第11話 夢見る私


 ボッーとしてる私を後に

彼はそそくさと出ていく。


「もう、時間なの!!」


「皆が集まってるから教室へ行こう。」


私を待たずに彼は音楽室を後にする。


「私をおいて行かないでよ。」


「早く来いよ!!」


と彼は朗らかに笑った。


私は彼の後を慌ててついて行く。


 教室につくと中から先生の声が

聞こえるだけで、意外と静かだった。

私達二人は教室のうしろから入っていくと

先生が大きな声で

「体育会の個人競技より、合唱コンクール

の団体の方が成功させるのが難しいのよ。

一年生の最後になるコンクール…。みんなの素晴らしい歌声で頑張りましょう!!」


 私は、先生の一言一言が熱が入ってる

なぁーと、ただただ感心した。


「ねぇ、なべ君、私、将来何になりたいのか知ってる?」

と聞いてみた。

「あっ、そういえば聞いたことないな…」

「そう、知らなかったぁ~?

ピアニスト…、夢見るピアニストになりたいの…。なぁーんて…、大変だよ、きっと…、なんとなくわかるもん。」

「夢の話かぁ~?」

「そう、夢のまた夢になるかも…。」

「でも楽しみだなぁ~。全力を尽くして頑張れよ。」


ピアノを弾いてる間は、いろんなことを考えないですむ。

気が楽だ。

少しの間、忘れることが出来る。

少しの間、逃れる事が出来る。

現実逃避、ピアノを弾くだけで忘れることが

出来た。


「ところで、なべ君は、大人になったら何になりたいの?」

「えっ、俺、考えてないなあ。」

そこまで言うと、前にいた先生に注意された。

「そこの二人、あとから入ってきてうるさいぞ…」

「はい、すみません。」

ゆっくりと溜まった息を吐き出した。

多分…、

なべ君はもっと私より上の高校を目指すだろう…。

引っ越しして、私達は別々の学校となっていく。


二人は、違った道へ行く。


その彼の横顔を見つめた。


このままがいいのに…。

そんな気持ちが渦巻いていた。



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