ふゆのふしぎなはなし

@styuina

第1話

 ふりしきるゆきの中、そのゆきをギュッギュッギュッ、ギュッギュッギュッ、ギュッギュッギュッ、ギュッギュッギュッ、ギュッギュッギュッとふみしめながら、少女が歩いてます。

『はあ、はあ、はあっ……』

 彼女のあるく先には、いわゆるログハウスというのでしょうか、丸太で組み立てられた家がありました。

 彼女はこの家に、友達に会いに来たのです。

 ガチャン!

「お、ようやく来た。おそーい」

 友達はふくれっ面になって、少女を出迎えました。

「ごめん、ごめん、ようやく学校終わったからいそいで来たよ!」

「ふうん、それできょうはなにを持ってきてくれたの?」

「ほら!」

 少女は、紙袋をさし出してこう返しました。

「アンコウ亭のシュークリームだよ」

「え、ありがとう」

 二人は、シュークリームをムシャムシャ、ムシャムシャ、ムシャムシャとあっという間に食べてしまいました。

「おいしかったねえ」

「うん、……ごほ、ごほ」

「あ、だいじょうぶ!?」

「ごほ、ごほ、うんなんとか……」

 せきこみながら、友達はなんとか苦しそうにしながら、返しました。

 友達は、実は不治のという訳ではありませんが、おもい病気をわずらっていて、それで学校にも行けず、たまたま知り合った少女だけが友達なのです。

「そう、だいじょうぶならいいんだけど」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

「それなら、いいんだ……」

「あ、そう言えばね」

 少女の心配を見てか、友達は話題を変えます。

「お父様が、貴女に会いたいんですって」

「お父様が?」

「うん、お父様が貴女にキョウミを持たれたんだって」

「へえ」

 少女は、友達のお父様に会ったことはありません。それどころか、街の人々のだれも、そのお父様なる人物に会ったことがないそうです。街の皆さんは「フシギだねえ、こんなせまい街なんだから、だれか会ったという話があるじゃないか、ふつうは。それがだれも会ったことがないんだってねえ」とウワサしあってるそうです。

「じっさいどうなのかしらね?」

 少女はいっつも思っていることを思わず聞いてしまいました。

「ええ、貴女、そんなにお父様に会いたいの?」

「うん、気になっちゃうよ」

「そう、キゲンが良ければ会ってくれると思うけど、今日はだいじょうぶかしら?」

 その時、いきなりこの世のモノとも思えぬ叫びが

 ヴェァォィオー!!!……

 と長くひびき、そして消えていきました。

「い、いまのなにかしら?」

「なにってわからない?」

 友達はイタズラっぽく笑います。

「あれがお父様よ」

「えっ!?」

「今日はキゲンが良いみたいだから、会ってくれると思うわ」

「そ、そう……」

「思い立ったがなんとやらというわ、さっそく会って行きましょう」

 少女の手をぎゅっとつかむと、友達はそのまま、その叫び声がするほうに行こうとしました。

 とちゅうで、友達は少女にこうちゅういします。

「あ、思い出したけど、ちょっと聞いてくれないかしら?」

「なあに?」

「この手をはなしちゃダメよ。お父様に食べられるかもしれないからね」

「た、食べる」

「まあ、だいじょうぶだと思うけど」

 そのまま、二人はトコトコとおもてげんかんのぎゃく方向ににあるドアへ向かいます。

 あけてみると、なんということでしょう、したがまったく見えないナラクの井戸のような感じになっていて、それをぐるりとかこむようにらせんかいだんがあります。

「さあ、行きましょう?」

「うん、わかった」

 トコトコ、トコトコ、トコトコ、トコトコ、トコトコ

 らせんかいだんはずっとつづいていくように思えます。少女はあるいてるうちに、へいこうかんかくがなくなっていくようで、気分がわるくなってしまいました。

 くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる

「だいじょうぶ、かおいろ悪いみたいよ?」

「う、うん、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」

「そう、それならいいんだけど」

 友達は、そういうと、ふたたび少女をつれてあるきだしました。

 少女のかおいろがわるくなった理由は、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグルと階段を回るようにあるいたために、気分がわるくなってしまったからですが、そんなことはきにせず、二人とも黙ってあるきつづけます。

 しばらくすると、いちばん下にたどりついたようで、階段がなくなり、つるつるした床にたどりつきました。そこには、トビラがひとつあります。どうやら、叫び声のぬしはこのトビラの先にいるようで、叫び声の大きな大きな音がなりひびいています。

「ついたよ、この先にお父様がいるんだ」

「へ、へぇ」

「じゃああけるね」

 友達はトビラをあけました。

「わあ!!!」

 いきなり、大きな風がふいて、少女はしりもちをついてしまいました。

「いたた……」

 おしりをさすりながら、あけはなたれたトビラのほうを見ると、そこにはえたいのしれないものが見えました。

 くろぐろとした毛におおわれ、まっかな目でこちらをみるそれが、お父様のようです。

「ああ、お父様はあなたのこと、きにいったようね」

「わかるの?」

「ええ、父娘だから」

 そのとき、お父様のほうからゴウゴウ、ゴウゴウ、ゴウゴウ、ゴウゴウ、ゴウゴウとへんなおととともに、いような突風がふいてきました。

「あ、大変逃げて!」

「どうしたの!」

「お父様が、あなたをきにいったから食べたいといいだしたの。でもわたしはあなたと友達でいたいから、ゆいいつの友達だから、お父様に食べてほしくないの!」

「わ、わかった!」

 少女はらせんかいだんを上にのぼっていきます。

 トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン

 そうやってらせんかいだんをかけあがっていく少女のうしろでは、ものすごいおおきな音のかぜ、ひめいのようなお父様と呼ばれたかいぶつのさけびがこんぜんいったいになったふくざつな音がなりひびいていました。

 ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ

 やがて、少女は友達ののひめいらしき声がかすかに聴こえて消えるのがわかりました。

 ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、キャァァ……、ヒュィゥゴォウ

 少女は、おいつかれないように、らせんかいだんをのぼりつづけます。

 くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる、くるくる

 グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル、グルグル

 トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン、トントンカンカン

 やっとのことで、外に出られた少女の目の前で、友達の家は轟音とともに消え去りました。

 ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、ヒュィゥゴォウ、パタン……

 しばらくなにもなくなった場所を見つめたあと、少女は家へ帰っていきました。

 その後、街では友達にかんするウワサがまたたっていました。「あの家にすんでたひとたち、ウワサにたえきれなくなって、どっかに引っ越したんだってさ」というウワサがそれです。そんな話を聴いてるときの少女は、こまったような、かなしいような、ふしぎなひょうじょうをするそうです。

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