第24話:奴隷商人はエルフの涙と力に震える

 俺が日本にいた時にハマっていたゲームが『陵辱ハーレムは性奴隷エルフとともに』というエロゲだった。

 そして、この異世界に来て、実際にエルフの奴隷たちを目にすることができた。


 ゲームの中のエルフは、スレンダーな体つきに巨乳、長い睫毛に大きな瞳、そしてエルフらしく長い耳の美しい少女たちだった。

 そして、全員がエッチな性格で、甘い言葉を囁くだけで好感度ポイントが貯まり、エッチなサービスシーンに突入する、それはそれは大変楽しいゲームだった。

 ガチャを回して素材をゲットし、奴隷キャラを強化すると性技が増えていくのだ。


 そんな俺が、今は念願の奴隷商人となっている。正確には奴隷商人の息子だけどね。


 親父は俺に家業を継がせたいようだが、俺はスローライフを楽しみたいと思っていた。

 まだ右も左もわからない俺には、毎日屋敷の中で奴隷たちのラッキースケベを期待し、日がな一日過ごしているほうが楽しい。


 楽しいと言えば、二日に一度の頻度で奴隷が夜のご奉仕として、俺の部屋にやってくる。

 頼んでもいないのだが、アルノルトが連れて来てくれるのだ。


 ただ、今までどうだったのか知らないので、手を出していいのか、どこまでやっていいのかわからなくて困っている。

 だから、俺はベッドで寝転び、されるがままの状態だった。。

 俺も、女の子は好きだし、それがケモミミの可愛い娘なのだから楽しみではあった。

 いや、むしろ楽しみだと言える。奴隷商人サイコーだ! とはしゃぎたくなる。


 しかしだ。エルフが来ないのだ。

 アルノルトの嫌がらせを疑ったが、奴はそんな姑息な嫌がらせはしない。

 もしかして、俺がケモミミ好きだと思っているのだろうか……そりゃ好きだけどな。

 でも、一度でいいからエルフとイチャイチャしてみたいじゃないか。

 ゲームの中では、あんなことや、こんなことを体験したんだ。

 せっかくエルフの奴隷が近くにいて、しかも奉仕を厭わないのだから、エルフを所望してもバチは当たらないだろう。



「エルフがいいな……アルノルトくん、エルフがいいなぁ……」


 手を合わせ、アルノルトに猫なで声でおねだりしてみる。

 我ながら気持ち悪いが、アルノルトはニコリと笑うと、


「はっ! か、かしこまりました。今夜はエルフをご準備します」


 アルノルトはそう言ってくれた。

 実は、まだ一度もエルフと話をしたことがなかった俺は緊張していた。

 美人を前にすると極度に緊張してしまうってこと、男ならあるある話と思う。



 ――――コンコンコン


 部屋がノックされて、エルフが入って来たときに俺の興奮度はマックスになった。


「よく来た。こっちに来い」


「……はい」


 黄金の髪は長く、肌は白くて陶器のようにスベスベしている。

 鼻筋がスッと通っていて高く、彫りの深い顔立ち。

 ゲームに出て来るエルフそのものだった。うはっ、本当にエルフだ!


 そっと、肩を抱くと、小刻みに震えていた。


「怖いのか?」


「……も、申し訳ありません。だ、大丈夫です……」


 大丈夫と言うわりには、怖がっているんですけど。


「以前も俺のところに来たことが?」


「はい。ずっと前に一度……」


 ずっと前……珍しいな、エルフがそんなに長くいるとは思えないけど、俺がこの世界に来る前のニートは虐待を繰り返す男だった。

 重い怪我でもしていたのだろうか。かわいそうに。


「あのときはすまなかった。怖い目に合わせてしまったようだ」


 下を向いていたエルフが、俺を見上げて目を覗き込む。

 ……な、なんです?


「あの時のニート様と、違うかたですね」


「え? 違うってなにが?」


「見た目は同じでも、前のニート様と今のニート様は別人です」


「……そんなこと、わかるの?」


 エルフの娘は、一歩離れると俺の頭の先からつま先まで舐めるように見ると、安心したように表情が柔らかくなった。


「私にはそういう能力がありますので。以前のニート様はどうされたのです?」


「あいつは、女神に召された。代わりに俺がこの肉体をもらっている」


「召された? ……そんなことが……でも、それでわかりました。近頃のニート様がやさしい理由が」


 え? どんな噂かな。優しいってだけならいいけど、他に悪口とかないよね?


