第2話 トイレまで壁蹴り2回

 適当に遠藤寺と駄弁った後、早々に大学から出た。


 友人の少ない俺にとって、大学というのはただの勉学の場だ。


 間違っても友達とモ○ハンをやる場所じゃない。


 一応サークルに属しているといっても、幽霊部員だ。



「……ふふ」



 幽霊部員の俺の家に、幽霊(らしき物)がいるなんて……皮肉だな。


 これで俺が幽霊という名でかつて、不良達を震え上がらせた伝説の不良狩りだから更にドン!(寝る前にする妄想の話です)


 俺のチャリの名前はゴーストシップ!(これは本当)


 中学生の頃好きだった女子に『あ、いたの? あははっ、ごめん。君って何か幽霊みたいだよね、存在感のないところとか』と言われたことあり。


 幽霊のカルテット……か。


 あれおかしいな? 何か胸が痛い……。これも全部、幽霊の仕業だ!



「どうして人は黒歴史を掘り出そうとするのか。埋めたままでいいのに」



 人の業の深さに涙を流しつつ、アパートへ到着。


 アパートの庭にはいつも通り大家さんがいた。

 大家さん――和服を着たおかっぱ美少女が竹箒で庭を掃いている。

 今時和服を着た大家さんなんてのは彼女くらいじゃないだろうか。

 和服を普段着にしてる人間なんて、今日日、ほとんどいないからな……。


 そもそもこの人いくつなんだろう……。


 かなり歳下に見えるけど……女ってやつは分からんからな。


 あのピチピチした肌は化粧によるコーティングであり、下には砂漠地帯が広がっているかもしれない。それに騙されたロリコンをバクリ! むしゃむしゃ(性的に)して若さを保っているのかもしれない。現在に生きるエリザベートバートリー……なんてな。大家さんはロリ大家、それでいいじゃないか。


「ただいま大家さん」


「あらー? 一ノ瀬さん、お帰りなさーい。学校は楽しかったですか?」


「ええ、まあ。友人達との交流は、それ自体が本を読むこと以上に勉強になります」


「わー、友達全然いないのに、そういうこといえちゃうポジティブさ! 一ノ瀬さんのそういうところカッコイイと思います!」



 ニコニコと満面の笑みを浮かべる大家さん。

 この人の相手をするのもそれなりに楽しいが、今は自分の部屋の幽霊だ。

 大家さんには悪いが、早々に切り上げさせてもらおう。


「あ、ちょっと用事があるんで――」


「おやおや? わっ、その眼鏡お似合いですね!」


「お目が高い。流石美少女大家を職業としていることはある、見る目が違いますね!」


 俺の中で大家さんに対する好感度が20ほど上がった。

 ンモー、男子ってばぁ……ちょっとおしゃれアイテム褒められただけで女子を好きになっちゃうー。


「やだもぅ、美少女大家だなんて……照れるじゃないですかっ。私の好感度が200も上がっちゃいましたよっ」


 どうやら褒められて嬉しいのは女子も一緒らしい。

 しかし上り幅ぱねぇな。俺の10倍とか……あれか? 生きる世界が違うんか? 俺はDQ世界で大家さんはFF世界に生きてんのか?


 ちょっと面白いので、日ごろの感謝を伝える意味で、大家さんを褒める。


「いえいえ。謙遜しないで下さい。俺はこのアパートで暮らせて本当に嬉しいです……大家さんみたいな美少女!……に毎日会えますからね」


「はふぅ……。今ので好感度が5000も上がっちゃいました。もう、一ノ瀬さんは好感度を上げるのが上手いですねー……上げるのが上手い男――上げマン! ヨッ、上げマン! カックイー!」


「今の発言で大家さんに対する好感度ゲージが無くなりました。さようなら」


「攻略対象外に!? なにゆえ!?」


「一言多いんですよ大家さん。せっかく美少女で大家なんですから、もっと自分を大切にして下さい。下ネタなんてもっての他です」


「し、下ネタ? わ、私なんかエッチなこと言っちゃったんですか!? あわわぁ……」


 天然だったのか……。

 顔を両手で覆い座り込んだ大家さん。

 いいね! 下ネタを下ネタと知らず使っちゃう――無知シチュ最高!

