第6話喫煙者の私が生まれた日

もう時効な所もあると思うので話そうと思う。私は喫煙者である。それも、高校を卒業した頃からの喫煙者である。現在、29歳。10年以上も煙草をほぼ毎日、1~10本。平均5本。元々、煙草を吸おうと思って生きていた訳ではない。その辺にいる、お酒だけは飲む女子であろうと思っていたのだ。だけど、煙草に縋る切っ掛けが出来てしまったのだ。


私は当時、看護師としての人生を歩もうと看護学校に通っていたのだが、クラスの人と上手く馴染めないでいた。言い訳であるが、同級生は幼稚園から中学校まで一緒が殆どで、高校で初めて他の学校と交わる様な環境下にあった。元々、吃音も患っており喋るのが億劫で、かなりの人見知りであった私に緊張する毎日だったが、昔からの仲良い人達と一緒になってしまったおかげ(せい?)もあり、高校生活はラクに楽しく過ごせたのだ。しかし、高校からの友人は作れないまま卒業することになった。


看護学校では、高校は別だけど住んでる地区も一緒の小野原君がいた。全く知らない所に一人だけ行く訳ではなかった。だけど、小野原君はずっと私と一緒に居てくれる訳ではない。小野原君は高校からの友人も持てるくらいに社交的な人間なのだ。私は小野原君が仲良くなった人と何処かに行ってしまうと独りなのだ。下手に人見知りし過ぎているせいで出遅れてしまい、グループを作る女子達からは浮いていた。


理由は散々言ってる通り、吃音と人見知り。そしてバイク事故で声帯を潰してしまったので、ガラガラな声になってしまったのだ。とにかく人と会話をする事に労力がいる状態になり、孤軍奮闘をするような状況になっていた。


教室では寝たふりとか、音楽を聴くとか、読書とか、勉強ばかりしていた。だけど、世間話がキャーキャーしてる声を聴いていると、副音声で(あいつ、なんか暗くね?)と言われてるような気がした。それは実際にそう思っていたみたいで、私がトイレに出ていく時にあるグループではこんな会話をしていた。


「ねえ、上田さんってさぁ…暗いよね?看護師向いて無くねww」


それに対しての相槌が教室から聞こえてきた。それを切っ掛けに私は近く公園にどんなに酷い天気でも逃げるようになった。学校に居たくないのである。


別に私は看護師になりたいなんて思っていなかった。本当は、お笑い芸人を目指して生きていきたかったのだ。だけど両親への必死の説得も空しく、この一生真面な人生を選びますと妥協して、ちょっとは関心のあった看護師を目指しただけである。目指す理由なんて不純な私だった。やっぱり好きなことをして生きていこう…。そう思って、その日に両親に学校を辞めたいと言った。


お父さんは自分だけの人生を歩めと応援してくれたがお母さんは依然と同じでそれを許してはくれなかった。何時間にも渡り話し続けた結果、退学は出来なかった。人見知りしながらも真面目にやって、どうしようもない時にお笑いを目指そう形に落ち着いた。だけど、学校が辛いのは変わりなかった。


そんな時に愛煙家の父の煙草にふと目が行った。普段は何とも思っていない、思うとしたら煙たいとかネガティブな感情だ。だけど、その時はとてもキラキラしているようなものに見えた。麻薬に手を出す人の気持ちって多分、こんなんだろうなと思った。


私は煙草をコッソリと拝借すると自分の部屋に行き窓を開けて、煙草に火を付けた。煙草の吸い方なんて何となくしか分からないから、ギューッと強く吸い下手に入った煙のせいで咽ながら吐いた。なんてものに金を出してんだ!何が美味いんだと思った。


でも、下手くそなり吸い続けていく内に心地良くなっていった。何だか、悩みが灰や煙になって消えるような感じになったのだ。嫌煙家からすれば、それが中毒の始まりだ。お前は馬鹿になったのだと思われるのかもしれないけど、やり場のない感情から私は、煙草によって救われたのだ。


そして、私は勇気を出して看護学校の喫煙所に足を運ぶようになった。喫煙所に集まっているクラスメイトや先輩からは「あれ、上田さん煙草吸うの!?」と驚かれた。その日から私は喫煙所の常連になった。誰かと一緒に居たいからって体に悪いことをするのか?考えられない!そう思われても仕方ない。だけど、私は弱くて…そこに縋るしかなかったのだ。多分、あの日に煙草を吸っていなければ喫煙所に行っていなければ、看護師をしてる自分は居ないだろう。


体にとっては百害あって一利なしなのかも知れないけれど、私にすれば、人生と精神を救ってくれた恩がある程に大事なものだ。今日も私は煙草を吸っている。気持ちが滅入りそうな毎日を灰や煙に変えている。それに費やした金額や時間の合計で出来る事なんて知らない。私には切る事の出来ない価値のある時間なのだ。そんなのに縋ってる時点で未熟だと思われてもしょうがない。未だに不器用で上手に生きれない人生。でも色々と言い訳しながら煙草吸って、そん時だけでも一人前になれる気がするんだ。頑張って今日と向き合ってると思えるんだ。


そんな生き方なんて知らん、迷惑だと思う。でも吸わない人や嫌煙の人が勝手にそう思うように、私もこう思うようにする。


まぁ、そんなに生き詰まる事ないよ。

試しに1本、吸ってみ?

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