哲&透子編2

静かに弓を引く。


ストッ


静かな音を立てて矢が必中した。

私は小さく息を吐く。

もう一本。


弓を引き放そうとした瞬間に、今朝の彼の顔を思い出してしまう。


「あっ........」


つい声が出てしまった。

矢は的捉えられなかった。

私は二つの恥ずかしさで顔が赤くなる。


「あれ?珍しいじゃん。透子が的を外すなんて~」


友人の滝下涼子(たきもとりょうこ)が私に話しかけてきた。

そして、彼女は私の顔を見るやいなや何かを察したようにニヤつく。


「ま~さ~か~、『愛しの哲君』と何かあったの~?」

「う、うるさい!!!」


図星を突かれた私はニヤけてしまう顔を両手で必死に隠す。


「あらあら、青春しちゃって........。透子もリア充か~」


涼子が追い打ちをかけてくる。


「ち、違うよ。まだ哲君とはそんな関係じゃない!」

「まだ、ね~。はいはい、リア充乙~」

「も、もうっ!!!」


私は普段のクールな顔を台無しにしながら涼子の体を揺らす。

揺らされている彼女は「あははっ」と笑っていた。

だめだ、なんだか彼から間接的に朝の仕返しを受けてるみたい.........。

その後の練習はなかなか身が入らなかったのでそのまま終わることにした。


学校が終わって家に帰った後も彼のことが頭から離れなかった。


「はぁ.........」


私は抱き枕を抱きしめながらスマホの画面を眺めていた。

明日は土曜日で部活の練習がある。

そのために早く寝なければならないのだが、哲君のメッセージを待っていた。


『日曜日どうするの?』


私はこのメッセージに既読が付くのを待っていた。

しかし、なかなかつかないので電源を消して落ち着くために本を読む。


ピロン。


数分後、通知音が鳴った。

画面を見てみると彼からのメッセージが一通届いていた。


『もちろん、俺も午後から暇だから一緒に遊ぼう!!!』


私はそのメッセージを見て少しだけ胸を撫で下ろした。


「はぁ~」


一度、息を吐いて心を落ち着ける。

予定は明日の夜までに決めると話し合ってスマホの電源を落とした。

暗くなった画面に私のニヤけ顔が写っている。


今日はダメだな........。

せめて哲君とのお出かけの時はしっかりしないと........。

だって哲君はこんな私じゃなくて、もっとクールな私が好きなんだから。

スマホに充電器を挿して机の上に置く。

そして、部屋を豆電球にする。

私は布団に入り、ゆっくり目を閉じた。


日曜日のことを考えながら意識が薄れていくのだった...........

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