 俺の中で好感度ゲージが復活した。


 俺の中の好感度ゲージは現在3本である。


 大家さん、遠藤寺そしてサンタさんだ。


 何気にサンタさんの好感度が一番高いのは、恐らく毎日のようにメールを交換しているからだろう。……しかし、妹様とサンタさんのアドレスが一緒なのは未だに慣れない。両者ともに偶然を連呼してるが……。


 それはそれとして残りの二人にはもっと頑張って欲しいものだ。

 上下するゲージを見て切磋琢磨して、是非とも俺ルートに突入して欲しい物だ(受け身)


 何だかんだで大家さんと駄弁っていたら、2時間も経っていた。


 もう辺りはすっかり日が暮れたが、よくよく考えると夜は『そういうの』が活発に活動する(ような気がする)のでよしとしよう。


 大家さんと別れる前『最近、この辺りで痴漢が出るらしいから一ノ瀬さんも気をつけてくださいねー』と言われた。一番気をつけるべきなのは大家さんの方だと思うけど。俺が痴漢だったら、まず間違いなく美少女度的にも難易度的にも大家さんを狙うし。大家さんをサクッと拉致監禁して、条例的にアウトな性癖を満たすために作った地下地下鉄車両で日常ではありえない和服美少女を通勤途中でアレを潜影蛇主で砂漠葬々して穢土転生しちゃう。それくらいの美少女和服大家さんってことをちゃんとわかったうえで、発言して欲しいもんだよ、まったく。


 大家さんから、大家さん農園で育った大根をもらい、自分の部屋へ入った。


「ただいまー」


 当然返事はない。

 この部屋に住むのは俺一人……多分だが。

 部屋に俺以外の何かがいるのか、いないのか……それが今日明らかになる。


 六畳部屋の中心にある丸机、そこには今日も辺り前の様に夕食が用意されていた。


 オムライスとサラダ、コーンスープである。


 ホカホカと湯気を立て、俺の空腹中枢を刺激する。


「……ゴクリ」


 いきなり遭遇してもアレなので眼鏡を外してインしたが……美味そう。漂ってくるうま味のせいでお腹に住まう空腹を司るペコちゃんがさっきからお腹を全力ノックしてしんどい。今すぐに空腹を満たさないとチェスト〇スターみたいく、腹を食い破るぞって脅してくる。俺は脅迫と生意気な雌ガキには屈するタイプの性癖なので、問答無用で降参する。

 さて、取りあえずは飯を食べてから真実を解き明かそう。


 だって正体を暴くやいなや『ウォォォォォォォォ! 我の正体見なァァァァァァ! 殺してやるぅぅぅぅぅWRYYYYYYYYYYYY!!!』なんて幽霊ムーブ(幽霊特有の動き。緩急の付け方が匠)で襲われたらたまったもんじゃない。


 飯食って体力を充実させてからだ。


 幽霊が悪い幽霊だった時のことも考えないといけないからな。

 善良な幽霊だったら和解して握手をした後に、後ろからソルトスプラッシュからの念仏ラップ、ありとあらゆる宗教的亡者必滅ムーヴの成仏押し付けコンボを極めてやる。悪い幽霊だったら……先制効果は無いけど、霊的ダメージ覚悟で上記の霊滅コンボをお見舞いするしかない。その時に必要なの勝敗を分けるのは、ほんのわずかなダメージソース。今は霊的存在を無視してでも、体力を満タンにしておくべきだ。


 それにしても……美味い。

 体力が回復するだけじゃなく、体力が上限を超えるバフがかかっちゃうくらい美味い。特にこのオムライスの俺好みの半熟さがまたいい。ついでにオムの上に書かれたハートが恋愛に縁のない童貞精神をキュンキュンさせちゃう――。


「しかし相変わらず美味いなぁ……こんな飯作れるお嫁さんが欲しいわ」


『ガタタッ』


「……なんだ?」


 飯を食いながら、心の底から浮かんだ感想を述べた瞬間、部屋の隅から何かがぶつかる音がした。

 例えるなら食事の給仕をしていた女の子が不意打ち気味な発言にびっくりして、足を滑らせて壁に頭をぶつけたみたいな……。


 食事の手を止め、じっと部屋の様子を伺う。


 しかし、これといって変わった様子もない。


 音もこれ以上する気配はない。


 こういうことはよくある。


 俺が突然全裸になったり(一人暮らしの特権)、妙にハイな気分で(一人暮らしだとタマにある、異様なテンション)おもむろに繰り出したバク転を失敗した時とか、政治番組を見ながら自分流の『日本をよくする方法』を声高々に語っている最中突然キ〇ガイゲージが満タンになって『猿のようなセッ○ス! モンキー〇ックス! モンスッ!』と叫んだ時とか……そういう時にこんな音がする。

 例えるなら、一緒に暮らしている同居人がいきなり想定外の奇行に走って、びっくりして壁に頭をぶつけたみたいな……。


 やはり……幽霊か……!?


