彼女はじくう的〜妄想!?真実!?俺の前に現れた戦国の姫と名乗るオタク少女

おしゃもじ

華麗なる俺の高校生活…多分

第1話 妄想!?戦国時代に死に別れたそうです……

 俺は椎名孝之16才。自分でいうのもなんだけど、クラスでは上位のグループに属している人気者。

 学校に到着し、廊下を歩けば男子も、女子も俺に満面の笑顔を向けてくれる。

「孝之!」

「おっ! 孝之、おはよう」

「椎名君、おはよう」

 クラスの人気者の俺は、みんなに爽やかに挨拶を返す。完璧だ……。これぞ、夢にまでみた理想の学園生活。

 俺は幸せを噛みしめる。漫画の主人公もラノベの主人公も、羨ましくはない。何故なら今この瞬間、俺が主人公だからだ。


 正直に話してしまえば、俺は高校デビューだ。


 顔はそこそこ良かったものの、中学までは何故か足の速い奴が、やたらモテる。

 なんでなの!? 現代日本で狩猟とかしないじゃん。大人になったら運動会の英雄も、ただの足の速い人だよね!? 学年トップの秀才の方が将来性あるよね!? 中学生だって分かる簡単な社会の図式だよね? なのに秀才の彼だってニキビ面呼ばわり……。理不尽? 不条理? どんな言葉もこの事実を説明するには足りなすぎる。


 そして、不幸にも、俺はどうにもフォームが笑える女走りなんだそうだ。否、女だってしない女走りだ。そんなの直せばいいって? それができたなら、苦労はしない。おお……神よ。なんて苦難を与えたもうた……。

 

 そんなわけで中学まではクラスの端の端。女子がいたら、いい笑いのネタになるだけだから、ありえない程の迂回をして廊下を歩く。もう、壁に体がぶつかりそうなくらい。

 思い出しただけで涙がでるよ。


 そんな俺が、高校生活に淡い期待を抱かないわけがない。顔の下地は悪くない。オシャレに気を使い、それでいてチャラくなりすぎないよう注意。中学までのオドオドした態度はNG! それでいて、マウンティングなんてことは絶対にしない。それこそ逆に底辺真っ逆さまだ。人には優しく。人間の基本。


 正直疲れる、疲れたよ。でも、俺はこんなにも素晴らしい学園生活を手に入れた。こんな気苦労は中学までの辛さを思えば大したことなどない。

 

 こんな長々と語った俺の人生。語るに語ったよ。しかし、この完璧な高校生活を脅かす瞬間が今起きる。


 俺の背後に誰かがぶつかった。振り返った俺の前にはクラスでも底辺の底辺であるオタクの高岡明子がいる。スカートはバサバサと長く、髪は一つ結びしただけ。眼鏡は分厚く、眉毛はゲジゲジだ。

 

 女子高生ってオシャレしたくて仕方のないものなんじゃないの? 俺だって眉カットくらいはかかさない。化粧水も、乳液も、パッティングもしっかりして……、いや、それは置いといて。


 お世辞にも可愛いとはいえない、高岡が、にやりと笑っていう。

義親様よしちかさま、藤はやっと思い出しました。前世の記憶にございます」 

 うん? 何を言い出すのだろう。クラスで人気者の俺は底辺にも優しい。

「義親様? 漫画の新しい設定なのかな?」

「義親様、ワタクシでございます! 戦国時代、愛し合っていたのに死に別れた藤姫にございます!!!」

 え? 義親様とやらって俺のこといってるの? 笑顔の高岡が息を荒くして俺にジリジリと近寄ってくる。


 女のコにこんなことを思うのは『クラスの人気者である椎名君』には絶対にあっちゃいけない、あっちゃいけないないけど、思ってしまう……。キモイッッッ!


 しかし、この時の俺の警戒心は間違っていなかったんだ。

 この後、大人しいオタクの高岡が、本当に戦国の姫のように振る舞うんだから! ていうか、姫じゃなくて武将みたいなんだけど! 

 お願いだから、俺を巻き込まないで欲しい。

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