朝の激闘 3 朝うどんってナンだ?

 今日は久しぶりに晴れ渡った実にいい天気だ。玄関のドアを開けると、外の陽光がいつになくまぶしい。


 昨日はほぼ徹夜で原稿を仕上げていたので、お腹もペコペコだ。 さて、ようやく原稿も仕上がったので腹ごしらえへ行くことにしよう。


 徹夜明けの胃袋には消化が良く、あっさりとした物が良く合う。お粥、雑炊、汁物、何がいいかなあと決めかねていた私の目に映ったのは「朝うどん」というのぼり旗だ。「朝うどん?」 駅の立ち食いソバ同様、私にとって朝食にうどんというのは定番中の定番だ。そのうどんにわざわざ「朝」をつけるとは、おそらく定食屋などでよく見かける「朝定食」のように、値段が安い、もしくはお得な一品がついてくるなど、朝ならではの特典がついてくるうどんに違いないだろう。


 朝うどんののぼり旗が掲げられたその店は、いかにもチェーン店のような明るい色づかいの外観だ。ガラスを使った外壁に、黄色と赤のカッティングテープが張られている。


 入口には腰高くらいの台があり、そこにはメニューが置かれている。私はそのメニューをペラペラとめくってみた。ふうむ、なかなか美味しそうなメニューが並んでいる。えび天うどん、かき揚げうどん、山菜うどん、鍋焼きうどん、鴨南うどん、どれも興味深い。だが、「朝うどん」という品書きがない。もう一度最初からメニューをめくってみたが、やはりどこにも朝うどんが載っていない。


 うむ、おそらくこれはよくある「ランチメニュー」的に、「朝メニュー」が別にあるに違いない。朝だけのメニューなので朝メニューは入口には置かず、店内だけに備え付けてあるのだろう。どれどれ、今日はその朝うどんとやらを試してみようじゃないか。


 私はウキウキしながら入口のドアを開けた。「いらっしゃいませー、お好きな席へどうぞー」 愛想が良い店員さんの元気な声が店内に響きわたる。店内はガラガラだったので、カウンター席ではなく、窓際の4人席へ。


 さて、朝メニューを拝見させていただこうか。薬味などが置いてあるスペースには入口に置いてあったものと同じメニューがある。朝メニュー、朝メニューっと。ん? あれ? 朝メニューはどこを探しても見つからなかった。


 これはもしや、その都度店員さんに声をかけてメニューをもらうシステムなのかもしれないな。そう考えた私は、目があった店員さんに声をかけた。「あ、あのう、朝メニューを見せていただきたいのですが…」 するとその店員さんは一瞬固まり、その後、私にゆっくりとこう告げた。


 「朝メニューって、なんですか?」 いやいや、聞きたいのはこっちである。「いや、あのう、朝うどんていうお品書きが載っているメニューが見たいのですが…」 すると店員さんは顔をこわばらせながら、「えーっと…、朝うどんのお品書きってなんですか?」 こっちが聞きたい。あなたはどこの店員さんなのですか…


 さすがに面倒くさくなった私は、「あ、いや、メニューは大丈夫です。朝うどんをひとつお願いします」と告げた。お品書きがないので値段は分からないが、まさか数千円するうどんではないだろう。うどん一杯くらいのお金ならいくら私でも財布に入れている。


 すると、店員さんはこれまでになくいぶかしげな顔をして、「あのー、朝うどんてなんですか?」とのたまわった。朝うどんてなんですかっていうのはまさに私の台詞だ。温厚な私もさすがに我慢の限界だ。


 「あのね、あの外に掲げてあるのぼり旗、あそこに書いてある朝うどんを食べたくて、私はここに来たんです。あなたが朝うどんというメニューを知らないのなら店長でも社長にでも聞いてきてください!」


 そう私が語気を強めると、その店員さんは一瞬吹き出しそうになるのをこらえながら、「あのう、あれはですね、そう、例えば『朝ごはん』て書いてある看板と一緒の意味です。つまり、朝ごはんはこちらでどうぞっていう意味です。なのであれは…」と店員さんが説明を続けようとしたので、私はそれを遮り、「…もうわかりました。はい、あのう、えび天うどんをお願いします」 お得メニューを試すつもりが結局定番メニューになってしまった。まあ、でも「朝ごはんとしてのうどん」にはありつけそうだ。


 「えび天うどん一丁!(ぷっ)」注文を受けつけた店員さんの声が店内に響き渡った。おいおい、最後の「ぷっ」てなんだよ。


 すると、厨房の中から、「えび天うどん一丁、ありがとうございます!(ぷっ)」


 今日もいい日が始まりそうだ。


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朝の激闘 高ノ宮 数麻(たかのみや かずま) @kt-tk

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