第22話
優しく厳しい士官殿や熟練下士官殿達が、温かい支援をしてくださったので、厳しい訓練の合間をぬって勉強をする事ができた。
今は亡き祖父母や両親が口伝で教えてくれた事は、直接的には役に立っていないが、何もない状態でも勉強できるのだと、教えてくれていた。
今は子供の頃に比べてずっと恵まれている。
眠いとか辛いとか言っている場合じゃなかった。
会津者の俺が本当に陸軍士官学校に合格できるのかは半信半疑だったが、たとえ会津生まれによる思想面で不合格にされても、試験の点数と身体測定の点数だけは、現役中学生以上の点数をとって見せる。
そう決意して、血尿が出るほど頑張った。
合格通知をもらった時は、正直信じられなかった。
長州閥の邪魔が入り、絶対に不合格になると思っていた。
だが「至誠天に通ず」ではないが、勉強を教えてくださっている連隊長閣下や士官殿達、演習時だけでなく食事にまで気を使ってくれる下士官先輩や同僚に報いるためにも、努力に努力を重ねた成果が現れた。
だが合格しても直ぐに入学とはならなかった。
中学生から合格した者達は、最初に兵営に入れられ、一等兵から現場を学ばなければいけないからだ。
現場を知らない者を仕官にはできないのだ。
だが、幼年学校出身者は違う。
中学出身者が十二月に一等兵として入隊し、翌年六月に上等兵に進級してから、同じ上等兵として部隊に入隊する。
俺はと言うと、最初から入隊しているので、何も変わらない。
八月になって、同期がようやく俺と同じ伍長となり、十二月に軍曹に昇進すると同時に俺も軍曹と成り、やっと陸軍士官学校に生徒として入校できた。
だがその間、俺は試験に合格する前以上に、徹底的に勉強を叩き込まれた。
近衛騎兵連隊の士官団が、俺を首席卒業させるべき、一致団結して勉強を教えてくださったのだ。
先輩下士官や同僚下士官も協力してくれた。
今は部下や後輩となっている、兵隊入営時の同期も俺が勉強に専念出来るように助けてくれた。
もしかしたら、信任状捧呈式護衛任務の心付けを全部奢ったのがよかったのかもしれないし、そんな事をしなくても協力してくれたのかもしれない。
まあ、部隊にいる時が一番よかった。
近衛騎兵隊に配属されていた時が一番幸せだった。
いつ思い返してもそう思う。
陸軍士官学校に入学してからは、陰に陽に嫌がらせがあった。
あからさまな差別もあった。
長州閥の俺に対する敵意は酷かった。
だが、定期的に幕閥の現役予備役将官が視察や見学に来てくれたので、成績の改竄だけはされずに済んだ。
長州閥以外の同期が、陰になり日向になり助けてくれた。
その恩は生涯忘れない!
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