第31話:奴隷商の息子は牛を買う①
翌日、牛を一頭引いたおっさんが屋敷にやってきた。
「牛を食べるって本当だべか? ちょうど、この牛がもう乳が出なくなったので処分するところじゃったんじゃ。乳の出なくなった牛を買ってくれるのはありがたいです」
「そうなのか? また、頼むよ」
後で知ったことだが、この国が肉を食べない食習慣だということではないらしい。冒険者が集まる店では普通に牛肉の料理はあるそうだ。理由としては、乳牛がほとんどだから、あまり流通していないということらしい。
「肉が食べたいのならウサギや犬、鳥にしたらいいんだが。まぁ、また必要になったら言ってくれ」
「ありがとう。助かったよ」
おっさんは庭先に打ち込んだ杭に牛をつなぐと、とっとと帰って行った。
あれれ? 解体してくれるんじゃなかったの?
◆
牛の解体ができる職人を頼むことを忘れたアルノルトは平謝りしているが、俺は怒る気にはなれなかった。なにしろ、牛肉が食べることができるのだから。
さて、解体をどうしたもんか……
ウサギや鳥を解体した者もいるだろうから、なんとかなるんじゃないかと、最終的には楽観視することにした。なるようになる、たぶん。
「アルノルト。牛の解体はお前たちでやってみろ」
「へ? あの、牛の解体はやったことはありませんが……はいっ、やってみます」
俺が怒っていると思ったのか、アルノルトは挑戦するつもりのようだ。
見よう見まねでできるほど牛の解体は簡単ではない。むしろ、難しいだろう。
コイツも俺も知識がない。やはり、誰かに頼むべきか。
「奴隷たちの中で、動物の解体ができる奴がいないか聞いてみるといい」
アルノルトへ指示を出す。
もしかしたら、マリレーネあたりは牛を日常的に食べていたかもしれない。
なにしろ獅子人族だ。牛の踊り食いでもしていそうだ。
「わー、ムリムリムリー!」
アルノルトに連れられてきたのは、やはりマリレーネだった。
いつもの元気いっぱいの女も、牛を前にして驚いている。
「お前、動物は解体したことがあるのか?」
「ないですよー! 牛の肉が食えるからって騙されて来たら、解体しろとか、できるわけないじゃん」
大きな牛から少しでも離れようと、後ずさりするマリレーネの背中を押すアルノルト。
「アルノルトさん、これはどういうことかな?」
マリレーネの様子を見て、俺はアルノルトに抗議の視線を送る。
アルノルトは、目をキョロキョロと泳がせて、しどろもどろに答えた。
「あ、あの……それが、その……」
冷や汗をかきながら、口ごもるアルノルトの足元の地面に、ビシッと鞭を叩きつける。
鞭の乾いた音を聞き、アルノルトとマリレーネがビクッと跳ねる。
ごめん、マリレーネ。君は悪くないんだが、たまには喝を入れるのもいいよな。
しばし無言の圧力……
「も、申し訳ありません! 申し訳ありません」
そんなに謝られると、こっちが悪者みたいじゃないか。
怒ったふりをしているが、本心ではなんとか二人に解体してもらいたいと願っている。
「解体できる者がいなかったという事か?」
「はい……すみません」
「それで、牛の肉を食ったことがあるかを聞いて、マリレーネを連れてきたと?」
「はい、その通りです」
俺は、はぁと溜息をついて頭を抱える。
しかも、食べさせてやると嘘までついて連れてくるとは……
まぁ、いいか。こうなったら、奴隷たち全員でやらせるか。
「獣人族の者を集めろ!」
「はっ! すぐに! エルフはどうしましょう?」
「それはいい。屋敷の掃除でもさせておけ」
マリレーネは嫌そうに俺を見たが、大丈夫だ、みんなでやればなんとかなると言うと、頷く。
素直でよろしい。
ゴミの焼き場が、グランドのように広いので、そこで牛の解体をした。
そのままゴミを捨てられるのもいいが、血で庭の芝を汚すのが気が引けたからだ。
集められた、奴隷たちはキャーキャー騒ぎながら、アルノルトが仕留めた牛を解体した。
若い牛ではないし、乳牛だから美味しくないかもしれないが、これだけの肉があればしばらくは焼肉三昧だ。
この世界には、電気式の冷蔵庫はないが、呪文紙という魔法が付与されたお札を使って食品を凍らせたり、冷やして腐らないようにすることができるので、肉を解体しても保存には心配ない。
この呪文紙は俺の部屋の天井にも貼ってあり、夜になると照明として点灯する優れものなのだ。
他にも湯を張ったりすることもできる。
ちなみに水を張ることもできるので、井戸から運ぶ必要はないことに、デルトは気付いていない。
無駄な経費は省くに限る。しばらくは、奴隷に働いてもらうのも良いだろう。
「ニート様! 体の解体はほぼできました」
「アルノルト、牛の舌はどうした?」
キョトン顔で俺を見るので、自分の舌を出して指差した。
「この舌だ。牛の舌は大きいだろう? あれがうまいんだ」
疑うような目をしているアルノルト。
舌も食べられるのかと喜ぶマリレーネ。性格がモロにわかるね。
「疑うのなら、アルノルトは食べなくていいからな。マリレーネは食べるよな?」
「食べます! ニート様が美味しいと言うのなら、絶対美味しいはずです」
「さすがマリレーネだ。主人への絶対的な信頼がなせる言葉。どこかの誰かさんのように主人を疑うなどもってのほかだ」
顔を真っ赤にしたアルノルトは、両膝をつき胸の前で手を合わせて、そんなつもりではなかったんですなんて言い訳しているが、聞こえていないふりをした。
「マリレーネには一番おいしいタンを焼肉にしてやるぞ!」
「本当に? ありがとうニート様!」
ムニュっと腕におっぱいを押し付けて喜ぶ
つい、鼻の下が伸びる。
チラッと視線の端にパオリーアが目に入る。
やばい、これはもしかして怒るかな?
「マリレーネちゃん。そんなに馴れ馴れしくニート様に引っ付いてはいけません」
パオリーアが、こちらに向かいながらマリレーネを叱る。これって、何気にマリレーネを叱りながら俺に抗議してるんじゃない?
「さぁ、マリレーネは作業に戻って。ニート様もこちらへ」
そう言うと、俺の腕を、両乳で挟み込みながら引っ張った。
ふんわり柔らかい感触。マリレーネの弾力たっぷりのおっぱいとは違ったテイストに、俺は若干前屈みになって歩く。
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