お前を殺したあの男は勇者となり、お前の邪魔をする」

 男神、自らをそう名乗った存在は言った。

「お前の命を絶った男だ、憎いだろう?」

 いやらしい笑みで、男神はそういう。

 なるほど、こいつわかってないな。

「なんで憎む必要があるんだい?」

「は?」

 ああ、その顔……武人ってのを理解していない。なるほど、神といってもしょせんはその程度か。

「僕と武蔵は互いに全力を尽くした。その果てに、僕が死んで武蔵が死んだ。普通のことじゃないか」

「はぁ……」

「さては、神と言いながら人の心を理解していないな? いい? 武を学ぶということは、その過程で死することさえ恐れないということだ」

 武蔵のお父さんが、常々言っていたことだ。いまさらながらに、身に染みる。

「まぁ、いい……とりあえず感謝はしておくよ」

 男神とやらが持っていた刀をすっと取ってみる。

 抜くと、真っ黒な刀身だ。

「感謝、とは何だ?」

 刀をいきなり奪われたからか、男神はきょとんとしていた。なるほど、やっぱり武というものを理解していないな、これは。

「今まで武蔵とは決着がつかなかったからね、全力で……どっちが強いかを知ることができる」

 そうだ、どうせ互いに死んでいるんだ。

 ならば、どっちが強いか、全力で試してみたい。

 僕が愛した人がどれだけ強いか知りたい。そんな乙女心がうずきだす。

「まぁいいや、行ってみるよ。とりあえず、僕が勝てば文句ないんだろう?」

 とりあえず、これ見よがしに開いてある門に駆けだす。

 死ぬも生きるも時の運。なら、どうせ死んだんだ。好き勝手に、自分の恋心と武への思いに従っていくのもいいだろう。



          続く

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