「君の能力って、エルフなら誰でも持ってるのか?」


「誰でもというわけではございません。しかし、エルフには魂の色を見ることができる者が多くいます」


 エルフって精霊使いってパターンはよく聞くが、そんな霊能力を持つエルフもいるのか。

 他人にバレたらダメとか女神様は言っていなかったけど、ここだけの話ってことにしてもらおう。


「すまないが、中身が別人だということは誰にも言わないでほしい」


「それはいいのですが……理由をお聞かせください」


「そりゃ、中身が違うってわかったら親父に追い出されてしまうだろう。だれが、別人を息子だと思う? 俺はこの世界のことなんて何も知らないんだ。いま外にほっぽり出されたら生きていける自信ないよ」


 ふふふと可愛く笑うエルフに見とれてしまった。


「このままニート様として生きていくわけですね。それなら私も喜んでお仕えします。もちろん、他言無用ということで、他のエルフにも伝えておきます」


「ああ、頼む」


「いいえ、私たちは奴隷になってから苦しんでいました。しかし、ニート様のおかげで最近は前向きに考えられるようになったのです。感謝いたします」


 感謝などされるほどのことはしていないが、うんうんと頷いておいた。

 美人な上に、頭も良く、こちらの意図を汲んでくれるのはありがたい。


 俺たちは、とりあえずベッドに座って話をした。


「ところで、気になっていることがあるんだが、なぜエルフは獣人族と分かり合えないのかな? せっかく同じ屋根の下で暮らしているのに、仲良くしてはどうだろうか?」


 先日、パオリーアから獣人族とエルフは仲が良くないと聞いていた。

 パオリーアの言葉だけを信じるとエルフの本質を見誤ることになる。


「私たちは森の妖精と呼ばれています。獣人族たちも森人と呼ばれていますが、私たちは妖精から派生した種族。あの者たちは獣人から人族になったため、全くルーツは違います」


 そりゃそうだろうな。日本のファンタジー世界の設定とほとんど同じだ。


「ルーツが違っても、仲良くすればいいじゃない? それはできないのかな?」


「仲良くするきっかけがないだけで、敵対しているわけではありません。ただ、お互いに無駄に張り合っているのかもしれません」


 なるほどね。喧嘩していないのならいいか。


「エルフのみんなは俺が変わったと気づいているのか」


「さぁ、どうでしょう。私もこの距離でニート様を見ることができたので、魂の色を見ることができました。気づいていないエルフのほうが多いと思います。」


 なるほど。このエルフは俺に近づいて初めて俺が別人だと気づいたということか。

 もしかして、魂の色が見えるって能力以外に、考えていることがわかったりするのだろうか。

 それだと、エッチなことを想像していたことも、バレてしまって困るんだが。



「もしかして……エルフは他人の心が読めたりするのか?」


「それはできないです」


 あぁよかった。そんな心の中まで見られたら、俺のドロドロした下心が全部バレてしまうもんな。

 さぁ、話はこれくらいにして、どうやってエッチに持ち込めばいいんだ?


「どうかされましたか?」


「……えっ? いや、エルフは美しいなと思ってな」


 うふふって可愛く笑ったので、思わず胸がキュンとしてしまった。


「では、ご奉仕させていただきます。優しいニート様には、精一杯お勤めさせていただきますね」


「ああ、ありがとう」


 わお、エルフさんがリードしてくれた。助かるわー。


 ストンと貫頭衣チュニックを脱ぐと、パンツ一枚の姿になったエルフがはにかんで近づいて来た。


「あの……パンツを脱がせてください」


 うひょぉ、マジか! エルフのパンツをこの手で脱がす日が来ちゃったよ!


