第7話バイオレンスエリアの頑固親父のラーメン屋(入店編)

私の住んでいる場所はド田舎の山の中であるが、町や市で見ると海の街である。浜っ子という言葉を聞いたことがあるだろうか?漁師さんは命懸けなのだ。船の上で波がダッパンダッパン音を鳴らす中で連携を取らなければならない。この連携が上手くいかないと魚も獲れないし命の危険だ。だから私のいる市は基本的に声が大きく、口の悪い人が多い。


気性の荒い人も多く、クローズに出て来るような人達の、ナチュラルコスプレをした奴らが街をうろついている。彼らにとって、気の弱い奴もチャラチャラした奴も悪い奴も敵である。序に言うとこの町でなんの商売があるのか分からないけど、ヤクザだとか右翼団体のお方をよくお見掛けする。電波系一般人?も結構うろついており、決まって春には受信送信を行う。まぁ、目に付きやすい所を歩いてしまっているせいかもしれない。全くそんなの町だと思っていない人だっている。実際、大阪の新世界みたいな所はないからね。


私の住んでいる市の中心地から少し離れた所は、俗にバイオレンスエリアと呼ばれている地帯がある。お洒落な個人の居酒屋が立ち並ぶけど、スナックや風俗も建ち並び、酔いに任せてるのかそうじゃないのか、際どい人に出くわす事がある。そんな地帯にあるラーメン屋が出来たのだ。麺類はそこまで得意ではない私だが、ミーハーなのと、味は美味しいと聞くとやっぱり行って、食べてみたくなるのだ。いざ、友達とお店に着いた時に店内から怒号が聞こえた。そして「ふざけんじゃねえ!」と出ていく集団を見た。この時に嫌な予感をしない人はいないだろう。引き返そうと思ったのだが、味がやっぱり気になって入る事になった。


お店に入った時に、挨拶は無かった。店主や店員さんは私たちを目の敵の様に睨み付ける。店内は大勢の人がいたが、非常に静かで葬式みたいだった。皆が緊張しながら音を立てず素早く食べ、さっさと此処から立ち去りたい気持ちを出していた。


空いてる席は何処かなと見回していると「いつまで突っ立ってんだコラー!邪魔だろが!」と店主に言われた。慌てて店内に入り、急いで見つけた席に座った。心臓をバクバクさせながらメニューを見ていると水を置かれた。そして、店員から高圧的な接客を行われる。「うちは何でもうめえけど、どうせ豚骨喰いてぇんだろ?」

怖い気持ちになった。これはどう返したら正解になるのだろうと考えた。でも豚骨が美味しいと聞いていたので「豚骨ラーメン!」を頼んだ。店員からは溜息と舌打ちをされた。


もうお分かりだと思われるが、俗に言う頑固親父の拘りラーメン店である。私にとって人生で初めてお見掛けしたお店である。当時はそういうお店が流行らなくなって減って行ってると言われておりもう出くわす事なんてないんだろうなと思っていたのである。感動するもんだと思っていたけど、ひたすらに怖くて不快だった。ラーメンを作ってる間の様子も睨まれているような状態でろくに喋る事が出来ず、「おい…お前ら、水飲んで口を整えろや」と叱られた。お店の理屈としては、水を飲んで舌にこびり付いた飲食の味をリセットして、それをから頂いて欲しいって事らしいがそんなの何処かに書かれてたり、教えて貰わないと分からない。あっちは誰にしても知ってて当然な対応である。見えない地雷が非常に多くて困った。そうして欲しいなら、やっぱりルールを書くべきだ。怒りたいなら仕方ないけど、拘りを汚されたくないならすべきだと思う。


何となく偏見で、ラーメンは神聖な食べ物として崇める馬鹿がいて、そいつらのせいで勘違いしてる店主が定期的に発生するもんだと思っていたが、今回のせいでその偏見に信憑性が出ていた。


私と友人は無言で、ラーメンを待った。多分携帯をいじると怒られると思ったので真っすぐに座って待った。ラーメンが出来上がった時に「へい、お待ち」とかも言われずに出された。何となく私と友人は正解だと思い「ありがとうございます」と言った。「そんなん良いから、黙って食えや!」と怒られた。間違いだったようだ。割り箸を割った時に、友人は真っすぐに箸を割ることが出来なかった。それを見ていた店員が「次ちゃんと出来ねぇなら出ていけ…」と言われた。友人は「すみません…」と謝っていたがガチギレしている顔だった。


そして私が麺から食べた時、厨房の店長が飛び出して来た。「うちはスープが最初なんだよ!出てけこらぁ!」と言われた。どうやら、これはサッカーでいう所のレッドカードに当たるらしく、私はラーメンを取り上げられて、強制退場を命じられた。驚きと恐怖から「あ…え…」と言葉にならない私。私が怒られている最中、友人は全力でラーメンを静かに啜りかなり熱いままのラーメンをグビグビ飲み干していた。食い意地が張っていらっしゃる。そして「ふざけんじゃねえよ!気持ちよく食べさせろや!」と、ごもっともな言葉を店員に浴びせ、3000円を投げて出ていった。


気分は非常に悪く、一口しか食べられなかったが悔しい事に美味かった…。あれが、もし全部食べれていたなら本当に3000円の価値があるとさえ思えた。だけど、私と友人は行く事は無かった。その後、そのラーメン屋は多くの犠牲者の元、攻略法が編み出され。暫く繁盛を続けていたのだった。

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