第7話 自分で作ったカレーに、自分が癒やされる

「いただきます」


 飯が炊け、ようやく二人はカレーにありついた。

 

 外はすっかり暗くなっている。ダンナの帰りも近い。早く食べ終わらないと。


 急ごうにも、具だくさんのカレーは思いのほか食べづらい。


「慌てなくていいよー」

「ふわい」

 口をモゴモゴ言わせながら、葉那はカレーをかきこむ。


「おいしいよねー。食感が残ってるカレーって大好き」

 小皿に少量だけ盛ったカレーを、多喜子さんはじっくりと味わう。

 


 葉那は自作のカレーを食べ終える。

 我ながら、合格点だった。まさか、自分の味で癒やされるとは。

 



「今日は、ありがとうございました」


「いえいえ。またどうぞー」



「それなんですけど」


 葉那は、カレーのスプーンを置く。


「私、もう多喜子さんの部屋にお邪魔するの、遠慮しようと思ってるんです」



「えーっ、なんでー?」


 びっくりした顔で、多喜子さんは聞き返してきた。

 

「だって、ご迷惑じゃないですか?」


「わたし、そんな顔してた?」


 葉那は慌てて首を振る。 

「いえ。そうじゃないけど。ダンナさんにも悪いし」


「そうかな?」

 天井を見上げ、多喜子さんは考え込む仕草をした。

「ダンナは『かわいいお友達ができてよかったね』って喜ばれてるけど」


「胸の内では、どう思われてるか」

「少なくとも、葉那ちゃんの悪口は聞いたことないかな? お皿も洗ってくれるし。副業の記事作りも手伝ってくれるから、めちゃ助かってるよ。ダンナは畑違いだから、手を貸せないんだって」


 多喜子さんの夫は、パソコンやスマホを作る会社に勤めている。

 しかし、「端末を使って何をするか」に関しては、まるで専門外だそうで。


「文芸部だったんですよね? ダンナさんも」

「書けるのと、読むのが好きなのは別だから」


 物書きと本読みの違いは、スポーツなどに近いらしい。



「なぁんだ。ダンナを気にしていたのかー。それでお料理教えてもらいに来てたんだねー」


「はい。せめて、憧れの人が作る料理を自分で作れたらって、でも、カレーかーと思いました」


「カレーが作れたら、上等だよ。ダンナのことも気にしなくていいからね」

 


 多喜子さんは、二杯目をおかわりした。

 余熱で温めているので、カレーはまだ温かい。

 

 皿を小さめにしているのは、熱々を何度も食べられるからだという。

 

「そんなに、私のカレーっておいしいですか?」



「おいしい。昔作ったわたしのカレーより、何倍も。あのときは、甘口にタバスコ入れて、なんともいえない味にしたなー」


「え、まさか」



「うん。わたしね。結婚するまで、全っ然、お料理できなかったの」

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