 胸を腕で隠して立っているエルフの前にしゃがみ込むと、パンツに手をかける。俺が下着屋に作らせた柔らかいシルク生地の紐パン。

 お尻の半分が布で覆われているローライズパンツだ。

 興奮しすぎて、横の紐をほどくのに手が震えて、額から汗が吹き出る。

 焦ってしまって、手が震えて紐を指先でつかむことさえできない。

 こ、こんなはずではなかったのに……。焦れば焦るほど、震えてしまう。

 なかなか、紐を掴めないのには理由があった。目が、紐に集中できないのだ。

 興奮しすぎた。俺は、なんどか深呼吸をする。


「どうかされましたか?」


「いや、それがうまく脱がせられないんだ」


「はい……では、自分で脱ぎます」


 そう言うとエルフの娘は、くるっと背を向けた。

 お尻が真っ白な陶器のようですべすべして気持ち良さそうだ。

 指先で紐をほどくと、尻の方からゆっくりとパンツを下げていく。

 おぉ、これが噂に聞いたエルフのお尻かぁー!

 このまま尻の谷間にバンジージャンプしたい気持ちになるが、ぐっとこらえる。


 そして、足元にパンツがぽとんと落ちた。

 月明かりが窓から差し込み、彼女の裸体を照らし神々しく光っているように見えた。

 さすがエルフ。憧れのエルフが目の前にいる!

 しかし、残念なことが一点ある。

 エルフはみんな推定Aカップということだ。


 俺は、その夜はエルフと会話を楽しみ、肌の感触を堪能した。

 エルフを性奴隷にする客が多いと聞いていたが、なるほど納得だ。

 一緒にいるだけで幸せな気分になれるほどの美人。

 これは性奴隷として高値で買われるはずだと、妙に納得した。



 一戦終えた俺はエルフに腕枕してしばらく会話をした。


 もちろん、境遇を聞くと情が移るため詳しくは聞くことはしない。

 俺は、女の子に優しくされるとすぐ惚れてしまう癖がある。

 いわゆるチョロい男だ。


 いずれ、この娘も奴隷として売られていくことになる。もし、情が移ると手放すのが惜しくなる。

 だから、俺は奴隷との距離感には注意していた。


「明日、私は売られていくことに決まりました。だから、今夜ニート様に呼んでいただけて幸運でした」


「そうか、明日か。キミならすぐに買い手がつくだろう」


「はい……あの……」


 腕に抱かれ俺の胸に頬をつけたエルフを見た。

 ……泣いている。涙が頬を伝い、俺の胸へとポツリと粒が流れ落ちる。


「泣いているのか?」


「はい。このお屋敷に来て一度は絶望に打ちひしがれました。ですが、ニート様が今のニート様になられてからは、毎日が幸せでした」


「それほどでもないだろう。掃除や庭掃除などエルフには苦痛だったのではないか?」


「いいえ……幸せでした。とても……」


 俺は、指先で涙を拭ってやると、ぐっと抱き寄せて唇を重ねた。


「あああっ、ニート様……」


 何度も唇を重ねながら、この娘が今後幸せな生活ができることを願った。


「ありがとうございます。高く買っていただけるように、少しでもニート様に恩返しができるようにがんばります」


「ああ、お前に幸せが訪れることを願っている」


 結局、朝まで一緒に眠ったが、目が覚めた時にはすでに部屋に戻ったようだった。

 名前も聞かなかったが、別れとはつらいものだ。

 奴隷商人には、非情にならないといけない時もあるが、それは別れの時なのかもしれない。


 俺には別れたくない奴隷がいる。

 パオリーアにマリレーネ、そしてアーヴィアの三人だ。

 この娘たちもいずれ別れがくると思ったら、胸が張り裂けそうだ。

 その時、俺は耐えられるだろうか。


 俺の優しさが、彼女たちを不幸にしてしまうのなら、下手に情けをかけるべきではないのかもしれない。

 俺の優しさは偽善、自分が良いことをしたと思いたいだけなのかもしれない。

 厳しくした方がいいのかどうか、答えはわからない。

 しかし、あの子たちが幸せに感じてくれているのなら、俺のやっていることも間違いとまでは言えないはずだ。


 そして、あの子たちが売られた先で酷い目に遭うことがないように、考えてやらなければならない。

 店主には、売り先を吟味するように伝えている。


 俺は、あのエルフも少しは良いお客に買われることを願った。

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