櫻井龍騎4

 女衒共は一瞬で身体が固まったようだ。

 祖父が亡くなるまでの短い期間だが、武士としての組討は学んだ。

 空腹と仕事の疲労で倒れそうになりながら、父からも組討を学んだ。

 それが軍隊で生かされたし、この場でも生かされている。


 父上と二人で女衒共の中に飛び込み、瞬く間に半数は叩き伏せた。

 だが相手も暴力で生きている者達のようだ。

 徴兵経験もあるのが分かった。

 いや、軍隊以外でも、博徒の集団も統率がとれている。


「糞!

 部下が護衛についてやがったか!

 逃げろ!」


「龍騎!

 一人でも多く捕縛しろ。

 ただの女衒ではないぞ!」


 父上の一喝に女衒共は驚いていた。

 俺も少々驚いたが、父の命は絶対だ。

 女の子を助けるのは当然として、犯罪者を確保しなければならない。

 殺すわけにはいかないが、逃亡を防ぐために、ある程度は叩きのめしておく必要がある。


 父上が情け容赦なく女衒共の脚の骨を砕いている。

 絶対に逃亡できないようにするためだろう。

 一瞬躊躇したが、父上の考えに間違いはないはずだ。

 俺も脚を砕くか、腕の関節を外す事にした。


「何してやがる。

 捕まると大変だぞ。

 担いで逃げるんだ!」


 兄貴分の言う事がちょっとおかしい。

 まるで誰かに聞かせるための台詞のようだ。

 一旦逃げかけた女衒共が、俺達が確保した仲間を助けようとする。

 弟分達に言った言葉なのだろうか。


「貴様ら何しておる!

 さっさと解散しろ!

 逮捕するぞ!」


「巡査!

 貴様らも人攫いの仲間か!

 人攫いを押さえ込んだら都合よく出てきおって!

 近衛兵を嘗めているのか!

 官姓名を言え!

 貴様らの行所を陛下の言上する!」


 父上がまるで自分が近衛兵のような事を口にした!

 父上の言葉に思わずギョッとするが、俺以上に巡査が驚愕したようだ。

 俺の近衛騎兵隊ドルマン式ジャケットを見て、慌てて逃げだそうとした。

 だが父上は逃げる事を許さない。

 斃した女衒が懐にしていた匕首を、棒手裏剣や小柄のように投げて、巡査の脚に突き刺した。


「ギャアァアア」


 情けない悲鳴を上げて巡査が倒れた。

 父上の余りの行動に、女衒の兄貴分がギョッとしたようだ。


「逃げるぞ!

 とにかく逃げて、助っ人を呼ぶ!」


 女衒の兄貴分は、言った時にはもう背中を向けていた

 匕首を投げられるのが怖かったのかもしれない。

 父上がモノも言わずに女衒の兄貴分を追いかける。

 俺は一瞬動きが遅れてしまった。

 父上が茫然自失している女の子を放って行ったので、仕方なく女の子を確保しておくことにした。


 俺まで追いかけて行って、その間に女の子が攫われてしまたら、巡査まで傷つけて、何をしているか分からない

 それにしてもこの女の子は誰なんだろう?

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