ゲームと食べ物の恨みは基本的には許さない

 基本的にはカルトではないありがたーい宗教であるという名目の我が教団は、実は普通にサイコなカルト宗教でした。

 人々を救い導くなんて教えはただの名目で、その本当の目的は世界の支配だったりします。

 ゲーム的にいうと悪の組織です。

 他所の国の聖女のクローンを作り出してみたり、世界に四体しかいない聖獣のうちの一体をひっ捕らえて秘密兵器に仕立て上げたり、教団にとっての邪魔者を積極的にバッサバッサと暗殺したりと、やってることは結構ブラック。

 ですが猫をかぶるのが上手いので、地元では正義の味方気取りです。

 人間って怖い生き物ですよねと、人間ではない身で何度思ったことでしょうか。

 とはいってもやってることは犯罪混じりのブラックですが、企業的にはややグレーでした。

 お昼休みとかは普通にありますし、残業代もある程度までなら出るのです。

 昔はブラック企業も真っ青のピュアブラックだったらしいのですが、私が作られる前にブラックっぷりに疲れてキレた方が敵に寝返ったそうで。

 ついでに言うと、そのキレた方というのが同僚さんと同じくらい強い幹部の方であったそうで。

 こいつはまずいということで、働きかた改革のようなものが急遽行われたようです。

 そのキレてくれた方にもし私が会うことがあるのであれば、多分頭があげられませんね。

 というわけで、楽しいお昼休憩です。

 今日のお仕事は基本的には書類の整理だったので、教団の隅っこに隠れるように存在している休憩室で休憩をとります。

 この休憩室で主に休憩を取るのは私と同僚さんと先輩方が数名。

 仕事中にいびってきた上司は自分の個室があるのでそっちで休憩しているようです、私も個室がほしいです、せめて仕切りがほしいと思うのですがいつか勝手に実装してもいいでしょうか?

 聖女のクローンのくせに役立たずな私は先輩方にたいそう嫌われているので、休憩室の隅っこで一人で悠々と昼食をとることにしました。

 今日の昼食は朝焼いてきたハムとチーズのホットサンド、炎の魔法で軽く炙ってから食します。

 はむ……普通ですね。

 いつもと何も変わらぬホットサンドでした。

 炙ってもやはり焼き立てには劣る……

 普通に食べ終わってもう一個持ってきたチョコとマシュマロ入りのホットサンドも炙ります。

 ある程度炙ったらこちらもがぶりと。

 ……火力が足りなかった気がします、中が冷たい。

 追加で加熱します。

「それ一口ちょうだい」

 中のチョコとマシュマロがとろとろになった直後にいつの間にか隣に座っていた同僚さんにホットサンドを奪い取られ、真ん中の一番美味しいところを持っていかれました。

 私、呆然。

「ん。甘い。ありがと」

「…………」

 返されたホットサンドを無言で受け取って、中身があんまり残っていないのを確認し、私は何も言わずに同僚さんを睨みあげました。

 何故か頭を撫でられました、誤魔化しているつもりなのでしょうか。

「何? 怒ってるの?」

「…………」

「またプリン買ってあげるから許してよ」

「………………」

「それとも駅前の和菓子屋の抹茶プリンの方がいい?」

 ……。

 えっ? 駅前の和菓子屋ってあの高級和菓子屋の事を言ってるんでしょうか?

 抹茶プリンってあの一個だけで普通のプリンが三十個くらい買えるお値段の、あの高級抹茶プリン?

「練り菓子もつけるよ」

「………………………………ゆるします」

 ああ、折れてしまいました……だってあの高級抹茶プリンだけでもぐらついたのに、練り菓子付きとか……

 あそこの練り菓子、昔一度だけ買ったことがあるんですけど……すごく、すごく美味しいんですよね……

 敗北感に打ちひしがれている間も、同僚さんに頭を撫でられていました。

 笑っていらっしゃるのですが、一体何が楽しいのでしょうかね?


 仕事が終わった後、二人であの高級和菓子屋に行きました。

 道中で教祖の娘様に出会ったのでご挨拶だけしました。

 和菓子屋では抹茶プリンと練り菓子をなんと三つも買っていただきました。

 手毬とうさぎとすみれをひとつずつ、本当に良かったのでしょうか?

 ……その代わりの交換条件として家に上げろと言われてしまったのですけど。

 何もしないと約束されたので、仕方なくあげてしまいました。

 何かされても何も文句は言えないのだろうなと思っていたのですが、普通にお菓子を食べて少しお話した後同僚さんは帰って行きました。

 ちなみに同僚さんは自分で自分用に買ったすあまを食べていました。

 少しだけいただいたのですが、上品な甘さで美味しかったです。

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