タピオカミルクティーさんへ

泡野瑤子

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タピオカミルクティーさんへ



 はじめまして。突然お手紙なんて書いてしまって、ごめんなさい。きっとびっくりしたんじゃないかと思います。


 こういうのって、前略とか拝啓とか、「だんだん寒い季節になってまいりました」とか、最初になんか書かなきゃいけないんだと思うんですけど、手紙なんて書いたことないから、わかりません。おゆるしください。友達や家族に伝えたいことは、いつもLINEですませてしまいます。メールも少しは使ったことがあるけど、うさぎさんのスタンプが送れなくて不便です。


 はじめに自己紹介をします。私はさーや、三茶さんちゃに住むJKです。略せずに言うと、三軒茶屋さんげんぢゃやに住む女子高生です。あれ、女子高生も略語なのかな。ちなみに高三、高校三年生です。

「JK」はほんとだけど、「三茶」はちょっとだけ盛ってます。しいて言えば三茶の駅が一番近いっていうだけで、私の家はどこの駅から行ってもちょっと遠いです。三茶のJKって言っておけば、ときどきフォロワーさんに「オシャレでうらやましい」って言ってもらえるから、インスタにもそう書いています。これは略せずに言うと、インスタグラムです。


「三軒茶屋」ってへんな地名だと思いませんか。江戸時代、世田谷通りと246ニイヨンロク(国道246号線のことです)の交差点のところにお茶屋さんが三軒あったからこんな名前になったらしいです。いまでもお茶屋さんていうか、喫茶店はいっぱいあります。私はまだ入れないけど、居酒屋やバーもいっぱいあります。

 そして、タピオカドリンクのお店もいっぱいあります。わたしは鹿のマークのおしゃれなお店やパンダのマークのかわいいお店が大好きです。金曜日の放課後にだけ友達と一緒に行きます。本当は毎日行きたいけれど、値段もカロリーも、けっこう高いのです。


 タピオカドリンクにはいろんな種類があるけれど、私はタピオカミルクティーさんひとすじです。タピ友のあいりんはタピオカ抹茶ミルクさん推しです。並べて写真を撮ってインスタにあげたら、いいねがたくさんもらえます。いつもお世話になってます!

 甘さはふつう、氷は少なめにします。ミルクティーの味の違いは正直よくわからないけれど、タピオカの違いなら少しは分かります。好みなのは大粒でもちもちした黒糖タピオカです。でも実は、タピオカを残さずきれいに吸うのは、あまり得意じゃありません。あいりんはドリンクとタピオカをバランスよく同時に吸いきるけれど、私はいつも最後に六、七粒カップの底に残してしまいます。もったいないからがんばって全部吸うのですが、氷がじゃまをするのでひと苦労です。私はあいりんと違って、タピオカを吸うのがへたくそなのです。氷少なめで注文するのは、そのためです。


 うちのお母さんが、「私が子どもの頃にもタピオカが流行ってたよ」と言っていました。でもその頃流行ったのは、タピオカミルクティーさんではなくてココナッツミルクと一緒にスプーンですくって食べる小粒のタピオカだったんですね。そっちはまだ食べたことがありません。

 いとこのマミさんがJKだったころに、タピオカミルクティーさんが台湾からやってきたみたいで、このときもブームになったんだそうですね。その後またあんま流行らなくなって(失礼なこと言ってごめんなさい)、私がJKになったいまの時代にまたタピオカミルクティーさんは大流行しています。ブームに乗ってできた新しいお店もあれば、マミさんの時代からあるお店もあります。ということは、ブームが過ぎ去っても、タピオカミルクティーさんたちのことをずっと好きで飲み続けていた人たちがけっこういたってことですよね。純粋にすごい。でも、ちょっと怖いかも、とも思います。


 インスタにタピオカミルクティーさんとかの写真をあげると、フォロワーさんからすぐにいいねが飛んできます。私はそれを見てうれしくなります。また写真をあげます。いいねされます。喜びます。その繰り返しです。でも、たまにしばらく投稿しないでいると、その間はほとんど新しくいいねされません。

 いまの若者はいいね中毒になってる、ってどっかのおじさんがテレビで知ったふうなことを言ってたけど、全然分かってないな、と思います。私はいいねされない時間が訪れると、なんとなくほっとします。自分から何かしないで黙っていれば、私のことはそっと忘れてもらえるのです。

 でもタピオカミルクティーさんはそうはいきません。たとえブームが過ぎても、タピオカミルクティーさんの熱心なフォロワーさんたちがいる限り、タピオカミルクティーさんは不滅です。(「滅」という字はスマホで調べました。滅びる。漢字テストで見たことがあるような気もするけど、日常生活でこんな字を手書きする機会は、一生来ない気がします)


 あー、なんだかぐだぐだとどうでもいいことを書いてしまいました。あんまり内容がないですね。お手紙を書こうと思ったのは、タピオカミルクティーさんに私の話を聞いてほしかったからです。LINEスタンプでは言い表せないことだったからです。

 なのに、いざ書いてみると、わざわざ伝えるまでもないことだったような気がします。そのうえ、私は本当に文章がへたくそです。へたくそな文章を読ませてしまって本当にごめんなさい。便せんももったいないですね。資源のムダ使いです。環境保護団体(この漢字もスマホで調べました)の人にしかられそう。

 でもせっかくお手紙を書いたのだから、最後に大事なことをちゃんと伝えます。

 私は今年で高校を卒業して、進学のために引っ越します。だからJKでも、三茶の人でもなくなります。引っ越し先はけっこう田舎なので、気軽にタピオカミルクティーさんを買うこともできなくなります。インスタ映えするおしゃれな写真も撮れなくなると思います。


 正直に言って、私はタピオカミルクティーさんのことを本気で推してたのかどうか分かりません。流行っていたからなんとなく買ってただけかもしれません。

 本当は何推しなのかなんて、自分でもよく分かりません。一途に何かを推し続けるよりも、何が新しくて何が古いのか、決めれる立場でいるほうが気楽です。次はバナナジュースが流行るって聞いたので、そっちに乗り換えると思います。ごめんなさい。

 でも、タピオカミルクティーさんのことは、きっと一生忘れません。

 あなたは私の青春の一ページです。

 いままでありがとうございました。さようなら。


さーや

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