第3話 スマホが鳴った!

 俺は2年8組の窓際の席に座って外を眺めていた。学校の校庭には桜並木。風にあおられて散る桜。俺の新学年を象徴しているかのようだ。新任の八重原(やえばら)いづ菜(な)先生が連絡事項を黒板に書きながら説明しているが、もはやこれっぽっちも頭に入らない。


 クラス最初の自己紹介で俺は全てを悟った。かわいい女の子、ゼロの現実。しかも女子のやつらは全員、山下陽(やました よう)にときめいている。彼女と仲睦まじく登校してきたと言うのにだ。他の男子は基本、俺と同じ草食系ぼっちタイプか、二次元世界にいっちゃっているオタク系のどっちかだ。


 俺の席の横に座る石田三美(いしだ みつみ)は、男子達を部下に迎え入れるための策略作りに余念がない。ノートに何かを書き込んでいるメガネの奥の目つきが怖い。このクラスも山下陽と石田三美の二人、学校カーストの上位陣の軍門に下るのはそう遠くないだろう。俺は不運なクラスメイトの未来を案じた。


 桜散る春。クラスメイトの顔ぶれで「大凶」1つ追加。せめて担任の八重原いづ菜先生が美人ならと期待したんだけど。丸々としたふくよかすぎる体形。女性力士級の破壊力だ。さらに「大凶」1つ追加。合計4つで記録更新中なのだ。


 あーぁ。人生ってこんなもんなのね。帰ったらベランダで星空でも眺めるか。俺の唯一の楽しみ。ぼっち満喫、黄昏タイムに思いをはせた。


ピポン。


『メールが届きました!』


 教室中に響きわたる音量マックスで、俺のスマホが鳴った。クラス全員の視線が突き刺さってくる。やばい。ぼっちの俺のメルアドを知るものなんていないと思って油断していた。


「そこの男子!」


八重原いづ菜先生のチョークが飛んだ。俺の額に鋭い痛みが走る。


「痛!」


この距離で、正確に俺の額を射抜くとは。新米のおデブにしてはやるじゃないか。額を押さえながら意味不明なことに感心した。


「今度、鳴らしたら没収します!いいですか、皆さんも同じですよ」


全員、慌ててスマホのスイッチを切り始める。俺もポケットからスマホを取り出した。


ん!何だこれ?


『ずっと、ずっと好きでした。お願いです。私とつき合ってください』


はぁ?意味わかんねー。間違いメールかよ。それとも、いたずらメール?何にせよ、身に覚えがない。てかぁ、一度でいいから告白されてみてー。人生変わるんだろうなー。


ニタついていると横に座る石田三美が、俺のスマホを覗き込んでいた。やばい。見られた。お願いだ三美。黙っていてくれ。


「先生、山田君のスマホにラブレターが届いてます!」


「ばっ、ばか。三美。大声を出すな!」


クラス全員の笑い声が俺を包み込む。


「健太のくせに生意気なのよ!」


石田三美が俺に向かって言った時だった。彼女の口元が「よ!」で固まる。みるみる血の気が引いていく。俺を見て笑っていた連中も笑い顔を固定してフリーズした。目だけが大きく見開かれていく。


どったの?


俺は振り返って校庭を見た。


はあっ。UFO?うそだろー。あり得ない。


校庭の側にある25メートルプールよりも巨大な円盤が、グラウンドの上にフワフワと浮いていた。満開の桜の花は、全て飛び散り枯れ木がゆれている。俺に訪れた「大凶」は5つ目にして爆裂した。

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