13-2 第1部終話

 メーティに連れられて、マトリはかつてのあの道をたどった。モアの子どもはおとなしく後ろをついてくる。


 マトリはここ最近で一番足取り軽く、先へ先へと進んだ。命あるものと心を通わすことができるのは、なんという喜びだろう。マトリはこの瞬間、町の誰よりも幸せだった。


 その幸せがかぐわしい香りとなって辺りに広がったかのように、ウサギたちが鼻をひくつかせ、草陰から頭を覗かせている。


 気がつけば、キウイバードはメーティだけではなかった。何匹ものキウイバードがマトリの周りを取り囲み、短い足を賢明に動かし、マトリたちと併走している。

 

 カウリの樹が群生するあの場所に近づいた頃、マトリの後ろを歩くモアが甲高い叫び声を上げ、マトリを抜いて走り出した。


 カウリの樹々はあの時と変わらず、長い時を経てそこに存在していた。その樹々の間から、かつてマトリが見た金茶色のモアと、灰色のモアが走り出てきた。


 マトリは再び圧倒されながらも、木の陰から再開を喜び合うモアたちをを眺めた。


「うわ、喜んでるところも大迫力ねー。……私たちの役目は終わったのかな。帰ろうか、メーティ」


 メーティの丸い背中を撫でてから、最後にモアたちを目に焼き付けて、マトリは立ち上がる。


 ——待って——


 マトリはそのままの姿勢で固まった。はっきりと、自分に流れ込んだモアの意思を感じた。恐る恐る、ゆっくり振り向くと、あの金茶色のモアがすぐ後ろに立っていた。


 モアはマトリの目線まで頭を下げ、くちばしに加えた一本の植物を差し出した。


「……くれるの?」


 マトリは植物を手に取った。植物には薄紫色の花のつぼみが五つ付いている。その蕾が、ふっくらと膨らんだ。


「……え? え? これって……」


 蕾はどんどん膨らみ、花弁が一枚一枚、ゆっくりと開いていった。そして五つとも美しい花を咲かせ、良い香りをあたりに漂わせた。


「す、すごい! これ、あなたがやったの?」


 モアは長いまつげを優しく瞬かせた。


——ありがとう——


 またあの声が聞こえた。モアたちはきびすを返し、マトリから離れていく。


「私……私、またここに帰ってくるからね!」


 離れるモアの背中に向かって、マトリは声をかけた。


「あなたたちのこともっとよく知って、それでまた帰ってくるからね。それまでこの森をよろしくね! みんなを守ってあげてね!」

 

 金茶色のモアが低い声で優しく鳴いた。そしてモアたちは森の暗がりに吸い込まれ、自分たちの住処に帰って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マトリとモアの宝石 ちはる @_chiharu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