哲&透子編3

日曜日当日、俺達は話し合いの結果東京タワーに行こうという話になった。

俺は東京駅の丸の内中央口付近の壁に寄りかかる。

休日の人混みの多さに少しだけ息苦しさを感じつつも彼女を待っていた。

集合時間の20分前。

少し早く着きすぎたかもしれないな........。

なぜ、最寄りの駅集合じゃないかだって?

少しだけ羞恥心が芽生えたからだよ。

学校のやつらと会うかもしれないしね。

からかわれるとめんどくさい。


いきなりスマホの着信音が鳴る。

母親からだった。

俺は駅構内の喧騒から少し離れて、人の少ない場所に移動する。


「もしもし」

「大丈夫?緊張してない?ちょっと早く着きすぎちゃったじゃないの~?」

「早く着きすぎたけど、緊張はしてないから大丈夫だよ」


母のお節介を軽く受け流しつつ、深呼吸した。

冬の白い息が宙に浮かび上がった。


「透子ちゃんとのデートなんでしょ?」

「デートって.......そんな大袈裟なものじゃないよ」

「でも、あの子のこと好きなんでしょ?」

「っ.........」

「す、好き、だよ..........」


俺は何を言わせられてるんだと思いながら前を見ると、驚いた表情をした透子が立っていた。

彼女は何か言いたげな口を閉じて改札の方へ歩きだす。


「え!?ちょっと待って!!!」


彼女は俺の声が聞こえてないのか、どんどん先に進んで行ってしまう。

俺は電話を切って彼女を追いかけた。

幸い彼女の方が走っていなかったので、すぐに追いつくことが出来た。

俺はとっさに彼女の手を握って、こちらを向かせる。


「どこ行くんだよ」


彼女は少しだけ涙ぐんだ顔をしながら俺の顔を見ていた。


「哲くんって好きな人いたんだね.......」


透子が小さく呟く。

バレてたのか.......。


「いるよ」


俺は正直に答える。


「何で私のことを誘ったの?」

「それは.......」


お前が好きだから、とは恥ずかしくて言えなかった。


「そっか......言えないよね」


透子は俺の手を振り払って、いつもの冷めた目になる。


「彼女さんによろしくね。さようなら」

「は?」


透子は改札に入っていく。

俺もカードを取り出して自動改札機を通り抜ける。

もう一度、彼女の手を掴んだ。


「離してよ」

「いやだ」

「離してよ!!!」

「絶対に嫌だ!!!」


俺は振り払おうとする透子の手を離さなかった。


「お客様どうかされましたか?」


女の駅員さんが俺達に駆け寄ってくる。


「何でもないです、ご迷惑おかけしてすみません」


俺は駅員さんに謝罪する。

その時も透子の手を離さなかった。


「いえいえ、でもここは駅構内なので彼女さんとの痴話喧嘩は程ほどにしてくださいね」

「か、かのっ!?」


俺がなにか言う前に駅員さんは業務に戻っていってしまった。

透子を見るとなんとも言えない顔でこちらを見ている。

俺達は邪魔にならないところに移動して向かい合った。


「さっきは強く引っ張っちゃってごめん」

「私こそ、取り乱してごめんなさい」


透子も涙を拭きながら謝ってくる。

俺は頭を少しかきながら、彼女に言う。


「なんか色々と勘違いしてたようだけど、俺は彼女いないからな?」

「え?だってさっき電話で.......」

「あれは母親と話してただけだよ」


俺は透子に着信履歴を見せる。


「哲くんってマザコンだったの?」

「違うよ!!!俺が好きだって言ってたのは.......」


言うのは簡単なはずなのにいざというときに恥ずかしくなってくる。

俺は一瞬の逡巡を乗り越えて、透子の肩を掴む。


「透子のことが好きだ。俺とデートしてくれないか?」


彼女は口を開けて固まる。


「あ、でも、透子が嫌なら無理強いはしないから........」


俺は慌ててしまう。


「ふっw」


透子が一笑しながら俺を見ていた。


「な、何で笑ってんだよ~」

「いや、ごめんごめん。あまりの慌てように我慢できなかったw」


彼女はいつものクールな顔を崩しながら笑っていた。

俺はそれを見て自然と胸が高鳴った気がする。

彼女は笑いを収めた後に俺の目を見た。


「私も哲くんのこと好きだよ。だから、『デート』の続きしよっか」


透子は屈託のない顔で笑っていた。


「普段のクールな透子も良いけど、笑顔の透子はもっと好きだな」

「そ、そう........ありがとう」


俺はさっきよりも暖かくなっている彼女の手を繋いで、人々の流れの中に消えていった。











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