 この部屋に幽霊がいるかも、と考えたのは三日ほど前だ。


 それまでこの音は俺の史実に無い動き(イリーガルアクション)が世界を動かした際に発生した世界の軋みのようなものだと思っていたが……。こうまでその現象が続くと、見えない何かがいて、俺のアクションに対してリアクションをとっているとしか思えない。


「ごちそうさま。今日もとても美味しかったです」


 それはそれとして今日も飯は美味かった。例え相手が幽霊だろうが、実は統合なんちゃらを失調した俺が気づかない内に作っていたとしても……料理を作った相手には敬意を表すべきだ。今日も美味しいご飯、ありがとね。


 飯も食い終わり、俺は眼鏡を手にとった。


 遂にこの部屋にいるナニカの正体が明らかになる。


 俺の精神的不調による妄想なのか、はたまた『ナニカ』がいるのか、実は大家さんが勝手へ部屋に侵入して飯作ったりしていたのか……。


 この眼鏡によって全てが明らかになる。


「さーて、舞台の幕開けだぜ――その前に風呂に入っておくか」


 飯を食い終わった後は、無性に風呂に入りたくなる。

 入らないとモヤモヤするし、風呂上がってからでいいか。

 俺はいつの間にか用意されていたパジャマ(鯖が泳ぎ散らしてるパジャマ。非売品)を手に取り、部屋を出て共用の風呂に向かった。


「おっと」


 風呂へと歩いている時、まだ自分の手に眼鏡があることに気づいた。

 眼鏡ケースを探す、がない。

 部屋に置き忘れたようだ。

 このまま脱衣所に置いておくのは怖い。何せ小国家が購入できるほど価値があるものだ。多分無くなったら損失の重さで変な宗教に衝動的に入っちゃう。

 部屋に戻っておいてくることにした。


 部屋の入口のドアの前に立つ。


 このアパートは妙に部屋のドアが重い。

 恐らくは老朽化が原因だと思われる。

 パワータイプの俺ですら、両手でなけりゃ開けられないほどだ。

 両手を使おうとしたが、手に持った眼鏡が邪魔だったので、とりあえず装着した。そして自由になった両手で思い切り扉を開けた。


 靴を脱ぎ、トイレと小さな台所がある短い廊下を抜け、六畳間の襖をあける。



――全裸の少女がいた。



 少女は鼻歌なんぞを歌いながら、俺が食べ終わった食器の後片付けをしていた。

 機嫌がよさそうだ。

 少女の鼻歌と共に小ぶりで尻が揺れている。

 真っ白なお尻がふりふり、と。思わずその揺れに合わせて顔が追従してしまう。

 美少女の可愛い鼻歌と揺れるお尻。

 この揺れが世界に生中継されれば、きっと戦争も終わるだろう、そう思った。


「つっつくつー、つっつくつー♪ 今日も完食うれしいなー、明日は何にしようかなー、らんらんらー♪ たつみくんは、ごはんを美味しいって言ってくれるからだいすきー♪ うれしいな、うれしいなぁー♪ もっとお料理が上手くなったら『ごちそうさま。美味しかったよ。次は……デザートが食べたいな。ふふふ、エリザ……君のことだよ』な、なんちゃってー! まだ早い! まだ早いよ!  きゃーっ! 隣で寝るだけでいっぱいいっぱいですからー、残念!」


 少女は目を(><)←こんな感じにして、ぶんぶんと両手を上下させている。

 珍しい髪の色をした少女だ。真っ白な、光の加減によっては銀色にも見える。綺麗だ。

 肌は白い。全体的に小柄で、身長170cmの俺より頭二つ下くらいだろう。

 胸は控えめだ。手に収まるような大きさ。だが悪いことではない。巨乳原理主義者には受けが悪いだろうが、俺は胸に関しては何でも来い――全てを受け入れるバーリトゥードスタイルだ。下は永遠の無乳ゼロから上はエイ〇ンレベルの魔乳まで――全てを受け入れる。目の前の少女が持つ胸は、小さいが外国の血が混じってるであろう成長性を感じさせる胸、いわば――事象の地平線イベントホライゾン、まだ評価をするには早すぎる。成長期を終えてから改めて評価すべきだと学会(どこだよ)に提言しておこう。


「ふふんふ~♪」


 しかし、こう、明け透けに裸を見せられると、逆に興奮しないな……。

 いや、洋風ロリの裸とかそれこそデジカメに永久保存して誰にも触れないようにマンション建設予定の地下に埋めておくべき貴重な代物なんだけど……恥じらいが無い。目の前の光景には、裸を見られて恥じらう情緒というものがない。


 やはりチラリズムこそが正義!


 やっぱり父さんの言葉は正しかったんだ!

 ラピュタとチラリズムの普遍的な正義はここにある!


