煙草3本目

目を覚ます。時計の針は7時半を回っていた。

今日は学校行事の球技大会がある日。

私は布団からゆっくり起きて化粧や寝癖のついた髪を直し始めた。


出かける準備を終えた私は前日に用意していた荷物を持ってバスの時刻を確認。

よし、この時間なら余裕で集合時間に間に合うな。


部屋の窓からこっそりと屋根の上に出る。

煙草を吸ってバスの時間までのんびり携帯を覗いてみた。

Twitterを開くとみんな朝からおはようツイート。


「みんな起きてる〜いい子ちゃんや〜 わいもツイートしよ〜」


ハムスターがみんな寝ているのを見つつツイートをぽちぽちと打っていく。


『おは〜 今日は球技大会じゃ><』

可愛くもない文章をぽちぽちと打ってツイートする。

仲良しのネットの友達や幼なじみからすぐにいいねやリプライの反応がくる。


『にぼしちゃんおはよ!』

『にぼしぃ、おはよ〜 球技大会頑張ってね!』


リプライをサクサクと読んでいく。

まぁいつもの反応だなと思い、携帯の時間を見るとそろそろバスの出発時間。

携帯見てると時間あっという間だな~。

私は部屋を出て玄関に向かう。


「おい」


後ろから声がして振り返る。

お父さんが廊下でネクタイをしめながら立っていた。

私は無言で玄関に歩いていく。

後ろから小さくて低い父の声が聞こえた。


「挨拶も返事もろくにできねえのか くそな失敗作だな」


話したくもないし当たり前でしょ。

育ててくれた恩とか感じることもあるけど、

あんた、私に何したかわかってんの?

あんたのせいで私は耳が聞こえなくなる寸前だったんですけど?


知ってる?

鼓膜破れるとお風呂入る時、耳のなかに水が入らないように耳栓つけるんだよ?

知ってる?身体中は殴られた痕がお湯に染みて痛いからお風呂も気持ちよく入れないの。

授業中やバイト中、話の内容が曖昧で聞き取りにくくて後から確認したり何回も確認してるんだよ?


あんた知ってるの?

