エピローグ

 俺たちは授与式の後、少し早い夕食として裏庭に出て、バーベキューをした。

 知らない男性が何人かいたが、この人たちは親戚だという。

 俺を見て、大きくなったと喜んでくれたのはいいが、「おじさんのことを覚えているかい?」なんてニコニコして言われても、俺は自分の親さえ最近やっと覚えたばかりなのだ。

 無茶言うなと言いたいところだが、そこは覚えていないと言うことで貫いた。

 知っているふりをするよりも、忘れたから教えてくれと言う方が気分的に楽だからな。


 奴隷たちも、全員参加で盛大なパーティーとなった。

 親戚のおじさんたちは、奴隷も一緒とはニートも思い切ったことをするもんだと感心していたが、正直これがベストな選択なのか、俺にはわからない。

 だが、みんなの幸せそうな顔を見ると心がなごんだ。




 ニートが、鼻の下を伸ばしてエルフ奴隷に肉を焼いていた頃、離れた場所にいた専属奴隷たちは、ガールズトークに花を咲かせていた。


「ねぇ、リア姉ちゃん。どうして旦那様が好きになったの?」


 マリレーネは、皿に乗せた肉をフォークで突き刺しながら、パオリーアに聞いた。


「そ、そんなの、言う必要ないでしょっ! 旦那様に聞かれてしまうわ」

「大丈夫だよ。離れているし、なんで? なんで?」


 マリレーネがしつこく聞くもんだから、赤面したパオリーアがポツリと言った。


「最初に水浴びさせてくれた日があったでしょ。あの時に私の名前を呼んでくれたの。ただ、それだけなんだけどあの日から、他の子に連絡事項を伝えたりとか、いろいろ用事を頼まれたの。頼りにされてるのかなって思っていただけなんだけど、だんだん好きになっちゃって。理由は正直よくわからないわ」

「そうそれそれ! ウチもだんだんって感じ! はじめは、やさしい言葉を言われても裏があるんじゃないかって、ちょっと警戒してたんだけど、本当にやさしいんだって気づいた時には、好きになっちゃってた」


 パオリーアは、名前すら覚えてもらえなかったのに、名前を呼ばれ役目を与えられたことで、頼りにされていると感じたこと、奴隷商店で店主に奴隷がかわいそうだと怒ってくれたことから、ニートが気になる存在になっていったと言った。

 マリレーネは、さんざん虐げられていたけど、優しい眼差しでいつも見てくれていることに気づいた時、安心感を得たことから、いつしかこの人の役に立ちたいって思ったと言う。


「ねぇ、アーヴィアは? どうして旦那様を好きになったの?」

「必要とされたから……」


 ポツリと一言こぼす。


「え? それだけ? アーヴィアを必要としてくれたから好きになったってこと?」

「うん……そんな感じ。今でもよくわからないの。私、親からもいらない子って言われてたし、何をしてもうまくできなくて、ダメな子だって思っていたけど、旦那様がお前が一番だって言ってくれたから」


 パオリーアは、以前から察していた。自己肯定感の低いアーヴィアにとってニートは拠り所なのだと。

他者への依存心が高いアーヴィアは、たとえ踏みつけられても殴られても、必要としてくれるニートから離れられないのだ。それが愛情に変わったきっかけは、彼女自身も気づいていないのかもしれない。


「私と同じだと思う。あーちゃんも……存在意義を与えてくださったから、かもね」


 独り言ちたパオリーアを無視し、マリレーネがアーヴィアに耳打ちする。


「アーヴィアは、なんだかんだって旦那様に可愛がってもらってるもんね」

「マリちゃんこそ、旦那様に愛されてると思う……マリちゃんを見る目が違うもん」


 はいはい、と手を叩くパオリーア。


「そのくらいにしましょう。これからはニート様の侍女として今まで以上に忙しくなりそうよ」

「はい……がんばります」

「うん、がんばろー! 旦那様が奴隷商会ギルドの偉い人になったのなら、きっと他の奴隷もみんな幸せになれると思うんだ。だから、もっとウチも勉強する」


 三人の専属奴隷たちは、手を取り合っていこうと誓ったのだった。




「お前たち、何を話していたんだ?」


 俺は、三人が手を繋いで話し合っているので、近づくと声をかけた。

 パオリーアたちが、振り返り苦笑いをしている。何か悪巧みでもしていたのかな?


「ううん、これから三人で頑張ろうって話をしていたんだ!」

「そうなのか。そうだな、みんなで協力していけたらいいな」


 マリレーネは、大きなおっぱいをブルンと揺すると俺の腕にしがみついた。

 あの……みんなの前で、それはマズイんじゃないかい?


「旦那様。あの……私たち、ずっと一緒でいいんですよね?」


 俺はパオリーアに頷く。アーヴィアも、俺の腕に手を絡ませて来た。


「アーヴィアも、俺とこれからずっと一緒にいてくれるか?」

「はい……いいですよ。お望みでしたら一緒にいてあげても」


 うっ、なんだ? あれか? ツンデレなのか?

 キャラ変わってない?


「また、昨日みたいに旦那様とエッチできるんだねぇ。ウチも今度はいっぱい愛してもらいたいな」

「あっ、マリちゃんずるい! 私は一回だけだったのに、マリちゃん三回くらいイクイクぅ〜って言ってたよね?」

「あんだと! そんなにしてないし! ねぇ、旦那様ぁー?」


 あーうるさい! やはり三人は多かったのではないか……

 これは先が思いやられるな。

 

 この日は、異世界に転移して初めて幸せだと感じられる一日になった。



 ◆


 この日の夜、俺はこっそりと親父から引き継いだノートを取り出した。

 大賢者サルバトーレ様が、俺の祖父に教えたと言う「女神の神託」を聞く方法が書いてあると言う、謎のノートだ。

 包みを開けると、胸がドキドキしてしまう。


 紙にペンで書かれた表紙には、「迷いなく選択する方法」と異世界こっちの言葉で書いてある。


 俺は、ワクワクして表紙をめくった。

 あれ? これって……

 紙に縦の線が書かれ、それぞれの縦の線をつなぐように横の線が入っている。

 一番下には、おそらく奴隷たちの名前……


 二ページ目をめくってみた。同じだ。同じような図形と名前が書いてある。

 えっと……これって、ただの『あみだくじ』じゃね?


 おいっ! 今まで、あみだくじで決めていたのかよっ! 何が女神の御神託だよ!

 大賢者様があみだくじを教えてくれたっていうのも、眉唾ものではないか?


 あみだくじがたくさん書かれたノートを閉じ、思わず声を出して笑った。

 さすが親父だ。やっぱりあの人は仕事してなかったんだ……さっさと、跡継ぎになってよかった。


 ノートを机の引き出しに奥に大切にしまった。


 俺は、残りの人生、奴隷商人としてやれるだけやっていこう。

 女神様がくれた余生を楽しんでいこうと心に誓った。


<完>

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