第7話

 父上様は私が誘拐された時と同じように、寄付を募ろうとされました。

 龍騎様の馬術は世界に通用する技で、優秀な馬さえ購入できればオリンピックで入賞するのも不可能ではないのです。

 だが残念な事に、龍騎様には欧州の優秀な馬を購入する資金がないのです。

 そういう記事を新聞社が書きたくなるように誘導されました。

 新聞社も購入者が喜ぶ記事を求めていたそうです。


 龍騎様の馬術の戦績が、大々的に新聞の紙面を飾りました。

 同時に優秀な馬場馬術馬と飛越馬を購入できない事も紹介されました。

 父上様の思惑通り、莫大な金額の募金が集まりました。

 日本なら一生安楽に暮らせる金額です。

 華族の体面を整えても大丈夫な程の大金です。

 ですが、欧州と日本の為替差を考えれば、優秀な馬場馬術馬と飛越馬を数頭買えば、無くなってしまいます。


 それと何より大きかったのは、この事が宮中でも話題になった事でした。

 何故龍騎様程の馬術の達人が、陸軍騎兵学校の生徒に選ばれていないのか?

 本当の理由は単純明快です。

 陸軍を牛耳る長州閥が、龍騎様に悪意を持って邪魔していたからです。

 龍騎様程の馬術の達人ならば、乙種学生(馬術学生)として陸軍騎兵学校に選抜されて当然だったからです。


 今上陛下は激怒されました。

 病床にあった有栖川宮威仁親王が、身命を賭して今上陛下に諫言されたため、桂太郎が詔勅を利用して反対勢力を押さえ込もうとしていた事が暴露されました。

 政局に比べれば小事ではありますが、亡き明治天皇陛下が絶賛された龍騎様を、明治天皇陛下が厳しく叱責した長州閥が、またしても悪意を持って陸軍人事を私したのです。


 桂太郎は言い訳を重ねましたが、それが逆に今上陛下の怒りを激しくさせました。

 特に無理をなされた有栖川宮威仁親王が亡くなられたのが止めでした。

 幼少の頃に両陛下や実母から離され、寂しく育たれた今上陛下にとって、有栖川宮威仁親王は兄同然の存在でした。

 その有栖川宮威仁親王が、桂太郎を筆頭とした長州閥の為に憤死したのです。

 真実は御寿命だったのかもしれませんが、その死を早めたのが桂太郎と長州閥の我欲で有ったのは間違いありません。


 今上陛下の怒りは誰にも押しとどめられず、長州閥の専横を苦々しく思っていた薩州閥や少数派も同調しました。

 新聞紙面も激しく桂太郎と長州閥を叩き続けました。

 しかしそれでも桂太郎は、女々しく利権を確保しようと暗躍しました。

 遂に今上陛下の怒りが爆破し、長州閥の親任官大将、勅任官一等の中将、勅任官二等の少将が、信任と勅任を破棄されるという前代未聞の大事件と成りました

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