第5話:荒野の決戦/最後の仲間はM奴隷

 関原市郊外の原野。


 普段は人っ子1人おらず、ただ野鳥や野良犬、バーベキューを楽しむパリピ、イカレたアウトドアプレイヤーがうろつくだけの荒野に、今日は大量のハイ○ースがひしめいていた。


 日夜、獲物を求めて町中を徘徊している黒い車体が今日に限ってはここに集っている。


 灰戸鋭介の配下たるハイ○ース軍団。その数、実に100台。


 彼らの使用するハイ〇ースは後部座席が1列の5人乗り。

 その内1人分は女の子を乗せる枠のため、1台につき4人のハイ○ーサーが乗ってきたことになる。


 つまり、ハイ○ーサーは全部で400人いる計算だった。


 400人、手には鉄パイプや金属バット。いずれも殺気と性欲を充満させ、血走った目をしている。


 そんな明らかに異様な雰囲気の一団を、物陰から伺う3つの人影があった。


「ハイ○ースが100台。こうしてみるとなかなか壮観ね。」

 軽口をたたくようにして言ったのは九院麗華だ。


 口調は軽いが、まなざしは鋭い。

 服装も一部も隙のない勝負服だ。

 すなわち、スレンダーな肢体は真っ赤なボンテージとニーハイブーツに包まれ、目元には仮面、手には鞭を握っている。


「あの全員が暗黒性闘士ブラックセイントというのはありえない。おそらく、頭以外は力を分け与えられた性従士セフレのはずよ。」

「わかりました。でも、暗黒性闘士も混じっている可能性があると思って動きます。」


 最悪の場合を踏まえて清谷陣太がそう答えると、麗華は満足そうに肯いた。

 性従士セフレ、それは性癖の一致により性闘士より力を与えられた者たち。


 純粋な性闘力コスモでは性闘士に及ばぬものの、その力は一般人を大きく上回り、多数であたれば性闘士を食い殺せる存在だった。

 仮に性闘士が相手の頭目だけだったとしても、油断は禁物だ。


「わ、わたしも頑張りますから!ご褒美お願いしますぅ!」

 ハアハアと荒い息を吐きながらそう言うのは下部恵夢しもべえむ


 麗華のM奴隷であり、性従士でもある彼女は助っ人として呼び寄せられたのだ。


 一見、ワイシャツにタイトスカートというOL的格好をしているが、シャツの下では麗華によって施された荒縄が豊満な肉体を締め上げている。

 そのせいか、瞳は熱く潤み、先ほどからもじもじと太ももをこすり合わせたりしている。


「すいません。2人を巻き込んでしまって。」

 陣太は思わず謝罪を口にした。

 こちらの方は着慣れた背広姿。なぜなら、スーツは社会人の戦闘服だからだ。


「別にアンタのためじゃない。あのクズどもに捕まってる女の子のためよ。計画は分かってるわね?」

 叱咤するように言う麗華に対し、陣太は肯く。

「大丈夫です。桃山のこと、お願いします。」


「そっちこそ、気合い入れなさい。恵夢も、しくじるんじゃないわよ。」

 そう言いながら、麗華が鞭を軽く振るう。音が出ないほどのソフトタッチ。それでも恵夢はゾクゾクと身体を震わせた。


「あん、わかりましたぁ。」

 その言葉を聞きながら、麗華が陣太たちのそばを離れ、別の場所に身を隠す。

 ここから先は別行動だ。


 陣太はポケットからイヤホンを取り出すと左耳に押し込む。

 続いて、スマホを操作して音声ファイルの内の1つを再生する。


 内容は麗華お手製「女王様が官能小説を朗読してくれて夜も眠れないCD(純愛モノ版)」である。


 開始5分、前振りの日常描写が終了し、最初の濡れ場が展開され始める。

 麗華の艶っぽい声によって語られる扇情的なセッ○ス描写に陣太のムスコは起立を開始。


 全身に性闘力コスモが循環するのを感じながら、陣太自身も立ち上がり、前進を開始する。


 恵夢も同じくイヤホンを片耳に装着しているが、内容は「女王様に言葉責めされて夜しか眠れないCD(雌豚版)」である。


 恵夢の方は陣太と異なり、まだ姿を隠したままだ。

 イヤホンから流れ込む、罵倒と辱めの言葉に太ももをこすり合わせながら、必死に息を殺している。


 陣太はハイ○ース軍団の正面から、桃山姫子が囚われているだろう中心部に向けてまっすぐに歩みを進めた。


 障害物の少ない荒野である。それほど歩かないうちにハイ○ース軍団も陣太の接近に気づいた。


 波のようにどよめきが広がったかと思うと、モーゼが割った紅海のように人垣が割れ、中央から1人の男が姿を現した。