「辰巳君はお風呂ー、おふろージャブンジャブン! 私は洗い物ー、じゃぶんじゃぶん! 二人でジャブジャブ、ジャブ漬けだー……っと。あれ?」


 ノリノリな少女の視線が入口にいる俺へと向いた。

 少女はムッと眉を寄せ、人差し指を立てた。


「こらっ、早すぎるでしょっ。鴉もびっくりの行水だよ。肩まで浸かって100数えてないよね、絶対! むぅ……風邪ひいちゃうよ? まぁ、ひいたら私が看病するけど……ってそれが目的かっ? 策士だなー。えへへ……現代の孔明!」


 何が孔明だ! あんなもん相手を狭いとこにおびき寄せて『今です!』とか叫ぶだけの簡単なオッサンじゃねーか。それか『はわわぁ、ご主人様ぁ、敵が来ちゃいましたぁ』とか言っちゃうロリ。どっちにしろ何で今日日、知将といったら孔明みたいな風潮があるか分からんわ。そもそもあのトレードマークみたいな扇子、あれ、別の武将のモンらしいじゃん。


 男だったらやっぱり呂布だろ。

 勇猛果敢、三国無双、専用BGMもあって、無口だけど動物に優しくて一度主と決めた相手には忠犬の如く従うエッチッチな恋ちゃん……何か混ざってるな。

 とにかく呂布だよ呂布。

 ちなみに自慢話になるが俺、中学生の時自分のこと呂布だと思ってた。


 どういうことかって言うと、朝俺が教室に入るとクラスの連中が俺見て『……一ノ瀬だ……うわ、来たよ……』とか怯え気味に言うの、超小声で。


 いや、もう俺マジで朝から肩すくめまくり。おいおいクラスメイツ、俺のことビビリ過ぎだろと。俺カタギには手出さねぇから。むしろ守るぜ? 防衛線得意だぜ? この歳まで童貞守り切ってるくらいらからな(笑)


 ははっ、懐かしい過去だぜ。


 ……あ、あれおかしいな? 武勇伝の筈なのにどうして涙が出ちゃうの?


「あー、困ったな。辰巳君がお風呂入ってる間に、洗い物とか洗濯とか済ましときたかったんだけど……まぁ、辰巳君が寝た後でいいかな? 辰巳君一回寝たら馬鹿みたいに起きないし、ふふっ」


 なんだと。


「よしそうしようSo she yo! 決定! 辰巳君が寝てから、辰巳君の寝顔を1時間……いや、2時間、うん。2時間見て、それから家事しよっと。そうと決まれば、辰巳君がよそ見をした隙にサッとお布団ひこうかな。辰巳君って結構馬鹿だからねー『あれ? 布団がいつの間に……? 俺無意識にしたのかな?』なんて! そーいう所もかわいいなー、えへへっ、ばか可愛い辰巳くん、ほんとすきー」


 なるほど。怪奇現象の数々――ここで原因が分かった。

 目の前の女の子がいろんな家事をしてくれてたんだね。

 それはそれとして。


「ちょっと馬鹿って言い過ぎじゃないですかね?」


「えー、でも馬鹿って言っても、いい意味での馬鹿だよ? いい意味の、長所的な部分で」


「そうか、いい意味でなら……まあいいか」


「そーそー……ん?」


 つまらない真面目より楽しい馬鹿って言うもんな(今作った)

 しかしこの少女、一体何者なのか。

 なぜ俺の部屋で、家事をしているんだろうか、全裸で。

 意味が分からない。


 いや……何かが俺の中で繋がろうとしている。

 今この瞬間まで見てきた、色々な情報の破片ピース

 それらを繋ぎ合わせると――


 まさか、そういうことなのか?


「んん? んんんー?」


 少女は訝しげな目でこちらを見ている。


「え、えーと……あれ? 辰巳君?」


「イカにも」


 俺は少女の眼を見て、はっきりと答えた。

 少女の、宝石の様な瞳が揺らめく。


「あ、あれれ? お、おかしいな……これってどういうことなのかな? わ、私の気のせいなのかな? ……も、もしかして私のこと見えちゃったりしてる?」


「見えるか見えないかで言うなら……まあ見えてるな、全部」


「……はわっ」


 少女の顔が真っ青になった。

 次いで自分の身体を見下ろし真っ赤になった。

 途中で黄色を挟んでいれば、信号になったのにな。


「――はわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 少女は悲鳴をあげ、グリングリンと周囲を見渡し、テーブルの下に潜り込もうとし頭をぶつけ、頭を抑えながら涙目で押入れの襖を開け、毛布を引っ張りだし、その毛布にくるまった(この間およそ3分である)


 かたつむりのに様にくるまり、涙目で俺を見つめる少女を見て、俺を全て理解した。

 目の前にいる存在の正体を。

 全裸、勝手に人の部屋に侵入、見知らぬ少女、大家さんから得た情報――全てのピースが繋がった。


 汝の正体見たり!



「――君は最近この辺りを荒らしている痴漢!」



 QED……俺はクールに呟いた。

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