そのことを謝りもせずに何が挨拶だ、何が返事だ、何が失敗作だ。

笑わせんな。


お父さんの話を無視しているとお父さんは舌打ちをして洗面台に向かって行った。

よかった、今日は何もしてこない。

いつもなら物を投げたり、すぐに私の部屋を荒らしたりするから心配だったけど。

よかった。

そう思いながら家を出た。


今日は雨が降ってて少し寒い。

私はいつも着ているフードパーカーを着て傘を持ってバス停に向かった。


___________________________________


球技大会の集合場所に予定通り着く。


「はやく着きすぎちゃった」


体育館はもう空いていた。

私はのんびり扉を開けて中に入る。


体育館の中扉の手前まで進んだところに中庭があるのを見つけた。

あ、喫煙所。


中庭に続く扉を開けて喫煙所に足を運ぶ。

重たい荷物をベンチにおろしてポケットから煙草の箱とライターを取り出した。


まだ少し美味しく思えない煙草。

箱から一本出してライターで火をつけた。

吸って息を吐くと口からもくもくと白い煙が出てくる。

煙草ってこれだけでも面白いからいいよね、うん良い。

のんびり吸ってるとだんだん頭が重くなるのを感じた。

ボーっとして足がフラフラしだし、ヤニくらだと気付いた私はゆっくりベンチに座った。


「お腹すいたなぁ。 煙草も買いたいし、コンビニ近かったよね、確か」


携帯でマップアプリを開いて周囲のコンビニを探す。

体育館から歩いて5分くらいのところにコンビニを見つけた。


吸ってる煙草をフィルターギリギリまで吸い終えた私は吸い殻を設置されていた灰皿に投げ入れ、荷物を持って中庭から出た。


体育館の出入口まで向かうと学校の先生が数人、体育館の中央フロアに集まっていた。

げ、こっちに気付いた。煙草しまっとこ。

こっそりと煙草とライターをポケットにしまった。


「ヒナタさん、おはようございます。」


「先生、おはようございます。まだ学生みんな来てないっぽいですね」


「そうなのよね、ヒナタさんは早いね! 何時くらいについてたの?」


「30分くらい前に到着しましたよ〜 のんびり中庭で座ってました。荷物重いし」


へへへと頭を掻きながら作り笑顔を見せる。

これも作り笑いってばれてるんだろうなぁ。

まぁ、先生が嫌いだからってのも気付いて欲しいけど。


「30分前についたの!?早いね!他の子たちも見習って欲しいよ〜」


先生がびっくりした顔で話を続ける。

面倒臭いし嫌いだし早くここから逃げたい。


「ははは、私が早く着きすぎただけですよ。 ほら、バイトで早く場所に着くのは慣れてますし。 あ、私コンビニ行ってきますね〜」


いってらっしゃい〜と手を振りながら先生は会場に向かった。

私はそれとは真逆の出入り口に向かう。

出入り口にはついさっきまでいなかった学生たちが集まってお話会をしていた。


「あ、ヒナタちゃんおはよ〜!」


「おはよ〜、みんな早いね〜」


そんな感じでふら〜っと出口に向かう。

話に参加せずそそくさと外に出たい。

私は蚊帳の外の虫、それでOKOK。


「ヒナタちゃんのほうが早くない? 何時からいたの?」


「着いたのは30分くらい前かな、まだ時間あるからコンビニ行ってくるんだ〜」


行かせてくれ。頼む、ここにあんまりいたくない。


「そっかそっか!いってらっしゃい〜 あとでね!」


そういって女子のグループは体育館へと向かっていく。


『ヒナタちゃんってノリ悪いよね』


『そうそう、私たちとは違うんですよオーラ笑』


『優等生ぶって、先生たちに好かれて、先生たちも何が好きなんだろ』


『話すると面白くないんだよね〜、なにが好きかも知らないし』


そう言う声ばっかり耳には入ってくる

おかしいな、難聴なはずなのに

全部全部悪い言葉しか聞こえてこない


そうだよ、上部だけのほうが楽じゃん

だってそこまで仲良くなると裏切られた時を考えると怖い

こんな学校で仲良くできる友達なんていらないよ

なんでみんな必死に親友とか恋人とか、友達とか作るんだろう


みんな汚いんだから、大事な人って作らないほうがいいじゃん

なにも聞きたくない


そう思いながら私はイヤホンを耳につけた


___________________________________


体育館近くのコンビニについてレジ後ろの煙草とにらめっこする。

今度は何吸おうかな、まだ吸ったことないの多いし、いろいろ買ってみよ。


「すみません、18番と21番を一つずつ、あと50番2つください」


「え?あ、はい。 …すみません、年齢を確認できるものはありますか?」


「あ、はい」


顔写真付きの免許証を出して店員に渡す。

店員はえ?みたいな顔をして私と免許証をにらめっこした。


ごめんな、未成年みたいに見えるよな。

すまん、もう成人してるんだわ。


確認を終えた店員はレジの後ろからタバコを持って戻ってくる。


「こちらでお間違えありませんか?」


店員が持ってきたタバコをみて確認する。

これこれ、吸ってみたかったんだよね。


「はい、お願いします〜」


そういって会計をお願いしているとスマホがなった。

LONEからの通知、内容を見ると若ちゃんからのメッセージだった。


[ 耳大丈夫か? ]


若ちゃんからのLONEに返信するため、会計を終えコンビニから出る。

私は慣れた手つきで携帯に文字を入力しメッセージを送信した。


[ 大丈夫ですよ〜 時々耳鳴りしますけど笑 ]


[ あまりむりすんなよ 今日は球技大会? ]


若ちゃんからすぐに返信が来る

どうやら今は仕事を終え、自宅に帰る途中らしい。

午前で帰る仕事って、若ちゃんも大変だなぁ。


[ そうですよ〜 先生も暇ならくればいいのに笑 ]


[ 今仕事終わって帰り 行くのめんどくさい 帰って寝る ]


先生のLONEはよく来る。

学校を休むと必ず来るし、意外と心配症な部分もあるんだな〜と思いながら返信する。


[ 最近忙しそうでしたもんね笑 お疲れ様です ゆっくりおやすみしてください〜 ]


[ ん ]


そういってメッセージはこなくなった。

先生、学生に送るメッセージには見えませんぞ。

他の生徒にもそんな感じなのかな。

まあいいや。


さっき買ったタバコをポケットから出しラベルを剥がして一本取り出す。

ライターを出して火をつけて一口。


「んー、なんかこれは違う味」


買ってきたのはpianissimoの紫色のタバコ。

刺激が少なくてクセもあんまりない。

でも強めのメンソール。

あとから少しブルーベリーみたいな味がした。

のんびりコンビニでタバコを吸ってるとまたLONEから通知が来た。


[ 久しぶりです! お元気でしたか? ]


連絡してきたのはシノブというアカウントからだった。


[ シノブさん、お久しぶりです〜! 元気ですよ! ]


[ そっかそっか! いろいろ心配だったから大丈夫かなって連絡してみました! 最近お財布は大丈夫? ]


[ 心配してくれて嬉しいです ありがとうございます お財布は相変わらず寂しいですね笑 ]


このお財布を心配してくれているのはとある出会い系サイトからつながったシノブさん。

年齢は結構離れてる。独身の男性。

援を初めてから会った人。


Pさんの割にはこの関係に慣れていないみたいで、すぐ切れる関係だと思っていた何かと心配してくれる優しい人だったからLONEを交換した。


それからまたぴこんと携帯がなる。


[ そっか! もし困ってるなら近いうちに会わない? お話もまたしたいな! ]


Pさんの中でも珍しく優しい人で、行為を目的とした出会いではなかったみたい。

お話をして、相手の仕事の愚痴とかを聞いて終わり。

それで私が困っているときにお小遣いをくれる人。


この人、仕事は農業って言ってたけどお金大丈夫なのかな。

そう思いながらメッセージを返信する。


[ 了解です! じゃあスケジュール確認してまた連絡しますね! ]


それから相手から返信はなくなったのでこちらも携帯をそっと閉じた。

こんな私にお金を払って会いたい、話したいと思う人がいるんだ。

変な人だな。私の何がいいのやら。


そう思いながらタバコを蒸す。

このタバコ、煙が少ないな。


小さな煙がもくもくと上に上がっていくのをぼーっとしながらみていた。

そういえばあのメガネ…違った、名前は確か…そうだ、柊司だ。


今日は球技大会来るのかな。

きたらいいな、どうせ行事自体は楽しくないし。

暇だし、話相手くらいにはなってほしいや。

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ヤニと病みと恋愛と。 ヤニ @SHINA06

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