「よお、清谷陣太クン。本当に来るとは驚いた。まるで正義の味方みたいじゃん。」

 現れた男は、一見爽やかな優男風。しかし、その笑顔と口調にはべたつく悪意がこびりついている。


 やはり、と陣太は思った。

 昨日、陣太と桃山を襲撃したハイ○ーサーのリーダーだと確信する。


「約束通り、桃山を解放してくれ。」

 陣太と灰戸鋭介、ともに人類の限界を超えた性闘士が向かい合う。


 陣太のイチモツはその心意気を表すかのようにまっすぐに天を衝いている。

 対する灰戸鋭介のイチモツは鎌首もたげる蛇のようにまがまがしく起立していた。


 陣太の台詞に灰戸鋭介は肩をすくめる。

「俺は、友達といっしょに来るように伝えたはずだぜ。昨日、お前を助けた性闘士とな。」


「桃山の無事を確認するのが先だ。断ったり、彼女がケガをしているようなことがあれば、俺の仲間はすぐに逃げ出して警察署に駆け込むぞ。」


 フン、と詰まらなそうに鼻を鳴らした後、灰戸鋭介は後ろで控えていたハイ○ーサーの1人にアゴをしゃくって見せた。


 灰戸鋭介の意図を解したハイ○ーサーが1台のハイ○ースのドアを開ける。

 乱暴につかみ出されたのは、手足を拘束された桃山姫子だった。


「桃山さん!!」

 思わず名前を呼ぶ。麗華の推測通り、まだハイ○ーサーたちのはけ口にはされていないようで、着衣の乱れは大きくない。


 しかし、恐怖に長時間さらされたことにより、ひどく憔悴しょうすいしているのが見て取れた。


「せ、先輩」 

 陣太を呼ぶ声に悲壮感しかないのは、あまりに多い人数差にすでに絶望しているからか。


「大丈夫か。すぐ、助けてやるからな。」

 安心させるように陣太が笑顔を浮かべる。


 股間に屹立するチ○コと相まって、それは雄々しく猛々しい印象を見る者に与える笑顔であった。


 見つめ合う桃山と陣太の間に割り込むように灰戸鋭介が口を開く。

「ほら、ちょっと疲れちゃいるがたいしたケガもしていない。さあ、約束だ。お前の仲間を連れてきな。」

 有無を言わさぬ口調。


 ここまでは計画通り。思わずホッと息を吐きそうになるが、陣太はつとめて固い表情でうなずきを返した。

 恵夢が隠れているであろう辺りに向けて、手を掲げてみせる。


「っん、はぁ~い、お呼びですかぁ。」

 緊張感の欠ける声を上げながら、茂みの陰から下部恵夢が姿を現した瞬間。ハイ○ーサーたちの間にざわめきが起こった。


 無理もない。

 ハイ○ーサーたちは頭である灰戸鋭介の指示の元、性闘力コスモを高めるため欲求不満の状況にある。まさに飢えた獣の群れである。


 対して、今の恵夢はイヤホンから絶え間なく供給される麗華のご褒美によって絶頂寸前。


 目元は潤み、顔は紅潮。身体は汗ばみ、蠱惑こわく的な太ももはタイトスカートの中でこすり合わされている。まさにバッチコイと言わんばかりである。


 ゴクリ。ハイエイサーたちが生唾を飲み込む音が辺りにひびく。


「お前ら、動くんじゃねえ。」

 灰戸鋭介が鋭く、言葉を発した。


 さすがの統率力だと言えよう。たったの一言で今にも恵夢に飛びかかろうとしていたハイ○ーサーが静まる。


 陣太は内心で舌打ちした。

 このままハイ○ーサーたちの注意が下部恵夢に向いてくれれば桃山姫子の救出も容易になったのだが、そうは上手くいかないらしい。


「ずいぶんとふざけた真似をするじゃないか。俺は、お前を助けた性闘士を出せと言ったはずだぜ。」

 冷たい確信のこもった口調で灰戸鋭介が言う。


「彼女が俺の仲間の性闘士だ。」

 反論する陣太の声はまあまあ上出来だった。震えてもいないし、妙にうわずってもいない。


 だが、灰戸鋭介には通用しなかった。

「いいや、別人だね。もう1人いたってことか。いや、性従士だな。お前を助けたのは縄を使う縛る側の人間。だが、その女は縛られる側だ。」


 ハッと気がつき、恵夢に目をやる。


 興奮して汗ばんだせいで、豊満な肉体に食い込む荒縄が透けたシャツ越しに見えてしまっている!!

 動転し、硬直してしまう陣太。


 代わりに動いたのは麗華だ。

 明晰な頭脳を誇る女王は、この事態も予測し対策を講じていたのだ。


 自身の姿を敵の前に現す代わりに、手にしたリモコンのスイッチをONにする。

 電気信号が虚空を駆け抜け、ピンク色の特殊なマッサージ器具が恵夢の奥深くでうなりを上げる。


 こうかはばつぐんだ!!


