第4話身を急かせ任務達成いざ駆けん

 戻れば素早く才造に胸ぐらを掴まれた。

「お前は馬も鹿も同じに見えてるのか?」

 愚か者、と怒鳴られるも怒気以上の殺気はないことは感じ取れた。

 手を離し、深い溜め息をつくと懐から一枚の文を取りだし差し出してきた。

 それを受けとれば失せろとばかりに手で払われる。

 文を広げればびっしりと任務内容が連なっていた。

 武雷は他と違い、任務内容に容赦がない…。

 聞けば入隊してすぐの新人を入隊したその日から働かせたりも当然のようだ。

 流石、武雷は忍隊が有名なだけあって武士より忍か。

 他は大概、夜影から直接命令が下るようだが己は才造経由。

 当然なのだろうが。

 武雷から出、敵陣偵察やらをこなす。

 ただ至って普通の内容で、課される量がえげつない。

 一日二日で終わるのか…?

 偵察中、隣に気配が降り立った。

 目を向ければ灰色の瞳が己を観察している。

「長から言伝だ。『任務達成なるまでは戻ることなかれ。』。確かに伝えたぞ。」

「お前もか。」

「そもそも俺は基本戻らない。俺に用があるなら探せ。日ノ本の最北端から最南端までの何処かにいる。」

 嗚呼、ということはこいつが話しにきく海斗という忍か。

 忍隊十勇士の中では一番影が薄いだとかなんだとか。

 海斗は走り去る。

 日ノ本中を常に駆け遠征任務に身を注いでいるようだが。

 目を下に戻し、あと何が残っていたかと数えた。

 ようやっと終わったのは任務に出てから5日後。

「戻ってきて早々だが、報告書をあげろ。それから任務をくれてやる。」

「常にこうなのか。」

「今だけだ。あと少しすれば人手不足が解消される。」

 何故人手不足に陥っているのか。

 大きな戦は此処最近ではなかったはず。

 武雷の武士の死傷者もいないようだが。

「才造、そろそろ長倒れねぇかな?」

 小助という忍が顔を覗かせる。

 才造の溜め息に小助からは苦笑が零れた。

「その前にお前が替わってやれ。非番をくれてやる。」

「いや、まぁ、最初からそのつもり…え?非番?いつ?」

「落ち着いたら、だ。」

 一旦は目を輝かせた小助はその答えに肩を落とした。

 休みたくても休めないほどなのだろう。

 夜影が倒れるのなら願ったり叶ったり、そこをどうにか刺し殺せないだろうか。

「山犬、報告書。早く。」

 三好がいつのまにか後ろにたってそう促すのに従うことにした。

 仕事が重なり過ぎたせいか絡まりそうな情報をまとめながら、筆を走らせる。

 あの戦に武雷は触れないというのに、偵察というのも可笑しい。

 他にもそれが必要なのかどうかが怪しい任務がいくつもあった。

 わざと己を走らせているのか、何処かで繋がっているのか。

 考えたところで見当もつかない。

「報告書、できた?」

 夜影の疲れたような声が聞こえ振り返ると着物を着崩した姿で立っていた。

 片手には煙管がある。

「いや…。何をしてる。」

「人様のお相手よ。帰ってきたとこだけど。報告書なんざ明朗並みに片付けちゃいな。」

「必要そうには思えないのだが。」

 煙管をくるくると回し弄びなが目を細める。

「そういうもんさ。あんたにゃわかんないだろうことをこちとらはやってんだから。」

 ケラケラと笑うと他の忍の名を呼びながら去っていった。

 夜影が何かを企んでいて、それをするに必要なことなのかもしれない。

 そうでなければいよいよあの言葉は避わすだけの音になってくる。

 後で知ったことだが明朗の報告書は大雑把過ぎる。

 最早一つのことに二言くらいで済ませてある。

 これで何を察しているのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犬猫忍法書 影宮 @yagami_kagemiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