人生空想芸礼賛 5(終)


 ――それから始まったのは、死闘であった。

 まず、このモノリスには攻撃パターンが五つあった。


 早すぎる高速弾。

 操作キャラクターを追尾する追尾弾。

 壁のようなものが迫ってくる攻撃。

 速度は遅いが、操作キャラクターが能動的に攻撃して破壊する必要があるミサイル。

 弾幕。


 その全てが、初見ではどうあがいても対処不能な攻撃だった。

 死んで覚えろ、むしろ死ね、何度でも死ね――そう言っているかのような攻撃だった。

 社は全てに引っかかって、全てで死んだ。


『キェェェェェ!』

 残機が無くなり、第一ステージからやり直しになり、また琥珀が奇声を上げた。

『高難度を! プレイヤーに歯応えを感じさせながら攻略させるためじゃなくて! 残機を減らすために! プレイ時間を増やすためだけに! 設置するなー! ふげぇぇぇぇ!』


「やるしかない……ないんだ……」

 絶望しながらも何とか戻ってきて、モノリスに社達は挑んでいった。

 霊鎧の補助を受けながら、五つの即死攻撃を見切って、攻撃を加え続ける。

 続けるが――


「なんか弾かれてないか、これ」

 社達の操作キャラクターが撃ち出した弾はモノリスに命中することはするのだが、それを受けたことによってモノリスが点滅したりなどのダメージを受けた反応を示すことはなく、命中した弾は斜め四十五度の角度へ弾が飛ばされているのだ。


『弱点部位以外無敵のやつだこれ……』

 社の言葉に、琥珀はうんざりとしながら返してくる。

 琥珀の言うとおりだとしたら、その弱点部位に攻撃を加える必要がある。あるのだが――


「いや、どこだよそれ……」

 言うまでもなく、ただの黒い板でしかないモノリスに、ここが弱点ですよと主張しているような、そこだけが特徴的な部位などというものは存在しない。

 ならば――


『総当り……』

「なぁ、このゲームそんなんばっかか?」

『……クソがぁ! 苦痛じゃなくて遊びをクリエイトしろ!』

 怒りを顕にする琥珀を他所に、社は行動を起こす。ジャンプを駆使して、とにかくこのモノリスの全箇所に攻撃を当てるのだ――それも、先までの五パターンの攻撃を避けながら。


 他に方法がないのだから、やった。

 上から下まで、とにかく少しずつ高さを変えながら弾を撃つ。斜め上に弾丸が弾かれる。

 味のしないガムを義務的に噛むかのような行為だった。


 そんな事をやって見つけた弱点は、操作キャラクターのジャンプの頂点でも普通に立っている地点でもない、最高到達点のやや下くらいの位置だった。

 その一点に当てたときだけ、弾が弾かれず、攻撃を受けたモノリスが白黒に点滅するのだ。


 そこは、ジャンプ最高到達点やや下のせいで、射撃感覚と上昇下降速度の関係で、一度のジャンプで上りと下りの二回攻撃を加える時間がない。

 一度のジャンプで、加えられる攻撃は一度だけだ。

 回避しながら攻撃は難しく、敵の攻撃の合間を縫って攻撃するしか無い。

 慣れてくると、このボス戦は今度は単調な癖に集中力が必要な、有る種の拷問と化していた。


 単調なBGM――最初のステージからこれ一曲で通している――も、精神力を削ってくる。

 ――ゲームとは、楽しいものではないのだろうか。

 この、他人を不快にし、それを長引かせ、苦痛とすることを目的化しているような何かは、本当にゲームなのだろうか。社がそんな考えを抱いた時だった。


「あっ……」

 モノリスが、今までにない爆発を見せた。

「終わったのか……」

NKTながくくるしいたたかいだった……』

 感慨深げに言う琥珀。

 画面上には、モノリスの残骸が残るステージ画面が映し出され、その上に、GAME CLEAR! の文字が単調に点滅していた。


 同時に、霊鎧を纏ったままの社は、別の変調に気付く。

 ゲーム機に刺さっている、スターマーセナリーのソフトから、ゲームを始める前に感じていたもの――もやりとした呪物フェティッシュとしての気配が、薄くなっていた。


「……もしや、ゲームとして生み出されたからには、誰かにクリアしてほしかったとかなんだろうか。そして、クリアされたから満足されたとか……」

 社のぼそりとした呟きに、琥珀が返す。

『クリアしてもらいたいなら! クリアしてもらいたいなりの設定をしろ! だいっきらいだバーカ!』

「その通り」


 そんな二人の耳に、何者ともしれない声が聞こえてきた。

 ――THANK YOU FOR PLAYING……

『あぁぁ! 何名作の終わりみたいな、いい話感有るような終わりにしようとしてやがるんだぁ! お前クソゲーだろ! クソゲーだろう! 私は許さんからな! 何キラキラ光って消えようとしてんだ! あぁぁぁぁ、綺麗に成仏しやがったあぁぁぁ!』

「テンションおかしいぞお前……」


 はぁ、と溜息を吐いた社の目の前で、モニター上に映る画面が変化する。

 何度見たかもしれない、最初のステージ、最初の画面だ。

 その上に、文字列が表示される。

 SECOND LAP START


「……」

『……』

 社は無言で電源を切った。

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安らかに眠ってろ -霊鎧探偵・烏堂 社- 下降現状 @kakougg

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