第9話

「出かけますよ、準備はいいですか?」


「「「はい、御嬢様」」」


 長年私の外出を許さなかった父上様ですが、家出も辞さない私の覚悟に、つい条件付きで外出を認めてくださいました。


「いいか、今回の件で長州共の逆恨みは激しくなっている。

 決して甘く見てはいけない。

 外出を認めるのは、親族の軍人の内二人が護衛に付ける日である事。

 百合と花と楓の三人が揃って護衛に付ける日である事。

 習志野で龍騎が出場する競技会がある日である事。

 この三つの条件が満たされない限り、絶対に外出は認めない!」


 父上様の申される条件はとても厳しかったです。

 ですが仕方ありません。

 確かに長州の逆恨みは激しくなっています。

 長州が圧倒的な力を持っていた時でさえ、私を誘拐しようとしたのです。

 今は破れかぶれで何をしでかすか分かりません。

 万全の護衛が必要なのは当然です。


 ですが、我が一族は貧乏華族だったので、叔父達も大叔父達も揃って陸軍軍人になっています。

 とても人数が多いので、その内の二人が同時に休みになる日は結構多いのです。

 龍騎様の母上の百合様と、妹の花殿と楓殿は、共に我が家で住み込み家政婦兼教育係をしてくれています。

 我が家に一緒に住むようになって、いざと言う時の為に、私と一緒に武術も必死で学びました。


 長州が力を落してからは、我が家にすり寄ってくる商人が現れました。

 父上様達は決して不正をするような方ではありませんから、そのような商人を摘発して、陸軍の経理を正され、政府から褒賞されました。

 それを新聞が報道してくれましたが、同時に我が家の慎ましい勝手向きも紹介されてしまい、少々恥ずかしい思いもしてしまいました。

 ですがその御陰で、龍騎様だけでなく、我が家にも全国から寄付が集まり、ようやく私的な馬を手に入れる事ができました。


 多くは陸軍騎兵隊から払い下げられた馬ですが、軍用でなく乗馬用なら、まだまだ現役で働ける馬達です。

 父達は騎兵科将校ですから、軍から直接我が家に払い下げられると、不正を疑われるので、今までは避けておられたようです。

 ですが新聞社が、軍馬の払い下げを受けた江戸っ子商人が寄付してくれた事を、紙面を通して全国に知らせてくれたので、堂々と手に入れる事ができました。


 今屋敷にはそのような元軍馬が十数頭飼われていますが、騎兵科将校家系の我が家なら、調教を続けて軍馬並みの能力を保つ事ができます。

 そんな元軍馬を、私の家族と龍騎様の家族がそれぞれ担当を決めて、二頭づつ御世話しております。

 その内調子のよい馬を選んで習志野に遠乗りするのです!


 龍騎様の競技会に合わせて、陸軍予備役に編入されてしまわれた、鉄心大叔父様と鉄剣大叔父様が一族から護衛について下さいます。

 龍騎様の家族からは、龍蔵様と百合様、花殿と楓殿が護衛について下さいます。

 万全でございます。

 後は私の衣装だけでございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る