第6話 蘇るスリーパー・ホールド

 クラスで二番目に背の低かった美幸がプロレスラーになると決めた時、真剣に受け止めてくれたのが望だった。

 自分とは違い、当時から体型に恵まれていた望は快くプロレス技の実験台にもなってくれたし、日々の練習にも付き合ってくれた。

 現在いまでも、その時の感謝の気持ちを忘れたことはない。

 そして、望が秘めている格闘センスも。


 それは、スパーリングという名のプロレスごっこの最中に起きた。

 いつものようにされるがままだった望が急に技を切り返し、美幸の背後を素早く取ってスリーパーホールドで締め落としたのである。

 技の熟練者であれば、痛みをともなうことなく相手を眠らせるようにして失神させられるのだが、そこは素人の、しかもまだ小学生。気道を締めつけられる恐怖と苦しみの中で、美幸は気を失っていった。


 それから歳月が経ち、美幸は憧れのプロレスラーになれた。

 数々の強敵や困難をくじけずに乗り越え、アメリカの有名団体と契約して成功も収めた。


 次の目標はなにか?


 次は、なにが欲しい?


 世界王座を手にしてから、自問自答の日々が続く。

 それからだ。

 毎晩、あの時の出来事を夢に見るのは。


 決着をつけなければ先へは進めない──


 答えはいま、目の前にある。



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