第5話

深い眠りから目が覚めて、体を起こす。


「おはようございます……」近くで何か調理していたボルドに声をかける。


「お、起きたか!飯の支度がもう少しで済むからその間にお嬢さんに会いに行ってやりな。もうそろそろ起きる頃だろう。」




「何から何までホントにありがとうございます。すいません、そしたらお言葉に甘えさせてもらいます。」


俺はボルドに言われたとおりに二階のに向かう階段を上がる。


二階の部屋の前に立つと一度深呼吸して、二回程ノックしてからドアをゆっくりと開ける。


「入るぞ……」もし寝たいたらと思い、小さく声をかける。


部屋に入ると、彼女は体を起こして窓の外を眺めていた。窓から射し込む夕陽で彼女全体が黄金色に輝いているように見える。


入ってきた俺に気づいたのか、こちらを向いて驚いた顔をして、目に涙を浮かべて、


「生きて……生きていてくれたんですね。ほんとに良かった……また、私のせいで死んでしまったかと……」


彼女はボロボロと涙を溢れさせながら手を握ってきた。


俺はなんと声をかけようか迷ったが、「俺も君も生きていて良かった。結局、二人とも助かったのはボルドのおかげだけどな。」俺はそう言って少し恥ずかしそうにする。助かったとは言え、それは俺の力じゃないからだ。


「そんなことないです。あなたが私の逃げる時間をくれたおかげで二人とも助かったんです。もちろん、ボルドさんでしたっけ?その人が助けてくれたので二人とも助かっていますがそれ以前にあなたがいなかったら結局二人とも死んで終わりでした。」そう言ってフォローしてくれた。その後、手を握っていたのに気づいたのか慌てて手を離す。


「そう言ってくれると楽になるよ。命張って闘ったかいがあった。改めて約束の名前を教えてくれませんか。俺の名前は松谷翔です。」生き残ることができたら教えてくれると言っていた名前を聞く。


「翔さんですか、二回も命を救ってくれてありがとうございました。私の名前は美久です。宮内美久です」


「美久さんか、いろいろあったけどよろしくな。そういえば、その制服ってうちの高校のやつだよね?何年生なの?ちなみに俺は2―4だよ。」疑問に思ったことを聞いてみる。


「あ、私は2―3です。隣のクラスでしたね。同い年なら敬語は全然使わなくて大丈夫です。あと、名前は呼び捨てで良いです。」彼女とは隣のクラスだったらしい。


(全然知らなかった……)


「俺も名前で呼んでくれて大丈夫。これから、よろしくな、美久。」そう言って右手を差し出す。美久は少し恥ずかしそうにしながらも差し出した右手を左手でしっかりと握り返してきた。


「こちらこそです、翔。」握手をしたのは良いが、美久と俺は段々と恥ずかしくなってきてどちらが先にとかはなく、お互いに手を離す。


その後のなんとも言い難い、空気に耐えきれず俺から話題を振る。


「話すのが嫌だったら無理に話さなくてもいいけど、なんで、あのとき死……」残りを言い終わる前に一階にいるボルドから呼ばれる。


「おーい!!飯だぞ!お嬢さんは起きたのかぁ?。」




「起きてました!今、行きまーす!」俺はボルドに返事をしたあと美久に確認をする。


「美久、歩けそう?怪我とかしなかった?」美久を見る限り目に見える怪我なんかはしてなさそうだ。念の為聞いてみる。


「あ、うん。おかげさまで、翔とボルドさん?のおかげで無傷だよ。あ、ボルドさんて私達のことを助けてくれた人だよね?お礼しなきゃ。」美久はそう言って髪と身だしなみを軽く整える。


そういえば、美久は気を失っててボルドの顔を見てないのか。あとで、紹介しよう。


美久と一緒に階段を降りて部屋に入ると、テーブルの上にたくさんのご馳走が並べられていた。


漫画で見るような骨付きの肉がテーブルのど真ん中にこれでもか!と置かれていたり、他にもタコ(さっきのヤツかな?)の酢の物やシチューのようなものもある。


それら全てから、芳しい匂いがしてきて食欲のスイッチを連打する。


『グゥゥ〜』俺と美久の二人のお腹から同時に音がなって、二人で顔を見合わせて笑い合う。


「なんだ、お前さん達腹減ってたのか!好きなだけ食え!おかわりもたくさんあるぞ。とりあえず座って食えや、俺も腹減ってしょうがねぇ。ハハハ!」


俺と美久は言われるがままに椅子に座る。


『いただきます!!!』三人でいっせいに挨拶をすると、三人同時にテーブルの中央に陣取る骨付き肉に手を伸ばす。(皆考えることは一緒だな(^_^))


それに一気にかぶりつく。肉汁がここぞとばかりに溢れてくる。その肉は絶妙な塩加減で焼かれ、その上にピリ辛なスパイスがかかっており、それが一層肉の味を際立ている。さらに凄い量の肉汁だがサラッとしていて全くしつこくない。


お腹が空いていたのもあるかもしれないが、それを差し引いても今まで食べた肉の中でダントツに美味しかった。


美久も余りに美味しかったのか、一旦肉を皿に置いてそれを凝視していた。(何やってんだ?笑)


そしてボルドもそこまで美味しそうに食べる俺達が面白かったのか、とても嬉しそうに笑っていた。


次にタコの酢の物に手を付ける。予想通り、ボルドが倒したクラーキエンの触手だった。


恐る恐る、口に入れてみる。絶品だった……


口に入れて噛むとどんどん旨味が溢れ出してくる。弾力が強いのでたくさん噛むが、その度に最上級の旨味が口の中を支配する。それは食道を通ったあとも抜けない余韻を残していった。


旨味は若干重い感じもしたが、一緒に入ってた酸味が強めのお酢がさっぱりさせてくれた。


(人は見かけによらないって言うけど、あんな気持ち悪いモンスターでも同じことが言えるなんて……)


結局、ボルドが作った料理の数々は全てが絶品だった。


ボルドに何故ここまで料理が上手いのか聞くと、


「昔、イゼッタ王国直属の料理人でな、あそこの料理人集団は料理人でもあり、全員がAクラス以上の戦士達で構成されていたんだ。だから、全員が食材の調達から一人でして、料理を作ってたんだよ。今はこんな場所にいるが昔は俺、結構エリートだったんだぜ?ハハハ」ということらしい。


15年程前に、ボルドの料理を不味いと言ったやつがいてそいつを殴ったら、ここに飛ばされたらしい。


(ちなみにイゼッタ王国という場所はここから120キロほど離れた場所にあるらしい。あと、殴った相手はどこぞの貴族の跡取りだったらしい。多分そいつ死んだな……)


そしてここで暮らし始め、自給自足の生活を送ってきたらしい。


ボルドの身の上話を一通り聞くと、今度は美久が意を決したように話し始めた……








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三兄弟と命を拾われた女子高生、異世界に行く 大根の煮物 @DAIKONNONIMONO

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