Violet Contrast

――

「ふふ……意外だったわ。あなたが彼女を見逃すだなんて。私が思い浮かべていた筋書きでは、あなたが彼女を殺して十字架を奪った所で、それを私が回収するハズだったんだけど……」

「貴様の思惑通りに動くのは癪に思えたものでな」

「そう……でも、本当にそれだけなのかしら？」

「……何が言いたい？」

「たった一人の妹を殺したくないという思いが生まれた――なんてね」

「……」

「図星かしら？」

「……あいつには帰るべき場所があり、帰りを待っている者達が居る。私と違い、争いの渦中に居るべきではない」

「あら、ヴァンパイアの宿命に背くような彼女の生き方を肯定するというの？」

「私達はヴァンパイアであり、同時に人でもある存在だ。――そして、人にはそれぞれの生き方というものがあるという事を、あいつに教えられた」

「随分と寛容な意見ね。あなたらしくもない」

「あいつは、私如きの為に涙を流した。その思いに応えぬワケにはいくまい」

「……もういいわ。それで、これからどうするつもり？　知っての通り、あっちの世界に戻るには相応の魔力が必要よ。あなた一人のものじゃとても――」

「戯言を。私はあちらに戻るつもりなど無い」

「……この闇の世界で、一生を終えるつもり？」

「封印されしヴァンパイア達と仕合えるのであれば、満更でも無い話だ」

「ふふ……それがあなたの生き方というワケね」

「その通りだ。だが、その前にまずは貴様を葬るとしよう」

「できると思ってるの？」

「あぁ。思っている」

「そう……それじゃ、その考えがどれだけ愚かなのかという事を教えてあげるわ。私が直々にね……」

「――望む所だ」