「うぁ!はぁ、だ、駄目ぇ!!こんなッ、アン、みんなに見られてるのにぃ!!」

 縛られ、言葉責めを受け、さらには衆人環視。いずれも恵夢にとってはごちそうである。

 マッサージ器の振動は女王様からそこに加えられた最後の一押し。


 恵夢はのけぞりながら声を上げ、謎の液体が快感に震える太ももを伝い落ち、足下まで濡らした。


 同時に限界まで高められ、濃縮されていた雌豚フェロモンが一気に解き放たれる。

 放たれたのは純愛原理主義者である陣太ですら脳が焼かれ、思わず恵夢に飛びかかりそうになったほどの性臭フェロモン


 ならば、いかに灰戸鋭介の統率があるとはいえ元々我慢のきかないハイ○ーサーたちが辛抱できるわけがない。


「「「「ブヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」」」」

 たちまちのうちに理性も統率も失った豚の群れとなり、我先に恵夢へと殺到する。


「ぐぅううッ、くそったれぇ!!」

 忌々いまいましげにうなり声をあげる灰戸鋭介。


 他のハイ○ーサーたちのように豚と化さないのはさすがに暗黒性闘士といえたが、それでも恵夢の性臭爆弾フェロモンボムの威力にわずかに思考が乱れた。


 その隙を女王様は見逃さない。


「“口づけは熱く、結び目は堅くメルティキッス、ホールドミータイト!!”」

 神速の投げ縄。


 標的は灰戸鋭介ではない。混乱した場の中で、一瞬自由となった桃山姫子。

 華奢きゃしゃな身体をロープが柔らかに強くとらえる。


「えっ!?」

「チイッ!」

 桃山姫子が突然のことに声をあげ、灰戸鋭介が舌打ちをする。


 次の瞬間、彼女の身体は中を舞っていた。

「きゃああああ!!」

 悲鳴を上げる姫子を受け止めたのはもちろん麗華だ。


 わずかばかりの痛みもないほどに柔らかく受け止めると驚きに目を見開いている姫子に対して笑顔を向ける。


「乱暴にしてごめんなさい。ケガはないかしら?」

「は、ハイ。大丈夫です。」

「そう、いい子だからもう少しだけ我慢してね。」


 姫子の身体を横抱きにしたまま駆け出す。

 足下がハイヒールのニーハイブーツとは思えないスピード。向かう先は今まさにハイ○ーサーたちに襲いかかられている陣太たちのところだ。


「人質は確保したわ。退くわよ!」

「麗華さん、でも下部さんが」

 迫り来るハイ○ーサーたちを性闘技でぶちのめしながら、陣太が声を上げる。


 見れば下部恵夢は先ほどの絶頂の余韻が覚めやらず、ぐんなりと地面に寝そべっている。


「まったく、帰ったらお仕置きよ。」

 陣太と恵夢の元にたどり着いた麗華はため息を吐きながら、ブーツで恵夢の顔を踏みつける。

 そのまま、ぐりぐりと甘くこすりつけるようにする。


「主人をほったらかしにして、本当にどうしようもない雌豚ね。サッサと起きなさい。」 

「ンヒぃ。れ、麗華さま!」


 激しい絶頂に一度は性闘力コスモを霧散させていた恵夢だったが、新たに与えられた刺激で再び性従士セフレとしての力に目覚め、すぐさま立ち上がる。


「人質は取り返したから、サッサと逃げるわよ。私が先頭で退路を開く。恵夢、貴方は桃山さんを守って。陣太、貴方がしんがりよ。」

「はい、わかりましたぁ!」

「了解!」


 理性を恵夢の雌豚フェロモンによりハイ○ーサーたちは理性を失った豚、いわばオークと化している。

 我先に襲いかかってくるだけだが、その分圧力はすさまじい。


 さらには数の暴力。意図的ではないが簡単な包囲状態が形成されていた。


「さあ、行くわよ!!薄汚い豚どもめ、ひざまづいて靴をお嘗め!!」

 そこに道を切り開くべく麗華の鞭がうなる。


 しなやかに正確なリズムを刻み、急所を突く鞭とそれにあわせて繰り出される罵声。

「「「「ぶひ、ぶひいいいいいいいいい!!」」」」

 思わず、ハイ〇ーサーたちは跪き、麗華に対してブヒブヒペロペロと舌を出した。


 雌豚である下部恵夢のフェロモンによって相手を豚と化し、女王様である九院麗華がそれを従える。

 これぞ必殺の調教コンボ。喰らったものは精神を破壊され、欲しがり屋の卑しい駄豚と化すのだ。


 だが、消耗した一般人である姫子を連れているのだ。退却の速度は上がらず、ハイ○ーサーたちは次々と襲いかかって来る。

 それを撃退するのがしんがりたる陣太の役目だ。


「うおおおおお!!オーク死すべし、慈悲はないくっころ、ノーセンキュウ!!」

 時々二次元もたしなむ陣太であったが、オークものは嫌いであった。

 なぜならヒロインがひどい目に遭うからだ。


 輪姦やリョナを許さない熱い性癖が込められた拳が流星群となって、ハイ○ーサーたちの股間を打ち砕く。

 あわれ、ハイ○ーサー(の股間)は爆発四散。口から泡を吹いて大地に昏倒する。


 作戦がハマり、人質の奪還に成功。敵の数が多いとはいえ、対処は十分に可能だ。

(いけるぞ!!)

 陣太は心中で拳を握った。

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